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2章 奇跡の魔法
2話 原初の樹リプセグ
しおりを挟む(中略)
夢の崩壊の時。ついに、この世界が目的を終える、その時がやってきました。
この世界での目的を果たした、ミディリシェルとゼノン。目的を果たした二人が、最後にと選んだその場所は、ミディリシェルとゼノンの、大切な場所。大切な人との時間でした。
「おかえり。最後をここで過ごして良いの?」
空間魔法の中、アスティディアを模して創られた場所。そこで、ミディリシェル達の帰りを待っていたフォル。
ミディリシェルとゼノンは、フォルと最後を過ごす事に決めました。
「フォルと一緒が良いの。フォルらぶなの」
「エレ達、知ってるよ。フォルが隠してる事、全部じゃないけど、ほんの少しだけだけど」
「……」
「だから、このくらいのわがまま、聞いてくれなきゃやなの」
ミディリシェルは、頬を膨らませて、そう言います。
「……いつから気づいてたの?」
「エレがふわふわしなくなってから。現実の記憶は、ぼんやりとしかないけど、そっちはフォルじゃないの。行動も言動も似てはいるの。でも、違うの。エレは、気づいてるの……褒めるの」
こんな時まで、変わりませんね。ミディリシェルは、フォルに、頭を向けています。撫でて欲しいのでしょう。
今はまだ、その目的とかは言えません。それは、私からではなく、フォル本人から聞いてください。真実は、お二人の力で見つけてください。それしか言えませんが、私は、願っております。
御三方が、納得のゆく道を見つける事を。後悔する事があろうと、共にいる事を。
「……僕は、君らに愛される資格なんてないよ。あの仕事の事も全て、僕があの子に頼んだんだ。どんな理由があっても、君らにした事は、消える事なんてない」
「だから何なんだ?そんな事で、エレが、諦めますなんて言うわけねぇだろ。俺もだけど」
自分の事よりも先に、ミディリシェルの事が出てきます。ですが、彼の想いが負けているとは思いませんよ。ただ、ミディリシェルを優先する性格だというだけで。
「それに……僕は、他の黄金蝶のように、強くある事だってできない。君らの事だって、何度も危険な目に遭わせてるんだ。守ってやれてなんて無いんだ」
記憶の無い聖月の御巫は、驚くでしょうか?
これが、本来の彼です。とは言っても、彼の一部ですが。
「むぅ、そんなの、どぉだって良いの!たとえ、フォルが、エレ達三人一緒に、とぉっても悪い人に攫われたとするの。それで、なんにもできなくっても、泣いているだけでも、それで良いの!エレは、守って欲しいなんて思ってないの!たとえ、ギュゼルとして、役割を果たせなくても良いの!フォルは、エレ達の事を見てれば良いの!」
相変わらず、一途な姫です。ずっと、この想いを消さずにいるのですから。今も、記憶が無くとも、そうでは無いでしょうか?
「……エレは、やっと、やっと会えたんだよ。どれだけ長い間、こうして、一緒にいたかったと思う?ゼロもフォルも、エレの事を考えろなの。ずっと、ずっと一人で、寂しかったの。それを知れなの。エレを、もっと、見て欲しいの。名前を知らないあの子じゃない。エレを見ろなの」
最後はいつでしたか。
聖月の御巫、貴方は知っておく義務があります。彼女の運命共同体として。彼女に、今の道を与えた一人として。彼女の事を知るべきです。
今は、少ししか言えません。この言葉と、少しの説明しかできません。それを、お許しください。
の兵器ミディリシェル。
彼女が聡明姫と言われる所以。我々に匹敵する知識を持ち、ごく稀に見せる、全てを見透かす言動。それは、全て、その言葉の意味に隠されております。
それと、記憶が無ければ、気づかないかも知れませんが、今までの彼女は、本当に彼女だったのですか?
恐らく、本当に彼女だったのは、僅かな時間でしょう。
ミディリシェルは、聡明姫ともう一つ、渾名があります。それは、眠姫。その渾名の所以も、知れば、この言動についても、お分かりになるでしょう。
聖月の御巫、記憶が無くとも、悲しそうな顔で、こんな事を言うミディリシェルを、放って置かないでくださいね。それが、今できる事だと思いますから。
「エレを見てくれないなら、エレ、ぴぃって泣くから。記憶が戻って、エレの側にいてくれなかったら怒るから。エレは、もう、全部諦めないから。自分が自分でいる事、諦めないから」
その可能性を残してくれた。ミディリシェルは、気づいていたのでしょう。初めから、フォルが、この魔法を使ってまで、変えたかったものを。
殆ど情報は無かったというのに、本当に聡い子です。
「……どうして、そこまで、僕に執着するの?他の黄金蝶はだめなの?僕が、 だから?」
これは、自らの記憶でお確かめください。私は、これを教える事はできません。そういう、契約ですので。
「そんなのかんけぇないの!エレは、そんなのを理由に、フォルを好きになった違うの!エレにとって、フォルは、大事な人なの。こっちでも……あっちでも、ずっと、エレの側にいてくれたの。泣いてるエレに、躊躇いも無く、手を差し伸べてくれるのは、ゼロとフォルだけだったの。それが、 という理由だとしても、エレにはかんけぇないから。だから、エレは御巫を目指すの」
「……さっき、一人で寂しいって」
「どんな時でもツッコミを忘れないゼロ。うるさいの。そう言った方が、フォルがエレを、なでしてくれるって思ったから」
フォルが、頭を撫でてくれてます。かなり嬉しそうです。こんな話をしている時ですら、彼女は、自分の欲に真っ直ぐなのですから。
「……ゼロは、どうなの?」
「俺は、エレと違って、あの頃をそこまで覚えてる訳でもねぇが、それでも、多分、変わらねぇな。一緒にいると落ち着くから。この色が好きだから。俺は、エレとは違う。恵まれていた。成功作と言われていた。全て受け入れて、それが当たり前だった。それを壊してくれた。俺に、この名と他の道を教えてくれた、この色が好きなんだ。だから、この色をくれる人のための御巫を目指すんだ」
これが、記憶のあった、貴方の意思なんですよ。貴方は、覚えてないでしょうが、聞かせて欲しいです。今も、それは変わらないのか。
「……ありがと。教えてくれて……ははっ、ほんと、卑怯だよ。そんな事聞かされて……これを選ぶって決めたのに……その決意が鈍るよ」
フォルが選んだ道。自分の目で確かめてください。彼の目的を、間違えないでください。
こんな事しかできず、重要な部分は全て、隠して置かなければならない。本当に申し訳ないと思っております。それなのに、こんな頼み事をするなんて、差し出がましいのでしょう。ですが、お二人のためでもありますので。
お二人が知っている彼を、信じてください。彼が、決意を揺るがせないようにと撒いた、嘘の種を、見つけて、真実を知ってください。
「そうなの。ひきょぉなの。でも、そんなエレをちゅきになってくれたんでしょ?エレも、おなじなの」
「……好きだよ。愛してる。それは、ずっと変わらない。変わらないから、こんな道しか、選ぶ事ができないんだ。二人を想っているからこそ、これが、一番だって、思うんだ」
瞳から、今にも溢れ出しそうな涙を溜めています。本当に、これを選ぶまで、悩んでいたのでしょう。今も、ずっと、後悔しかないのでしょう。
「みゅぅ。それなら、何を選ぶかとかなしで、今はにゃむにゃむしたいの。こうして、ちゅきちゅきってできるのは、何年後か分かんないんだから、今のうちにやっておくの。どう選択するにしても、フォルが、悲しいのやなの。だから、ちゅきちゅきで、笑顔、見せて?」
鈍感なようでいて、鋭い。我が主人でありながら、本当に不思議です。フォルがここで見せてきた笑顔。それが、全て偽りであった。それに、気づいているのでしょう。
「……うん。それで、安心してくれるなら」
「ふにゅ。フォルがやりたい事もやって良いの」
「……じゃあ、ぎゅぅって。だめ、かな?」
「ふにゅ⁉︎」
ミディリシェルは、驚きのポーズをとります。これは毎度、大袈裟です。本人が楽しそうなので、これ以上言いませんが。
「フォルが、ぎゅぅをよぉきゅぅするの。喜んでぎゅぅするの」
「俺も」
ゼノンも仲間外れは嫌ですよね。ミディリシェルがやるなら、やりたいのですよね。昔からそうでしたから。
「しゃー!フォルのお膝は、エレ専用なの!」
「えっ、僕、一度も、膝枕なんて言ってない。それに、エレ専用なんて言った記憶ない」
フォルも困りますよね。嘘を見抜けるというのに、ミディリシェルから、嘘の反応は出てないのですから。ミディリシェルの記憶は、良く分かりません。
ゼノンは、そうならないでくださいね。と言っても、なりようがないでしょうか。
「やなの?」
「やではないけど……って、もう崩壊の時間だ。君の願いに応えられない事と、ぎゅぅも膝枕もできなくてごめん」
フォルとミディリシェルの唇が重なります。
唇が離れると、フォルは、昔は良く見せていた、いやがら……悪戯をした時に見せる笑顔を、ミディリシェルに見せました。
「エレ、愛してる。どんな結果になろうと、僕は、君を離さないから」
「ふぇ⁉︎ふにゃ。ふにゅ。それでも、エレは……御巫を譲れないから」
「そうか。なら、僕の嘘と罪から、向き合う勇気を頂戴。僕は、今の君らと一緒にいて良いんだって思わせて」
最後のこれは、聖月の御巫には見せるなと言われております。姫に、見せてください。姫なら、読めますから。
それと、最後に、フォルからお二人への手紙です。
『ゼロ。ずっと、何もしてあげられなくてごめん。僕は、神獣だから、黄金蝶だから、役割を果たさなければならない。でも、そこへ来なければ、見逃してあげる。二人で、楽しく生きる未来をあげる。御巫としてではなく、普通の子として。
今までありがと』
こちらは、姫……ミディリシェルへの手紙です。彼女に見せてください。
『エレ、君はもう、自分の意思とは関係無く、眠る事がないようにしてあげたかった。でも、この魔法でも、それはできないんだ。でも、長い眠りにつく事はないと思う。だから、今を楽しんで。いつか、必ず、君がずっと君でいられるようにするから』
それと、最後に重要な事を伝え忘れておりました。奇跡の魔法は禁呪です。それには、代償があります。
その代償は、使用者の記憶の全て。次に会う時、お二人の知るフォルではないでしょう。
ですが、忘れた記憶は、取り戻せるかもしれません。どうか、希望を捨てないでください。
フォルを…… 我々が敬愛すべき方を、救ってあげてください。これは、貴方達にしかできない事です。
お二人の手で、可能性の未来を、掴み取ってください。
そして、次に私に会いに来てくださる日、御三方の笑顔を見る事ができるよう、エリクルフィアの死の森から、祈っております。エレクジーレス様もきっと、それを祈っておりますよ。遠い世界から、ずっと、姫を見ておりますから。
では、また会う日までお元気で。そして、後悔のないよう、お過ごしください。我らが愛しのエンジェリア姫。
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