11 / 42
0章 星が選ぶ始まりの未来
10話 服選び勝負
しおりを挟む星の音。魔原書リプセグに綴られた物語を最後まで読んだミディリシェルとゼノンの瞳から、涙が溢れた。
記憶はない。読んだ今も思い出せない。だが、この物語は、嘘ではないと言い切れる。
「ミディ、記憶ないのに、涙止まんないの。フォルと一緒じゃなきゃやなの」
「ああ。フォルの大切なものを奪いたくない」
「みゅ。全部、全部、諦めたくない。フォルの事も、転生前にできなかった事も、ギュリエンの事も、全部、諦めて欲しくない。でも、フォルは、諦めないの疲れちゃったの」
ミディリシェルは、フォルと出会った事がきっかけで、今の居場所を手に入れる事ができた。過去のではなく、今の記憶もないミディリシェルにとっても、フォルは恩人であり、一緒にいたい相手。
そんな相手には笑っていて欲しい。フォルがその目的を果たした先で笑っていてくれるとは思えない。
だが、それは今も同じ。止めたところで、フォルが笑ってくれるとは思えない。
「悩んでいるようだね」
「みゅ、クロ……ロジェ」
ローシェジェラが、部屋を訪れた。
星の音を読んだ今、ローシェジェラがなぜ、フォルと代わってここへ来たのか。その理由を理解している。
「ミディ達、フォルの計画には反対なの」
「そうかい。それは良かった。僕も反対だからね」
「ふぇ⁉︎」
ミディリシェルは、耳を疑った。
ローシェジェラは、フォルの眷属。そして、フォルの計画の協力者。
そのローシェジェラが、フォルの計画に反対しているとは、想像もしていなかった。
「どうして」
「契約でやっているだけで、賛同しているからじゃない。彼の苦しみが消えるなら、もちろん賛同する。けど、そんな事はない。計画が進むにつれて暗くなるばかりだ。あれを見て賛同できるわけがない」
「フォルの事、大事なんだな」
「恩人だからね。彼がいなければ、僕に今はない」
「そうか。なら、その迷いは別物か。ああ、聞く気はねぇよ。自分から話してくれるなら別だが」
ミディリシェルがここへ来た日だったか、ゼノンが言っていた。自分は感情が視えると。それで、ローシェジェラの迷いを視たのだろう。
「それと、俺らは、手土産なしに信用するほど甘くねぇよ。信用して欲しいなら、フォルの計画について情報差し出せ」
「彼は君らの全てを奪い転生させるのが目的だよ。そのために、君らを、ノキェットの城下街へ行かせて欲しいと頼まれてる。ついでに服を買うようにって行きつけの店に事前にお金を払っているらしい」
「みんなで行って良いの?」
「うん。みんなで服を選んで、買い物を楽しんでと」
「みゅ。ゼノン、楽しみなの。計画なんだって知ってても、楽しみなの」
ミディリシェルは、目を輝かせている。
「みんなで勝負するっていうのも面白そうだね。誰が一番ミディの気にいる服を用意できるか。勝つのは僕で決まりだけど」
「分かんないの。ゼノンが最下位以外分かんないの」
「なんで俺が最下位確定なんだよ」
「なんとなく。ゼノンに勝たせたくないから。ゼノンだけマイナス得点開始で」
これも転生前の影響なのだろうか。ミディリシェルは、勝負事でゼノンが勝つというのは嬉しくない。こういった、遊びのような勝負限定で。
「ゼノン、みんなに連絡なの。いつ行くの?」
「明日」
「だって」
ゼノンが連絡魔法具を取り出して、メッセージを送る。
「ふみゅふみゅ。やっぱり便利なの。ミディも欲しいけど……」
「欲しいだけで良いだろ。貰えないなんて思うな」
「ふみゅ。欲しいの」
「ああ。明日一緒に選ぼうな」
ゼノンは、笑顔でそう言った。
ミディリシェルが、ちゃんと欲しいと伝えられたからか、頭を撫でている。
「ぷみゅぅ。ゼノン、もう一個わがまま良い?」
「当然だろ」
「ミディ、魔法具の設計図描きたい。それで、その設計図をゼノンとフォルにあげたい。いっぱいいっぱい描くの。それを二人にあげるの。どう使っても良いよ。それを売ってお金にすれば、結構な額、貰えると思うの」
「売るわけねぇだろ。まだ向こうにいた時の事が抜けてねぇみてぇだな。ミディからのプレゼントは嬉しいが、いやならやらなくて良い。ミディがいやな事をするための道具なんて買わない」
「……うん」
今まで当たり前だったものを突然変えるのは難しいのだろう。まだ、どこかでリブイン王国にいた時のような思考になってしまう。
俯くミディリシェルを、ゼノンが抱きしめた。
「ふぇ⁉︎」
「……こうすると笑顔になると思っただが」
「みゅぅ。離れないの。安心する。今日一日離れないの」
「それはむり。やる事あるから。けど、できるだけ離れない。それなら良いか?」
「みゅ。良いの……ふぁぁぁ」
ミディリシェルは、急に眠くなり、ゼノンの腕の中で眠った。
「……ここで寝んなよ」
**********
翌日、ミディリシェル達はノキェットの城下街を訪れていた。
ローシェジェラの案内で、管理者御用達の服屋へ入る。
「いらっしゃい。エレ嬢のお洋服ですよね。それでしたら、こちらからお選びくださいませ」
「うん。ありがとう。それと、ここで服選び勝負やっても大丈夫かな?」
「ええ。ここは管理者様以外は来ませんから」
――みゅ?管理者御用達のじゃなくて、管理者の所有する服屋の間違いじゃないの?不思議なの。
ローシェジェラからは、管理者御用達の服屋と聞かされている。だが、管理者以外は来ないという店主の老婆に、ミディリシェルは疑問を抱いた。
「姫様、フォル様から預かり物がございます」
「みゅ?なぁに?」
「服です。先日、フォル様が、姫様に似合う服を見繕っておりました」
「ふみゅ⁉︎フォルが選んだお洋服……優勝なの」
現在、ゼノン達が服を選んでいる真っ最中。まだ、誰も決まっていない。フォルが選んだ服を見てはいない。
だが、ミディリシェルは、フォルが選んだというだけで、優勝にしようとする。
「みゅ⁉︎だめなの。平等に。ゼノン以外は平等に見ないと」
だが、これは服だけを見て決める勝負。誰がとか関係ない。ゼノン以外は。
ミディリシェルは、人で選ばないよう、店主に、誰が持ってきたか分からないようにして欲しいと頼んで、全員持ってくるまで試着室で待つ。
**********
全員の服が揃い、試着を終え、採点の合計点を店主に伝えた。そして、店主に誰が何点かメモ帳に書いてもらう。
「おねぇさん、ありがと」
「おねぇさん?いるから気づいたのですか?」
「初めから。おねぇさんって淫魔でしょ?」
「マークから教わった魔法をこうもあっさり。さすがですね、姫様。それと、残念でした」
店主がそう言ってメモ帳をミディリシェルに返した。
ミディリシェルは、メモ帳を見て、あからさまに残念な表情を浮かべる。
「えっ⁉︎そんなにいやな結果だった?」
「ピュオねぇは安心して大丈夫なの。低くないから。ゼノンがちょっとむにゅってなっただけだから」
ミディリシェルは、そう言ってゼノンを睨む。
「結果発表なの。優勝は、フォル。二百点なの。デザインと着心地がとっても良かった。二位はゼノン。三位はリミュねぇとピュオねぇ同率。五位はノヴェにぃ。六位はアゼグにぃ。七位はルーにぃ。八位はロジェ。最下位はエルグにぃ。本人のためにコメントは控えさせてもらうの」
神獣の文化は、ミディリシェルには理解できないものなのだろう。ミディリシェルは、これ以上考えないよう、それで無理矢理納得させた。
「ミディも不服だから、この順位に不服申し立てるのは禁止なの。優勝候補だと思っていたけどできなかった、リミュねぇとピュオねぇは、ミディの趣味とは合わなかっただけで、普通に良いと思ったの」
ミディリシェルは、残念そうにしているリーミュナとピュオを励まそうと、そう言った。
「ちなみに、これが優勝のお洋服。着やすくて、着心地が良いの」
「わたし、着心地と着やすさ考えてなかった」
「私も。今度はそれを考慮して、優勝狙おう」
「うん」
リーミュナとピュオが、優勝できずに落ち込まないかと心配だったが、リベンジに燃えているようだ。
「みんな先に出て、お昼どこにするか探して。探さないとだから、そんなに離れないで。それと、ミディは残って。少しだけ話がしたい」
「みゅ?お話するの」
「うん。美味しいお店探しとくね」
ミディリシェルとローシェジェラを残して、ゼノン達は服屋を出た。
「ミディ、こっちへきて」
「ふみゅ」
ローシェジェラについていくと裏口についた。
「ふみゅ。お話ってなぁに?」
「誰にも聞かれたくない事だから、そこから出て外で話す。扉、重くてすぐに閉まるから、先行って」
「みゅ」
ミディリシェルが外に出ると、扉が閉まった。ローシェジェラは、外に出ていない。
「ふみゃ?」
ミディリシェルは、扉を開けようとするが、重いからか動かない。
「……表に出て合流するの。きっと外いるの」
服屋があるのは、人気のない裏通り。しかも、裏口から出ると、治安の悪そうな道が続いている。
ミディリシェルは、ゼノン達のいる方を目指して歩いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
(仮)世界の名を持つ姫
碧猫
恋愛
エレシェフィール。世界の名前。
その名前を与えられた姫は、世界を守るという使命がある。
具体的には、世界が滅びる可能性となるのは、終焉の王達と呼ばれている。その王達が、世界を滅ぼさないようにする事。
エレシェフィールは、終焉の王達と仲を深めようと、毎日のように誰かしらに会いに行っていたが、毎回門前払い。会ってくれる王はいなかった。
唯一、会ってくれるのは、エレシェフィールの世話をするゼーシェミロアールと、その兄だけ。
一番危険とされる王に最後に会いに行く事にしていた。その日まで、それは変わらなかった。
教育と言われつけられたアザだらけの身体を隠しながら、一番危険な王会った。
王は、幼い日の記憶のないエレシェフィールは知らない、婚約者。
その王との出会いがきっかけで、愛を理解できないエレシェフィールは、全ての王達と向き合い、ただ一人の王に溺愛される事となった。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる