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0章 星が選ぶ始まりの未来
エピローグ フォルの想い
しおりを挟むギュリエンの最後からどれだけ探し続けていたんだろうか。あの日、見たものを忘れられない。大好きだった場所。僕の居場所。そうなるまで時間がかかったのに、壊れるのはあっという間だった。
オルにぃ様達が、僕のした事をかなり長い間隠してくれていた。だから、僕はギュリエンを枯らせた魔法の暴走の事を知られずに、外に出る事ができた。
でも、それが全部バレて、神獣の所有する施設に監禁された。
その間、何度も、あの日の事を思い出しては後悔した。目を閉じると、ギュリエンの……あの日々の光景が鮮明に浮かび上がる。その度に、もう、戻る事のできないと知り、何度も泣いていた。
エレとゼロは、心配だったからクロに面倒を見るように頼んだ。
魔力を通して視た、僕のいない世界。そこで、エレとゼロは、クロを頼って暮らしている。それを見て安心した。これなら、僕がいる必要はないだろうって思った。
ずっと視れるわけじゃないから、視ていないとこでどんなふうに過ごしていたのかは知らないけど。
前々回の事。
『フォルを探すの!』
エレがそう言って僕を探してくれた。見つかるはずない。探すだけ無駄なんだ。でも、そう思っていても、その行動が、堪らなく嬉しかったんだ。
でも、それがエレを狙う連中には絶好のチャンスになってしまっていた。その連中の罠に嵌って、エレは、精神破壊魔法をかけられた。
エレは、呪いとかは効かない体質なんだけど、精神系の魔法に関しては、耐性がなさすぎるんだ。元々不安定なのも原因の一つにあるかもしれないけど、それだけじゃないと思う。普通はかかんないような、ちょっとした洗脳魔法すらかかるから。
それが原因で、エレは世界を崩壊させかけた。
そんなエレの前に立ち塞がったのがゼロだったんだ。
ゼロは、エレにかけられた魔法を解く事なんてできない。エレを止める事なんてできない。力づく以外は。
御巫はどちらか片方だけ。二人一緒になる事はできない。これは、その運命がそうさせたのだろう。
エレとゼロ、どちらかしか生き残れない。どちらかが生き残るんだろう。実力的には、ゼロの方が生き残る可能性は高いか。そう思ってた。
でも、結果は相打ち。ゼロが最後まで命懸けでエレを守ったんだ。最後までエレを元に戻そうとしていたんだ。
僕は、魔力に頼んで、二人をここへ連れきてもらった。
今の僕に、致命傷を治す事なんてできない。もし、この場所じゃなかったら、二人の傷をすぐにでも治してあげられたけど。
二人とも、もう助からない。
「……ふぉ、る?やっと、見、つけ、た。もう、どっか、いか、ないで」
ゼロが命懸けで守ったものは、願ったものは、最後の最後で叶った。エレを元に戻せた。エレは、僕を見て、笑ってくれた。
僕はそれに、何度もごめんって謝っていた。それしかいえなかった。エレの前で泣いていた。
エレの方が傷が浅い。これも、ゼロが守ってくれたからなのかな。
今の僕には、エレとゼロの痛みをなくす事しかできない。
エレが笑ってくれているのに、笑顔を返す事もできない。
「ずっと、一緒に、いて」
その言葉を最後に、エレは目を閉じて、動かなくなった。
その後、ゼロが薄らと目を開いて、力のない手で、僕の手を握ってくれた。
「ずっと、一緒に、いる」
それは、僕とエレに向けた言葉。ただそれだけを残して、ゼロも動かなくなった。
その時、決めたんだ。エレとゼロを御巫の運命から解放するって。
そのために、絶対に失敗しないようにと計画を練った。エルグにぃ様やルーが、自分の選んだ御巫候補といられるようにとか考えて。
この計画が成功すれば、みんなと会う事はない。それで良いと思っていた。
楽しかった日々も最後の時も、全部忘れようとしたけどできなかった。
探していたけど、会ってどう声を掛ければ良いかなんて分からない。
そもそも、見つけたとしても、会う勇気なんてない。
数える事もやめたくなる程長い間、ずっと探していて、見つからなくて、エレ達の事もあって、諦めない事に疲れていたんだ。
だから、あの日に囚われたまま、全部諦めようとしたんだ。こんな言い訳ばかり並べて。
**********
前回、僕は、外に出る事を許された。
そこで、計画を実行した。
色々と想定外の事があったけど、計画に支障をきたす事はない。
「逃げないで」
あの子は、ミディは、記憶がないのに、エルグにぃ様とルーの話だけで、それに気づいたんだ。
ギュリエンの景色に、エレの言葉。それがあって、この計画を諦めたというわけじゃないんだ。それも大きいけど、エレをここに導いたのが誰か、それに気づいたのがなければ、そんな事で諦めていなかったと思う。
全部、エレとゼロを一緒にいさすためって、迷う事なかったと思う。
僕は双子の兄とエレとゼロのような共有に似た事ができる。
何年会っていないのか思い出せない。僕のたった一人のほんとの兄弟が、エレを導いたんだ。ゼロと一緒に。
――エレ、ゼロ、おれの大切な片割れを頼んだ。必ず、おれの弟として、一緒にいられるようにしてくれ。
僕にとって、フィルは、兄は特別なんだ。だから、その言葉は、迷いを生むには十分すぎる言葉だった。
今も、ほんとにこれで良いのかって少し思う。後悔ばかりだ。それでも、前を向ける。みんなと会って、謝ろうって思える。ちゃんと向き合えると思う。
その勇気をくれたのは、他でもない、エレなんだ。あの子の言葉が、あの子の歌が、その勇気をくれた。だからもう逃げないよ。もう、諦めないよ。なんて、先の事なんて分からないから、言い切れないんだけど。
でも、少なくとも、みんなの事は諦めない。
そういえば、エルグにぃ様やルーにも感謝しないと。伝言の事と言い、ナティージェの事と言い、色々と助けてもらったから。それに、変わらずに接してくれる事。それが何よりもの救いだ。
**********
エレはぐっすり眠っている。相変わらず、寝ているとおとなしくて可愛い。普段も可愛いけど、別の可愛さがある。記憶を思い出す魔法はちゃんとかけてあるから、起きたら思い出してるだろう。
「けーきしゃん……一万ホール」
思わず笑いそうになった。どれだけケーキ好きなんだよって言う前に、これ全部フルーツタルトなんだよね?
そう思うと、絶対飽きるでしょってつっこみたくなる。
「……」
そういえば、睡眠学習ってあるよね?エレにも効果あるかな?可愛い連呼してたら洗脳できたからあると思うけど。
「エレ、エレは僕のだから、僕以外の言う事は聞いちゃだめだよ?」
寝てる時、毎日これやってればそのうちせんの……教育できないかな。
「……うん。ゼロ達の案内お願いできる?」
魔力頼んでおけば、そのうち帰って来れると思う。流石に可哀想だから。
「エレのけーきしゃんは?」
悲報!エレ、夢の中でケーキ貰えなかった。なんて、考えてると、ほんとに笑いそうになる。
あっ、メッセージ届いた。
『ゼロが泣いてる』
『どうにかしろ』
なぜ、エルグにぃ様とルーは、わざわざ一度に送らずに二人で分けて送ったんだろう。
ってまたきた。
『おかえり。ドクグリクッキーを今度みやげに持ってく』
フィルからだ。
わざわざ珍味を選ぶのがフィルらしい。
ってまただ。今度はゼロ。こんな事せずに寝れば良いのに。
『約束守るから。ごめん、あんな最後を見せて。ありがと、最後、側にいてくれて。これからは既成事実とか色々と作って逃げ場をなくして……考えただけで楽しみだな。それと助けてください。お願いします。虫がいっぱい助けてください。ほんとむり。助けてください』
ううん。礼を言うのは僕だよ。思い出してくれてありがと。最後に手を握ってくれてありがと。側にいるって言ってくれてありがと。
今度はグループ通話。今日は連絡が多い日らしい。
『エレから頼まれていたんだ。当時者だけなら、フォルも言いやすいだろうから、フォルにみんなに言いたい事を言わせてと。きっと届くからと言っていた』
エレが頼んで、今いる当事者達を、二人が集めてくれたんだ。
記憶なんてないのに、なんでこんなとこまで変わってないんだろ。
「ねぇ、みんなは、ギュゼルの統率がこんなに弱くて泣き虫だって知ったら幻滅するのかな?それとも、受け入れてくれるのかな?あの時の事、みんなは許してくれる?ううん、許さなくて良い。でも、また会いたいよ。また、一緒に笑いたい」
ずっと抑えていた想いが溢れる。
「だから、探すのを諦めなくて良いかな?絶対に見つけるって言っても良いかな?もう一度、君らとおんなじ景色を見たいって思って良いかな?あの頃のように……ううん。あの頃以上を望んでも良いかな?僕は、あの頃以上に、みんなが笑って幸せな時間を一緒に過ごしたい」
エレが届くって言ったのは、奇跡の魔法の代償で、強い想いが、その人に届くっていうのがあるからかな?
そういえば、あの時、夢の世界で、みんなと繋がれたよね?覚えていないと思うけど、嬉しかった。
「フュリーナ、リーグ、ミュンティン、リガー、デューゼ。必ず見つけるから。もう、諦めないから」
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