星月の蝶

碧猫 

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0章 星が選ぶ始まりの未来

11話 迷子

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 歩いていたら、なぜか大通りへ出た。

 ちょうど昼時。人気そうな食事処では行列ができている。

 ――こんなに並んでいるとお昼終わっちゃいそう。でも、これだけ並んでも欲しいものって気になるの。

 ミディリシェルは、行列を眺めながら歩いていると、何もないところでつまづいて転んだ。

「ふきゃ⁉︎これで十回目なの」

 ここへ来るまでの間、ミディリシェルは、九回転んでいる。これでちょうど十回目。

 一時間も歩いていないのに、これはいくらなんでも多すぎるのではと、気にはなるが、それ以上に気になる事でかき消された。

 ――ここどこなの?

 ミディリシェルに迷子になっているという自覚はない。というより、受け入れられていない。だが、どこか分からない場所に来ているという事だけは受け入れている。

「お嬢さん、お昼まだですカイ?」

 シェフのような格好をした、体格の良い男が、ミディリシェルに声をかける。

「ふみゅ。まだなの」

「なら、ワタシの店で食べて行かナイ?」

「ふぇ」

 ゼノン達がミディリシェルを待って、まだどこにも行っていないかもしれない。だが、今朝、ここへ来る前に、ミディリシェルは、幾らか金を貰っている。その金で何か食べているだろうと、どこかへ食べに行っているかもしれない。

 連絡手段がなく、知る術がない。

 ――むみゅぅ。とりあえず、お昼にするの。分かんないから、気にしない事にすれば良いの。

「行きまちゅ」

 とりあえず、みんなもどこかで昼食を済ませている。そう信じる事にした。
 
 ミディリシェルは、シェフの格好をした男について行った。

      **********

 広く、豪華な装飾。赤い壁紙は、見るからに良い素材を使っている。

 これは、かなり高級な店に来てしまったのでは。そう思い、持ち金で足りるのかと心配になってくる。

「あの、やっぱ、やめておきまちゅ。お金、今、そんなに持ってないから」

「ワタシから頼んだから金なんて取らなイヨ。困っているみたいだったから、声かけたんダヨ。気にせず、好きなもの選ンデ。今日開店で、まだお客サン少ないから、好きな席座って」

「ありがと、ございます」

 ――こんな人もいるの。とってもあったかい。

 ミディリシェルは、適当な席に座った。

 店の中には、客はミディリシェルを除いて一人しかいない。

 ――ふみゅ。お客さんいない。こんなに良い人のお店なら、もっといっぱい人いて欲しいの。

「これ、この店の自慢の水。料理が出る前にこれ飲んで、食べると、より美味しいノヨ」

 見た目は普通の水だ。

「メニュー、これ。決まったら呼ンデ」

「みゅ」

 シェフの格好をした男が、厨房の方へ向かった。

 ミディリシェルは、メニューを見るが、値段が載っていない。

 ――不思議なの。不思議だけど気にしないの。

 ミディリシェルは、どれにしようか選ぶが、中々決まらない。

 ――ふみゅ。お水飲んでみるの。一旦それで落ち着いて、考えるの。きっと、初めてだからってみゅみゅってなっちゃってるかもだから。

 ミディリシェルは、両手でコップを持ち、水を飲んだ。

 ――分かんないの。どっちかといえば、いつも飲んでいるお水の方が好きなの。

 自慢と言っていたから、普通の水と味が違うのかと思っていたが、美味しいと思わない。普通の水の味だ。

 ミディリシェルは、自分の舌じゃ理解できないのかと思う事にした。

「ふぁぁぁ」

 水を飲んだだけだというのに、なぜか眠くなる。

「……なんでこんなとこに」

「みゅ?……フォル?」

 顔は隠れていて見えない。だが、側に来た客を見て、なぜかそう思った。

 眠気に抗えなくなり、ミディリシェルは、重い瞼を閉じた。

      **********

 顔を隠していたが、側に来たから気付いたのだろう。

 ミディリシェルは、フォルの名を呼んで、眠った。

「……計画には支障はない、か」

 フォルは、右手で、眠っているミディリシェルの頬に触れた。

 ミディリシェルが飲んだ水には睡眠薬が入っている。それに気づかず、一杯飲み干して眠ったようだ。

「何故、まだ起きてイル!あの水を飲んでいるノニ」

「……睡眠薬を盛り、眠らせてから奴隷商に売る。その手順の中に禁呪を用いていたのは失敗だったな。それさえなければ、管理者に目をつけられる事はなかった」

「管理者っ⁉︎見つかってしまったなら仕方ナイ。管理者だろうと、消すだけダ!」

 シェフの格好をした男が、青龍刀のような形の武器を握る。

「ワタシは、シェフをする傍ら、これで何人も葬ってキタ。キサマも、この刃のサビにしてヤル!」

「……甘く見られたものだな。この程度で管理者に太刀打ちできると思われているとは」

 花がシェフの格好をした男に絡めつく。

「……今回の仕事はギェレーヴォ様直々だったか」

「っ⁉︎何故、そんな人物が動いてイル!あり得ナイ!」

「禁呪……ああ、そういえば、仕事時は禁止指定魔法と言わないとだったか。それを使っているんだ。本家の方々が出てきてもおかしくはないだろう。彼が来るまで、良い夢を見ていく事だ」

 対象に悪夢を見せる花をシェフの格好をした男の側に置いた。

「ふみゅぅ……すゃ……すゃ……」

 ぐっすりと眠っているミディリシェルを抱き上げ、フォルは店を出た。

      **********

 ――どこに行くか。できるだけ時間を稼いでおきたい。

 ゼノンと一緒にいれば、ミディリシェルが記憶を取り戻せなくなる。

 それを防ぐためにも、しばらくの間、ゼノンに見つからないようにしていなければならない。

 ――この辺りに魔の森があったか。あそこで、エレが記憶を取り戻すのを待っているか。

 魔の森は魔物が多く、危険な場所だ。だが、フォルからしてみれば、この辺りの魔の森は、暇つぶしに行く場所。

 フォルは、転移魔法を使い、魔の森へ向かった。

      **********

 薄暗く、木々で明かりが遮られている普通の森のようだが、魔物が何匹もいる。

 フォル一人の時であれば、魔物がいたとしても放っておけば良いが、今はミディリシェルがいる。

 ミディリシェルは、魔物に狙われやすい。ここへきただけだというのに、すでに十匹以上の魔物が、ミディリシェルを狙っている。

 ――相変わらず、魔物に狙われてる。エレは特殊だから、仕方がない事だけど、面倒だな。

 フォルは、周囲の魔物を浄化魔法で浄化した。

 ――それにしても、いつもより数が多い。リブインの事もあるからか……一応、報告しておいた方が良いかもしれない。

「すゃぁ」

 ミディリシェルは、相変わらず気持ちよさそうに眠っている。

「フォル、エレの」

「……うん。そうだよ。ずっと、ずっと僕は君の……」

「ぷしゅぅ」

 ――忘れないうちに加護だけはつけておこう。魔物に狙われないようにしないとだから。

 フォルは、加護をつけるため、ミディリシェルの頬に口付けをした。
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