上 下
29 / 38

29話 夜逃げをする時は計画的に

しおりを挟む
「荷物オウケィ、武器装備、身分証よし。」

何を隠そう、俺はこれから夜逃げをしようと試みていた。

「ふっ、あいつら何も知らずにぐっすり眠ってやがる。出るなら今だな。ミッション開始っと。」

俺は音を立てずに部屋を出て、廊下を歩く。
うーむ、昔ボスに用意してもらった隠れ家に向かうとするか。
ここからだと、南方に行って....、まあ行きながら考えればいいか。

「あんた何してるの?」

「っ!?」

考え事をしていた俺は、アリサの気配に気が付かなかった。

「あ、アリサか。いやーちょっとトイレに行きたくてなあ。」

「トイレなら反対方向よ。」

「おっと、そうだった。いやあ、寝ぼけててな、すまんすまん。」

「まったく、しっかりしてよね。あんたはあたしたちの....。」

「ん?」

「何でもないわ。じゃあ、私寝るから。」

「うーい。」

いやあ、危ねえ危ねえ、早速計画が破綻するところだったぜ。
それじゃあ仕切り直して....
地図とにらめっこをしながら屋敷から出た俺。
この屋敷ともおさらばか....
短い間だったが、悪くなかったな。

しばらく歩くと街に出た。
ふぅ、一安心だぜ。
無事勇者パーティーに気付かれず街に出た俺は、地図を頼りに南方に向かう...はずだった...

「アレス、なにしてるの?」

「ぬおっ!?」

急に背後から声をかけられたと思ったら、そこにはレイがいた。

「何だ....レイか....てっきりばれたのかと思ったぜ....。」

「ばれる?何が?」

「いやっ、こっちの話だ。お前こんな時間に何してるんだ?」

「アレスの作ったプルィンを食べに屋敷に向かうところだった。」

「なるほどねえ。っておま!勝手に来るのはやめろって言っただろ?」

「アレスの寝顔を見たくて....。」

「んん?何だって?」

「何でもない。それよりアレスこそこんな時間に何してるの?」

「俺?俺はそのお、あれだ、組織に少し用があってな。」

いや待てよ?ここでこんなこと言ったら....

「じゃあ私も行く。」

ですよねぇ....

「すまないなレイ、これから俺が行うのは極秘任務。誰にも言うなと言われている。お前に気付かれたのは誤算だったが....とにかく家に帰れ。」

嘘に嘘を重ねるようでちょっとあれだが、これで流石にまけるだろう。

「ならボスに聞いてみる。昨日アレスを見ていたけど、任務を任されてはいなかった。任されているなら今日のはず。私になら極秘任務でもボスは教えてくれるはず。それに私は組織のアジトで寝泊まりしている。どのみち向かうところは同じ。」

いよいよ困ったなあ。
どうしたもんか....
んーん、うーむ、ここまで言われたら仕方あるまい。

「あー、あのな、レイ?」

「何?」

「ぶっちゃけさっきの全部嘘で、ただ勇者パーティーから逃げてきただけなんだ。」

「そんなことだろうと思った。アレスのことは私が一番よく知っている。」

「うん、その俺のことを一番よく知っている君ならわかるだろうが、今から俺の隠れ家に向かうわけだが....このことは勇者パーティーには秘密な。あと、勇者パーティーから逃げたことはボスに秘密でよろしく。」

「......分かった。ただし条件がある。」

「条件?」

「私も隠れ家に行く。それが条件。」

いや、誰かに知られた時点でそれもう隠れ家じゃないんだよなあ....。
しかし、レイに秘密を守ってもらうにはそれしかないか。

「わかった。約束は....まあお前なら守るか。」

「交渉成立。」

こうして俺達は隠れ家へと向かうのだった。

いやーこんな時のために手入れしてて正解だったな。
隠れ家は埃を被る事無く、綺麗に整理されている。
まあ、ベッドこそ屋敷のに比べればあれだが、充分寝泊まりできそうだ。

「さてと、これから寝るわけだが.....。参ったな....ベッドが一つしかない.....。やむ負えん、俺は床で寝る、レイはベッドを使ってくれ。」

「私なら気にしない。一緒にベッドで寝る。」

こいつやっぱり年頃の女の子にしては色々とバグってるな。
あ~、あの時ばったり会わなければなあ。
まあ過ぎたことを悔やんでも仕方ない。

「俺は床、お前ベッド、これ確定事項。オウケイ?」

「秘密バラしちゃうかも。」

「よし!一緒に寝よう!うん、そうしよう!」

コイツにはかなわないぜ....
結局俺達は一緒のベッドで寝ることになった。
疲れていたのもあり、俺はぐっすり眠った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ふぁぁぁっ、良く寝たぜ。
ん?なんか体が重いような....
うん、まあなんとなくそんな気はしてた。

「レイさんや。俺は抱き枕じゃないんだ。離れてくれないか。」

「Zzz...」

こりゃあ、しばらく起きそうにねえな....
はぁ、これが毎日続くのか....
いや参った、本当に。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


屋敷にて.......

【勇者パーティー乙女の会】

「アレスさん起きてきませんね。」

「あいつのことだからどうせまだ寝てるんでしょ。」

「ふむ、しかし彼はいつもこの時間には起きているはずなんだが.....。」

「わたくし、起こしてきますね。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「アレスさん?起きてますか?」

「........。」

「返事がありませんね....やはりまだ寝ているのでしょうか?アレスさん、入りますよ?」

ガチャッ

「!?これは...急いで皆さんに知らせなくては!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「大変です!」

「どうしたんだヘレナ、そんなに慌てて。」

「とにかくアレスさんの部屋に来てください!」

「何なのよ全く....。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「これは....。」

「何よこれ....。」

「見ての通り、部屋が片付けられていて、アレスさんの持ち物が何一つとして置いてないのです....。」

「しかしなぜ....。」

「そういえば夜、アレスを見かけたわ。トイレに行くって言ってたけど....。」

「まさかその時この屋敷から出て行ったのでは?」

「でもその時アレスは荷物なんて持ってなかったし....。」

「何を言っているんだアリサ、彼は収納魔法を使えるじゃないか。」

「!?じゃあ、あの時....そんな、もっと早く気づいていれば....。」

「最近様子もおかしかったですし、何か関係があるのでは?」

「確かにそうだな。我々とも距離をとっていたし。」

「あのバカ!一言くらい言いなさいよ....。」

「アレスさん....。」

「アレス君....一体何があったんだ......。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アレス『レイのやつさっさと起きねえかなあ....。』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[完結]勇者の旅の裏側で

八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。                                      起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。               「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」                                        「………………はい?」                                                   『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。                                                       依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。                             旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。                                          しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。                                         人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。                                                これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。                            ・1章には勇者は出てきません。                                                     ・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。                    ・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。                    ・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

処理中です...