星月の蝶

碧猫 

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1章 呪いの聖女

プロローグ 御巫の運命

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 朝、目が覚めると、隣にフォルがいない。

「エレの側いるって言ったのに」

 ミディリシェル、改め、エンジェリアは部屋をきょろきょろと見回した。

 だが、フォルはいない。

「ごめん、もう起きたんだ。ゼロと一緒に朝食当番で作らないといけなくて」

 ゼノン、現在はそう呼ばれているが、かつてはゼーシェリオンと呼ばれていた。その事も、今なら覚えている。

 ゼーシェリオンとフォルが、エンジェリアに抱きついた。

「寂しかったよね?ごめん」

「なんで助け来ないんだよ。ずっと助けてって言ってたのに。エレの裏切り者」

 ――右と左で温度差が違いすぎるの。風邪ひきそうなの。

 ゼーシェリオンとフォルの温度差に、エンジェリアは、寝起きでそんな事を考えていた。

「フォルの匂い落ち着く……ふみゃ⁉︎ケープ返すの」

「ああ、そういえば貸してたね」

「ふみゅ」

 エンジェリアは、フォルにケープを返してから、フォルの匂いを嗅いだ。

「やっぱこれが一番安心する。安心の匂いがする」

「エレ、話があるから、リビングに来てくれる?今から」

「じゃあ、お洋服着替えないと」

 エンジェリア達三人は、普段から誰かの部屋で一緒にいる事が多く、自室へ戻らずとも服が置いてある。

 エンジェリアは、フォルに着替えを手伝ってもらった。

「ふみゅ?なんか傷が」

「ほんとだ。ちゃんと治したはずだけど」

「……ふみゅ。そういえば夜にケーキしゃんに攻撃される夢見たの」

「原因それだろ。お前何に攻撃されたんだ?机か?棚か?」

「今日から僕がぎゅぅって抱きしめて寝てあげよっか?そうすればこんな傷増えない」

「ふみゅ。お願いするの」

 フォルが回復魔法を使い、エンジェリアの傷を治す。

「リビングまで手、繋いで行っても良い?」

「ふみゅ。ついでにゼロも良いの。三人で一緒に。そうしたらエレが転びそうになってもどうにかなるの」

「転ぶなよ」

 エンジェリア達は、三人で手を繋いでリビングへ向かった。

      **********

 フォルが言っていた話というのは、御巫に関する事だった。

 御巫になる方法と、御巫の運命に関する話だ。

「僕が知っている話だと、御巫は、神獣達が認めないとなれない。でも、御巫に近くなるとなぜか行方不明になってるんだ」

「なんだか怪しい雰囲気なの」

「うん。怪しい事をしてるんだろうね。でも、その証拠がない以上こっちからは手の出しようがない。本来の役割とは違うっていうのに関しても、今のままだと言い逃れされるのがオチだ。実際、エクシェフィーの御巫は、黄金蝶と結婚しているから」

 エクシェフィーの御巫夫婦は、本来の役割を果たし、黄金蝶を支えているだけだと、現段階では言い逃れできるのだろう。

 エンジェリアは、その辺の内情に詳しくはないが、エクシェフィーの御巫夫婦が、聖星の御巫と黄金蝶であるという事だけは知っている。

「今更なんだけど、御巫ってどうやって選ばれているの?」

「聖星と聖月から一人ずつ。それと、黄金蝶は性別がないから、男女一人ずつ選ばないとなんだ。聖星とその子孫は、世界の声を聞く事ができ、未来または過去を視れる。聖月の方は、聖月の秘術……ロストの秘術の方が伝わるか。それと、魔力の親和性」

「その最低条件の中から、黄金蝶が気にいる相手を選ぶ」

 何度も聞いている話で、エンジェリアはゼーシェリオンで遊んでいるが、リーミュナ達は、首を傾げている。

「それだけ?」

「ああ」

「それならロストの王族は全員可能性があるって事にならない?」

「ロストは聖月の直系だから。でも、ロスト以外だと、珍しいよ。今もまだそこまで濃い血を持っているのは」

「ふみゅ。フォル、あっちも説明しないとじゃないの?もう一つの御巫候補の条件」

「ああ。そうだったね。もう一つ、聖星と聖月が揃ってる事だ。これに関しては、導きがある二人組限定だけど」

 リーミュナ達には、この話の方が分かりづらいのだろう。全く理解していないという表情をしている。

 エンジェリアは、これも何度も聞いた話で、ゼーシェリオンで遊んでいる。

「それで、ここからが重要な話。御巫候補は、片方しか御巫として選ばれない。どちらか一方が諦めてなんて話じゃなくて、どちらか一方しか生きられない。もう一方は……ごめん、流石に一組だけだから、まだ分からない。でも、御巫になった相手を会えはしないんだろうね」

「ふみゅ。エレとゼロが前にあった事だよね?本人の意思関係ない殺し合い。エレとゼロは、二人一緒だったからなんともないけど」

「精神魔法でって考えれば、誰かと一緒に行動しているのが一番なんだろうな。昔も、エレが一人で迷子になっていたところを狙われたから」

 エンジェリアは、迷子の話をされて、ゼーシェリオンに猫パンチを繰り出した。

「そういえば、ずっと気になってたけど、エレとゼロって」

「気にしなくて良いの」

「ああ、つい癖で。それで、ここから先が、君らが聞きたい話だ。御巫に選ばれる方法。それは一つだけ。神獣に認められる事。でも、後ろ盾があった方が何かと便利ではあるのかな」

 エンジェリアとゼーシェリオンが、聞きたかった内容。御巫に選ばれたいが、御巫に選ばれる方法を今まで調べた事すらなかった。

 神獣に認められるというのは、エンジェリアには、困難な道のりだろう。だが

「エレが……ミディが認められないのを変えるんだから、可能性はあるの」

「うん。本来は、御巫候補として一定の期間いるだけで良いから、元に戻れば、君らはすぐにでもなれるからあんまりこの話を気にしないで良いからね?」

「ふみゅ。じゃあ好き勝手するの。でも、御巫になるには、もっと協力者を増やさないとなんじゃ」

 神獣は現在多くを占めている五種族を圧倒する存在だ。それが、何千何万といる。そこに少人数で挑むのは無謀だろう。

 それ以上の実力持ちでなければ。

「神獣とやり合えるのなんて、神獣僕らを除くと、ミディとゼノンくらいだからね」

「それでも、下の下くらいしかむりなの。下の中ですら、ちょっと分かんないの」

「わたし達も、あまり力になれないかもしれないけど手伝うよ。聖女として築いてきたものとかあるから」

「ティア、もう少し聖女らしくお淑やかにして。ボクも、少しくらいは力になれるかな?」

 金髪の少女と少年がリビングを訪れた。
 現在はここを離れていた住民。ミティアーネルとエルだ。

「わたくしも協力しますわ。愛するエレのために」

「なんて言っておきながら、ゼロの事も心配していたの見てたんだけど?」

「ゼロ、久しぶり。オレも、何もできないかもしれないけど、協力する。させて欲しい」

 ロストの王族達、ルーヴェレナにレイン、それに、ゼーシェリオンの実兄のゼムレーグ。

 ゼムレーグは、真っ先にゼーシェリオンの元へ駆け寄った。

「ゼムは、聖月の秘術を何も使えねぇ俺と違って、全部使える才能だけはあるんだ。だから、こっちから協力を頼みたい」

 ゼーシェリオンがゼムレーグに構い、エンジェリアは、誰にも構ってもらえなくなった。

 むぅっと不貞腐れていると、背後から手紙を渡された。

「月鬼様とリナ様から手紙。行けんけん、協力はするゆうてた」

「ありがと」

 魔族の少女リミアから、手紙を受け取った。

「ふみゅ。がんばってるみたい」

 手紙は近況報告だ。エンジェリアが知る文字で書かれているため、すらすらと読めた。

「昨日の連絡ぶり。思ったより元気そうで安心した。それと、これ」

「ルノ、報告書の提出って期限切れてんだけど?」

「……忙しかった」

「渡してくれるだけ良いよ。なぜかまだこれ入れて三枚しかないから。でも、僕の補佐なんだから、示しがつかなくならない範囲でこういう事はやってよ?」

 エンジェリアは、気をつけろと言わないあたりがフォルらしいと、笑いそうになる。だが、背後から嫌な気配を感じ、口を開けなかった。

 ――ルノ、今は管理者としてフォルの補佐ってちょっと羨ましいの。エレも頼られたいのに。

 かつてはギュゼルの一員で、現在は管理者としてフォルの補佐をしているルノが、フォルに頼られているように見える。

「……口開けて」

「……」

「ミディ、ルシアが持ってるのただのクッキー」

 エンジェリアは、フォルにそう言われ、口を開けた。

 甘いクッキーが口の中に入る。幸せ気分を味わうエンジェリアを、ゼーシェリオンが物欲しそうにみている。

「ゼロも」

「ありがと。ふぃ……ルシア」

「もう潜入調査は済んだから、昔のように呼んで良い」

「フィル、らぶなの」

「フィル、昨日はありがと」

「気にしなくて良い。ちょうど、帰り支度をしていたから」

 フォルの双子の兄のフィル。ミーティルシアという名で、魔法具技師をしている。

 エンジェリアは、フィルに抱きついて、顔を擦り寄せる。

「エレ、フィルとお話あるから。行こ」

「ああ」

 エンジェリアは、いてもする事がない。聞きたい話は聞けているため、フィルを連れてリビングを出た。
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