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1章 星が選ぶ始まりの未来
プロローグ 星の御巫
しおりを挟む薄暗い街。そこに、世界の誰もが認める御巫、エクシェフィーの御巫が訪問した。
「おぉ」「こっちを見たわ」「御巫様」と、偶然そこへ居合わせた人々が、御巫を歓迎し、歓喜に満ちた声をあげた。
薄暗い街に似合わぬほどの明るい声。だが、そこに居合わせて、歓喜の声を上げる人々とは違い、御巫の訪問を歓迎していない人もいた。
「行こ。ここにいたくない」
人混みから離れたところで見ていた、歓迎していない少女は、二人の少年と共にその場から離れ、人気のない場所へ行った。
**********
「……」
「ほんとにすごい人気だよね。本物の御巫様」
「……」
「裏で何が行われてるか気づいてるんだか?御巫を担ぐ君らなら知ってるんじゃないの?」
少女と共に人気のない場所へ来た少年の一人が、怒り混じりの声音で、少女達を尾行していた集団に言った。
少年に気づかれたからか、顔を見せない、いかにも裏組織のものですとでも言いたげな姿をした集団が、姿を見せた。
「前から思ってはいたけど、君らってほんとに隠れるの下手だよね。隠れる気ないの?」
「……」
「答えるわけないか。それとも、邪魔な存在に話す事なんてない?僕らは、ううん、この子は御巫を担ぐ君らにも御巫にも不利益しか齎さないから」
「御巫様を陥れる可能性のある言動は慎め。いくら、本家のご子息であろうと許されざる事である」
顔を隠した集団の一人が、少年に淡々と言った。
「君らがこの子にしている事よりはましだと思うけど?」
「その出来損ないの候補と違い、あのお方は本物だ!この全ての世界に必要である御巫とそこの出来損ないを一緒にするな!」
「御巫様は常にご自身の役割を理解していらっしゃる!そこのなんの理解もない出来損ないと違って!」
「出来損ないは御巫候補などではない!貴様らが勝手に候補だと言っているだけだろう!それなのに一緒にするなど許さんぞ!」
少年の言葉に顔を隠した集団は、一斉に声を荒げる。
もう一人の少年は、少女がこの声を聞かないようにと、少女の耳を両手で塞ごうとしているが、少女が「大丈夫」と小声で言った。
「言わせておけば良いよ」
「けど」
「エレにはゼロとフォルがいてくれるから。だから大丈夫だよ。それに、こんなの御巫の役割じゃないから」
「御巫の役割ではない?自分が御巫になりたいのになれないからと言い訳とは笑えるな」
少女は、震える手を握って、凛とした瞳で顔を隠した集団を見る。
「エレはこんな歪められた御巫の座なんていらない。エレは、絶対にこの歪んだ状態を戻して、本物の御巫になるの!御巫候補として。何より、エクシェフィーの御巫の願いとして!」
少女がそう宣言すると、顔を隠した集団は一瞬動きを止めた。
「この出来損ないが我々を前にこんな事を言えるはずがない。洗脳か?それとも何か入れ知恵でもしたか?どちらにせよ、処罰は免れんぞ」
「それはそっちが決める事じゃない。それと、御巫候補が御巫になる事を決めて宣言する。洗脳とかしていたら処罰の対象になる可能性はあるけど、この子は自発的に言っている。これは嘘であったとしても、神獣としては評価すべきだ」
少女は、その勇気に見合う返しなど返ってこないと、初めから期待はしていなかった。だが、顔を隠した集団は、今までの発言から考えれば、意外な行動を取った。
「出来損ないにそんな」
「これは彼の言う通りだ。だが、その前に確認する。エンジェリルナレージェ・ミュニャ・ 姫、貴女は本当に自発的に言ったのだな?貴女の性格は知っている。そんな事を我々の前で宣言するような性格ではない」
少年の言葉に反発しようとする人もいたが、それを顔を隠した集団の一人が静止させた。
少女は、聞かれた質問に対し、こくりと頷く。
「エレは御巫候補として、せぇせぇどぉどぉ、本物の御巫になるの。貴方達のための御巫じゃなくて、本来の役割を全うする御巫に」
「かつての姫からは想像つかぬ言葉。だが、それが真意であるという事は見て取れる。我々は貴女を御巫と認めない。それは変わらない。だが」
顔を隠した集団の一人が膝をつくと、集団全員が同じように膝をついた。
「今はそのような理屈は抜きにしよう。この場で勇気を示した事。御巫候補が御巫となる事を宣言した事に敬意を称す」
顔を隠した集団は、相手が誰であるという事は抜きに礼儀を示した。
御巫候補が御巫になると宣言した祝いの品を顔を隠した集団の一人が差し出す。
ならば、それを受け取る側もそれを抜きに受け取るべきだろう。
少女は、その祝いの品を受け取った。
「本来であれば剣を渡すのが習わしではあるが、敵同士故、失礼ではあるがこのような品で許していただきたい」
「エレは良いけど」
「祝いの品まで求めてないよ。剣は僕の役目だから」
「そうか。だとしても、これだけでは礼儀を持て対応したという事にはならないな。もう一つ、与えよう。我々組織はかなり複雑だ。他全てがとは誓えぬが、私は、貴女に対して御巫であるという事を認め最大限の礼儀を持って、貴女を排除する事を誓おう」
そう言った顔を隠した集団の一人が、少女達に顔を見せた。
紫紺の瞳が少女を真っ直ぐ見つめる。
御巫であるとは認めないと言った発言に対して矛盾しているが、先程の発言はその組織としてであり、認めると言ったのは個人としてなのだろう。
「そちらなりではあるけど、守ってくれた事感謝するよ。御巫様の今後の活躍と貴殿らの安泰を願おう」
「なんの冗談だ」
「神獣としての礼儀は見せてもらったからこっちも礼儀を見せるよ。本心かどうかは置いておいて」
「みゅ。御巫様とおにぃさん達に聖星の祝福と導きが在らん事を」
「御巫様と貴殿らに聖月の加護と祝愛が在らん事を」
少女ともう一人の少年が、自分達の種族の祈りの言葉を発した。
魔法杖を両手で持ち、瞼を閉じて祈りを捧げる。
「撤収だ」
「はっ」
顔を隠した集団が撤収するが、顔を見せた彼だけは残った。
「真実が露見し、歪んだこの現状が変わる事を祈る」
最後まで残った彼は、そう言って撤収した。
「エレのフォルらぶのためにも頑張るの」
「ずるい。俺もー」
「フォルはエレの方が好きって言ってるの」
「そんな事一度も言った覚えないよ。それより、早く行かないと遅れるよ?今日は久々の集まりだって楽しみにしていたじゃん」
少年にそう言われ、少女がぽかんとしていると、もう一人の少年が「あーー!」と慌てて時間を確認した。
「やばい、もう時間過ぎてる。今日久々に弟も来るって言ってたのに」
「ふにゅ?ゼロ弟いた?」
「ゼム」
「おにぃちゃんだよね?そろそろ怒られるよ?」
「ほっとけ。それより早く行かねぇと。えっと、場所は……」
「王宮でしょ。ちょうど良いじゃん。エレとゼロが本気で御巫を目指すなら、多少は後ろ盾が必要になるだろうから。ここで御巫になるって宣言して後ろ盾になって貰えば」
御巫になるという事は簡単ではない。特に少女は。
御巫になろうとしても邪魔されるというのもあるのだが、それ以上に、誰も認めてくれない現状で御巫になると言ってもなれないだろう。
「ふにゅ。まずは共犯者を探すの。それでみんなでいっぱい集まれば、御巫も夢じゃないの」
「そんな簡単な話じゃないけどね」
「御巫になるなら、教養も必須だろ。エレは嫌がるだろうけど」
「……や、やらないの!エレは今の知識をフル活用して頑張って御巫になるの」
「御巫になるならない関係なしに最低限の教養は必要だよ。得意分野を伸ばすのも良いけどね」
「そんな事より、エレ、もう少し早く走れるだろ」
「エレはお疲れだからゆっくりなの。ゼロ先行っても後から来るから」
少女達は街を出て、今の速さだと三十分くらいかかる距離にある王宮を目指して走った。
「ふにゅ、ここがエレの初の御巫宣言なの」
「えっ、さっきの忘れてる?」
「……エレ、本気で御巫になろうとすれば危険な目に遭うってちゃんと理解してる?」
「してるし、覚えてるの。それでも、エレは御巫になるんだから。ゼロとフォルが本当は反対したくても、絶対に」
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