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0章 星が選ぶ始まりの未来
14話 温もりの夜明けと不器用な光
しおりを挟む森の中の開けた場所。変わらずある洋館。前回と変わらぬ景色。
「意外と早かったね」
「ふみゅ。フォルに会いたくて急いだの。フォルが結婚してくれるって言っていたから」
「それは言ってない」
「じゃあ、ミディ達、転生したら一人ぼっちになっちゃうの」
フォルの目的は、ミディリシェルとゼノンを御巫という運命から救う事。だが、そのための方法でこれを選んだ後、ミディリシェルとゼノンをどうするのか。そこについては何も聞いていない。
ミディリシェルは、まずはそれを確認するため、結婚の話を出した。
「一人にはしない。転生した君らを必ず見つけ出して、ずっと一緒にいる。こんな事をして、君らから、今あるものを全て奪うんだ。その責任は取る」
「ふみゅ。飼ってくれるの?」
「従順なペットなら。君のような何しでかすか分かったもんじゃない猫なんて飼う気にもなれない」
「ふぇ」
「エレ、お前に悪いがこれは俺も同意」
「いじわる。分かったの。でも、それでも止めるの」
――たった一度だけ。どこで使うかはミディ次第。なら、一番の可能性に賭けたい。ゼノンに手伝ってもらって愛魔法を使えば、今のミディでもできるはずなの。問題は、記憶にない場所をどうやって再現するか。
フォルに、ミディリシェルとゼノンが御巫として二人一緒にいられると示す事はできない。だが、それでも止める方法は一つだけ思いついている。
前回は愛魔法を使えず、それができなかったが、今回は愛魔法が使える。
だが、チャンスは一度だけ。失敗などできない。
「ゼノン、ミディに協力して」
「ああ」
――まずは、あそこがそんな場所だったか。それを思い出さないとだけど、どうすれば……
どうにかして記憶を取り戻さなければならないが、そんな事は今直ぐにできないだろう。
――思い出す必要なんてないよ。方法を変えれば良いんだ。エルグにぃとルーにぃは知っている。愛魔法で共有の強化をすれば繋げられる。それで、あとはミディのがんばりでどうにかすれば……お願いできるかな?
ミディリシェルは、愛魔法を使い、ルーツエングとイールグから、ある場所の記憶を共有で見せてもらう。
――これで良いか?それと、ミディ今から言う事を伝えてくれ。
――ふみゅ。ありがと。あとは任せて。
収納魔法から、魔法杖を取り出し、両手で握る。
「メロディーズワールド、歌をこの媒介にして。エレの下手なお歌を聞くの」
そう言って、魔法杖を右手で持ち、左手を胸に当てた。
「朧げの場所。閉じ込められた世界で、ずっと一人で泣いていたの。
何年も何年も
伸ばした手、触れる事のない温もり。その温もりが、エレをそこへ導いたの。エレのたった一つの救いだった。
それが、あなただたんだ。
忘れないで、忘れないよ。この温もりを。この感情を。ずっとずっと、何千何億と転生しようと。絶対に、忘れなんてしない。何度だって絶対に、届ける。
ずっと一人。誰もいない。そんな中で家族ができたの。
初めての優しさ
不器用で、慣れてないところもあったけど、それが好きだったんだよ。それが、エレを笑顔にする魔法になってたんだ。
ずっとずっと
泣かないで、泣かないよ。だから、犠牲になんてならないで。勝手にいなくならないで。お願い、エレを一人にしないと誓って
暗い場所、なにもない。誰もいない。
そこに、一つの光が見えたんだ。黄金の夜明けが差したんだ。
忘れないで、忘れないよ。この温もりを。この感情を。ずっとずっと、何千何億と転生しようと。絶対に
泣かないで、泣かないよ。だから、犠牲になんてならないで。勝手にいなくならないで。お願い、エレを一人にしないと誓って」
ミディリシェルが、歌を奏でていると、景色が変わった。
自然と建造物が共存する場所。かつての、死の大地と呼ばれる前のギュリエンの都の景色だ。
ミディリシェルが、ルーツエングとイールグに頼み、見せてもらったのはこれだ。
メロディーズワールド。ミディリシェルの歌は、その制度を上げる。そうしてできたのが、二人の記憶をそのまま再現したこの景色。それは、フォルの記憶とも相違ない景色だろう。
「……っ⁉︎」
「フォルにとって、この場所は特別なんだよね?この特別な場所で、また血を流すの?また、誰かを、ふきゃ⁉︎」
突然地面に穴が開き、ミディリシェルは、穴の中に落ちた。
「ふきゅぅ」
「ミディ、大丈夫か?」
「大丈夫」
かなり深く、ミディリシェルでは登る事はできそうにない。
「ふみゃ⁉︎」
穴の中は薄暗く、落ちた時は気づかなかったが、虫が大量にいる。
その大量の虫が、ミディリシェルの身体にくっつく。
「ふきゅっ⁉︎」
虫が、皮膚を食い破り、血が流れる。
「……血の匂い?ミディ」
「動かないで」
フォルの声。ミディリシェルは、その声を信じて、じっとしていた。
ミディリシェルにくっついていた虫が次々と落ちていく。落ちていった虫には、針が刺さっている。
「ふぇ」
「なんで直ぐに助けを求めないんだよ!」
「ふぇぇ」
ミディリシェルの記憶の中では、フォルがこうして声を荒げて怒る事など滅多になく、瞳に涙を溜めて、びくびく怯えている。
「だって、ゼノン虫さんきらいだから」
「だからって」
「ぴぇ」
「……ごめん。怖がらせるつもりはなかったのに」
そう言って、フォルが回復魔法を使った。
傷が塞がり、止まらなかった血が止まった。ついでに、ミディリシェルの怯えも止まった。
「さっき落ちちゃって聞けなかった答え、聞かせて」
「卑怯だ。答えなんて分かりきってる事なのに」
「うん」
「僕にそんな事できるわけないだろ。また、この場所を汚すなんて、できるわけない。ここは、僕の……みんなの思い出の場所なんだ。大事で、大好きで、大っきらいな場所なんだ」
フォルの瞳から、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
ミディリシェルは、黙ってフォルの頭を撫でた。
「どうして諦めさせてくれないんだよ。もう、諦めさせてよ」
「逃げても良いの。でも、大事な事からは逃げちゃだめなの。逃げたら、後悔するから。フォルにとって、それは大事な事なんじゃないの?だったら、もう逃げないで。ミディ達は大丈夫だから。もっと自分の事も考えて」
「そんなのできるわけない。僕は、こうする事でしか、みんなに」
「黄金蝶らしくない優しい愚か者。どうして何も相談してくれないんだ。どうして一人で全部背負おうとするんだ。言い訳なんてするなってルーにぃが言ってた。フォルのそのみんなは言い訳なんじゃないの?そうやって逃げる言い訳。だから、ミディに聞かなかったんじゃないの?あの一言を」
「……それは……そう、かもしれないね……エレ、あれは最悪の結果だった?」
ミディリシェルは未来視を使う事ができる。その未来視は、可能性の未来をいくつも視せる。
ミディリシェルは記憶にないが、イールグにその結果を伝えていたらしく、共有を使った時、伝言と共に伝えられていた。
「ううん。一番良い結果だった。あれがなければ、もっと酷い被害が出てた。でも、フォルの大事な人達は助かっていた未来もあった」
「……そっか。そう、だったんだ」
それは慰めなどにはならないだろう。だが、それを聞いた事で、少しでも前に進めただろう。
フォルは、涙を拭いて、ミディリシェルに笑顔を見せた。
「ねぇ、もし、僕のわがままで君らをこの救いようのないような運命のままでいさせて、みんなは怒るかな?」
「ううん。怒んないと思うの。応援すると思う。ミディには記憶がなくて分かんないけど、なんとなくそう思うの」
「うん。ありがと。もう、ギュリエンの事から逃げないよ。ちゃんと向き合う。それに、ゼロはともかく、エレは、僕と結婚できないなんて転生した後でも、ずっと言ってきそうだから、別の方法を探すよ」
「良く分かったの。いつ分かったの?」
ミディリシェルに記憶はないが、御巫というものが、黄金蝶と結婚する権利だと言う事は、本を読んで知っている。それを失うというのは、結婚する事ができなくなるという事も。
ミディリシェルは、一言もそんな事を思わせる発言をした自覚はなく、不思議に思っている。
「君の歌。あれなんて言うの?」
「みゅぅぅ……温もりの夜明けと不器用な光」
「その歌。ゼロには一人にするなって言って、僕には忘れさせたとしても絶対に結婚を諦めないって言っているようにしか感じなかったんだけど」
「ふみゅ。その通りなの。ミディ、とってもわがままだから」
ミディリシェルは、そう言って、フォルにとびっきりの笑顔を見せた。
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