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16話 大切なものはちゃんと持ち歩かないとだめだよね

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ボスとのデート当日、俺は待ち合わせ場所の時計塔の前で待っていた。

「待ったかアレス?」

俺は声のした方を向く。
え?この人だれ?

「あのお、俺はこれから大切な用事がありまして....。ちょっとお相手をする時間がなくてですね.....。」

「まさか気づいていないのか?私だ、【紅】のボス、フィーナ=イルエスだ。」

えええええぇぇぇぇぇぇ!?
この人がボス!?
ていうか名前今初めて知ったわ。

「すまんボス、いつもとは全く違う見た目をしていたもので、少々びっくりした。」

「仕方ないさ、いつもは仮面で顔を隠しているからな。今日私のことはフィーナと呼んでくれ。」

「わかった、フィーナ。」

何か自分で言ってて変な感じだ。
さてと、今日のプランは.....。

「まずは演劇を見に、テーレン劇場に向かおう。」

「ふふっ、部下に先導される日が来るとは、人生何があるかわからないな。」 

笑った顔可愛いな。
恐れ多くも組織のボスとは思えない。

俺たちは劇場に向かい、演劇を見る。
内容は戦場に向かう男の人と、それを送る女の人。
帰ってくるかわからないという不安な気持ちを抱えつつも、男の人を信じて待つ、といったものだ。

「まるでアレスを待っているときの私だな。」

「面白い冗談だな、俺は基本的に簡単な任務しかしてないし死ぬことはないだろ。」

現に今まで仕事でてこずったことはなかったしな。

「お前なあ、簡単な任務と思っているのはお前ぐらいだぞ?大規模な戦闘を何度もこなしているというのに。」

きっと俺のことをフォローして言ってくれているのだろう。
そういうさりげない気遣いができるボスが俺は好きだ。

劇を見終えた俺たちは、そのまま昼食を食べに向かう。
俺はこの日のためにテュルベリア=キャルペニョという高級レストランを予約しておいた。

「ここだ、入ろう。」

「あっ、ああ。こんなおしゃれな店があったとは....アレス、お前良く知っていたな。」

「フィーナも知っているだろう?俺は元諜報員だってこと。」

「そうだったな。」

いざレストランに入ろうとしたその時だった。

「アレス=エングラムだな?」

ん?誰?
俺にこんな知り合いいたっけ?

「まさかお前.....コペン=ディルクスか?」

なんだあ、ボスの知り合いかあ。

「へえ、【紅】のボスに知られてるとは俺も捨てたもんじゃないねえ。」

「アレス気をつけろ、こいつはこの街だけじゃない、この国一番の殺し屋と言われている奴だ。」

へえ、殺し屋ねえ。
え?マジ?

「あんたを殺す依頼があってな。悪いがここで始末させてもらう。」

「アレス、お前武器は持っているか?」

「生憎今日は持ってきていない。完全に浮かれていたな。」

ブーヴィー、こんな時にないなんて使えねえ奴だ。
まあ、俺が置いてきたんですけどね。

「まいったな、私も完全に丸腰だ。」

ふむ、拳で戦えなくはないが、相手は獲物持ち、どうしたものか。
いずれにしろここでは人が多すぎる、とりあえず場所を変えよう。

「コペンだったけか、ここじゃあ邪魔が多すぎる、場所を変えないか?」

「俺はお前さえ殺せれば何でも構わない。」

俺たちは場所をミネルネ高原に移した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ボス、あんたなんでついてきたんだ。」

「流石にお前ひとりにはできん。丸腰の状態で奴と戦うなど、流石のお前でもきついはずだ。」

ボスの気持ちはありがたい、だがこいつの狙いは俺、ボスに万が一のことがあったら困る。

「ボス、悪いが手を出さないでくれ。こいつは俺がやる。」

「ボスと部下の友情ごっこかあ?面白いねえ。良いぜ、お前さんのボスには手を出さないでやるよ。」

とりあえず一安心。
いや待てよ?
俺収納魔法使えるよね?
なんでブーヴィー入れてこなかった?
とりあえず何か獲物になりそうなものは....
うん、ないね。
強いて言うなら料理用の包丁か。
やむ負えん、こいつを使うか。

俺は包丁を構えて戦闘に備える。

「っ!?アレス、流石にそれでは無理があるぞ。」

「今日見た劇場の劇と同じさ。戦場で戦う俺を、あんたは信じて待ってくれればいい。」

そうだ、今の俺には帰る場所がある、絶対に死ねない。

「わかった、アレス、お前を信じる。」

「話は済んだか?なら、行かせてもらうぜえ!」

「!?」

なるほど、流石国一番の殺し屋というだけある。
なかなかの動きだ。
だが惜しいな、動きに無駄が多い、そして殺し屋のくせに力任せすぎる。
しかし俺とて獲物がこれな分、勝つためには速度で勝負するしかない。

『神速』

俺は一気に距離を詰めようとするが.....

「あんたの特技は生憎調べてある、速度に依存するその戦い方もなあ!」

なんだ!?速度スキルを使ったのに体が自由に動かない。
まさかこれは身体拘束系魔法か。

「悪いがあんたの自慢の速度は封じさせてもらったぜえ!さあ、どうする?」

くそっ、妖刀ブーヴィーがあれば相手に効果の跳ね返しができるんだが....
マジでなんで俺おいてきたんだよ、バカじゃないの?
悔やんでも仕方ない、速度スキルが無効化された以上、速度は.....いや普通に俺の方が上じゃね?
とりま相手が攻撃する一瞬を狙ってカウンターを狙うか。

「そらそら、どうしたー?【紅】一のアレスもスキルが使えなきゃこの程度かあ?」

俺は攻撃を翻しながらカウンターを狙う。
え?てかちょっと待って。
こいつ俺一人じゃ何もできんみたいなこと言った?
はあぁぁ?
ブーヴィーなくてもスキル使えなくても俺だってその気になりゃあできることはあるんだからね!

俺は相手の獲物が俺の心臓を狙って突き刺すその瞬間を見逃さない。

シュッ

俺の包丁は相手の首筋を切りつける。
なるほどな、そういうことか。

「この血の色、お前人間じゃないな?魔族だろ?」

「へっ、まさかばれるとはなあ。ご名答、俺は魔王四天王の配下、グルゲルだ。」

「そのゲルゲルさんには申し訳ないが早いところ決めさせてもらう。」

「ゲルゲルじゃねえ!グルゲルだ!まあいい、お前はここで殺す!」

俺は包丁を逆手から順手にに持ち替え、体制を整える。

「いくぜえ!おらおらおらあ!」

グィン!カァン!キィン!

刃物のぶつかり合う音が聞こえる。
しかしここまでか....

カキィン!

俺の持つ包丁はついに折れてしまった。

「お前の攻撃手段はなくなった。さどうするんだあ?」

ふっ、笑わせるぜ。
包丁が折れても拳があるわあ!
俺は拳を構えて、息を吐く。
深呼吸し己が精神を集中させる。

『剛腕』

『硬化』

「またスキルかあ?芸達者なことだなあ!」

俺は身体拘束魔法の影響を受けない魔法を使い、目を閉じる。
相手の動きを見るんじゃない。
相手の殺気を探してそこをつく。

ヒュン

敵の攻撃をかわし右腕に力を集約する。

「避けてばかりじゃ倒せないぜえ!」

相手が放つ大きな殺気。
今だ。

「滅火豪龍拳!」

俺は拳を敵の腹部にヒットさせる。

「ぐぁはあ!」

俺の拳はグルゲルの腹を突き破り、ようやく止まる。

「ば、ばかな、この俺が.....ミラヴォーネ様.....。」

バタァン

ふう、終わったか。

「アレス、今のは.....。」

やべえ!そういやボスいたんだった!

「なるほど、(拳で魔族を倒すとは)お前を再評価する必要があるな。」

あっ、ふーん。

ボス『苦戦したうえに包丁折るとかお前雑魚すぎん?再評価が必要だわこれ。』

俺の脳内翻訳機が久しぶりに仕事をする。
もう泣いてもいいよね?
俺強くなんてないよ。

「今日はここでお開きにしよう。どうやら四天王の一人、ミラヴォーネが本格的に動き出したようだ。」

「わかった。俺は屋敷に戻る。また何かあったら呼んでくれ。」

こうして俺は屋敷に戻った。

さっきの戦闘をセリスが見ていたとは知らずに。








セリス『私は.....。』









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