16 / 38
16話 大切なものはちゃんと持ち歩かないとだめだよね
しおりを挟むボスとのデート当日、俺は待ち合わせ場所の時計塔の前で待っていた。
「待ったかアレス?」
俺は声のした方を向く。
え?この人だれ?
「あのお、俺はこれから大切な用事がありまして....。ちょっとお相手をする時間がなくてですね.....。」
「まさか気づいていないのか?私だ、【紅】のボス、フィーナ=イルエスだ。」
えええええぇぇぇぇぇぇ!?
この人がボス!?
ていうか名前今初めて知ったわ。
「すまんボス、いつもとは全く違う見た目をしていたもので、少々びっくりした。」
「仕方ないさ、いつもは仮面で顔を隠しているからな。今日私のことはフィーナと呼んでくれ。」
「わかった、フィーナ。」
何か自分で言ってて変な感じだ。
さてと、今日のプランは.....。
「まずは演劇を見に、テーレン劇場に向かおう。」
「ふふっ、部下に先導される日が来るとは、人生何があるかわからないな。」
笑った顔可愛いな。
恐れ多くも組織のボスとは思えない。
俺たちは劇場に向かい、演劇を見る。
内容は戦場に向かう男の人と、それを送る女の人。
帰ってくるかわからないという不安な気持ちを抱えつつも、男の人を信じて待つ、といったものだ。
「まるでアレスを待っているときの私だな。」
「面白い冗談だな、俺は基本的に簡単な任務しかしてないし死ぬことはないだろ。」
現に今まで仕事でてこずったことはなかったしな。
「お前なあ、簡単な任務と思っているのはお前ぐらいだぞ?大規模な戦闘を何度もこなしているというのに。」
きっと俺のことをフォローして言ってくれているのだろう。
そういうさりげない気遣いができるボスが俺は好きだ。
劇を見終えた俺たちは、そのまま昼食を食べに向かう。
俺はこの日のためにテュルベリア=キャルペニョという高級レストランを予約しておいた。
「ここだ、入ろう。」
「あっ、ああ。こんなおしゃれな店があったとは....アレス、お前良く知っていたな。」
「フィーナも知っているだろう?俺は元諜報員だってこと。」
「そうだったな。」
いざレストランに入ろうとしたその時だった。
「アレス=エングラムだな?」
ん?誰?
俺にこんな知り合いいたっけ?
「まさかお前.....コペン=ディルクスか?」
なんだあ、ボスの知り合いかあ。
「へえ、【紅】のボスに知られてるとは俺も捨てたもんじゃないねえ。」
「アレス気をつけろ、こいつはこの街だけじゃない、この国一番の殺し屋と言われている奴だ。」
へえ、殺し屋ねえ。
え?マジ?
「あんたを殺す依頼があってな。悪いがここで始末させてもらう。」
「アレス、お前武器は持っているか?」
「生憎今日は持ってきていない。完全に浮かれていたな。」
ブーヴィー、こんな時にないなんて使えねえ奴だ。
まあ、俺が置いてきたんですけどね。
「まいったな、私も完全に丸腰だ。」
ふむ、拳で戦えなくはないが、相手は獲物持ち、どうしたものか。
いずれにしろここでは人が多すぎる、とりあえず場所を変えよう。
「コペンだったけか、ここじゃあ邪魔が多すぎる、場所を変えないか?」
「俺はお前さえ殺せれば何でも構わない。」
俺たちは場所をミネルネ高原に移した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ボス、あんたなんでついてきたんだ。」
「流石にお前ひとりにはできん。丸腰の状態で奴と戦うなど、流石のお前でもきついはずだ。」
ボスの気持ちはありがたい、だがこいつの狙いは俺、ボスに万が一のことがあったら困る。
「ボス、悪いが手を出さないでくれ。こいつは俺がやる。」
「ボスと部下の友情ごっこかあ?面白いねえ。良いぜ、お前さんのボスには手を出さないでやるよ。」
とりあえず一安心。
いや待てよ?
俺収納魔法使えるよね?
なんでブーヴィー入れてこなかった?
とりあえず何か獲物になりそうなものは....
うん、ないね。
強いて言うなら料理用の包丁か。
やむ負えん、こいつを使うか。
俺は包丁を構えて戦闘に備える。
「っ!?アレス、流石にそれでは無理があるぞ。」
「今日見た劇場の劇と同じさ。戦場で戦う俺を、あんたは信じて待ってくれればいい。」
そうだ、今の俺には帰る場所がある、絶対に死ねない。
「わかった、アレス、お前を信じる。」
「話は済んだか?なら、行かせてもらうぜえ!」
「!?」
なるほど、流石国一番の殺し屋というだけある。
なかなかの動きだ。
だが惜しいな、動きに無駄が多い、そして殺し屋のくせに力任せすぎる。
しかし俺とて獲物がこれな分、勝つためには速度で勝負するしかない。
『神速』
俺は一気に距離を詰めようとするが.....
「あんたの特技は生憎調べてある、速度に依存するその戦い方もなあ!」
なんだ!?速度スキルを使ったのに体が自由に動かない。
まさかこれは身体拘束系魔法か。
「悪いがあんたの自慢の速度は封じさせてもらったぜえ!さあ、どうする?」
くそっ、妖刀ブーヴィーがあれば相手に効果の跳ね返しができるんだが....
マジでなんで俺おいてきたんだよ、バカじゃないの?
悔やんでも仕方ない、速度スキルが無効化された以上、速度は.....いや普通に俺の方が上じゃね?
とりま相手が攻撃する一瞬を狙ってカウンターを狙うか。
「そらそら、どうしたー?【紅】一のアレスもスキルが使えなきゃこの程度かあ?」
俺は攻撃を翻しながらカウンターを狙う。
え?てかちょっと待って。
こいつ俺一人じゃ何もできんみたいなこと言った?
はあぁぁ?
ブーヴィーなくてもスキル使えなくても俺だってその気になりゃあできることはあるんだからね!
俺は相手の獲物が俺の心臓を狙って突き刺すその瞬間を見逃さない。
シュッ
俺の包丁は相手の首筋を切りつける。
なるほどな、そういうことか。
「この血の色、お前人間じゃないな?魔族だろ?」
「へっ、まさかばれるとはなあ。ご名答、俺は魔王四天王の配下、グルゲルだ。」
「そのゲルゲルさんには申し訳ないが早いところ決めさせてもらう。」
「ゲルゲルじゃねえ!グルゲルだ!まあいい、お前はここで殺す!」
俺は包丁を逆手から順手にに持ち替え、体制を整える。
「いくぜえ!おらおらおらあ!」
グィン!カァン!キィン!
刃物のぶつかり合う音が聞こえる。
しかしここまでか....
カキィン!
俺の持つ包丁はついに折れてしまった。
「お前の攻撃手段はなくなった。さどうするんだあ?」
ふっ、笑わせるぜ。
包丁が折れても拳があるわあ!
俺は拳を構えて、息を吐く。
深呼吸し己が精神を集中させる。
『剛腕』
『硬化』
「またスキルかあ?芸達者なことだなあ!」
俺は身体拘束魔法の影響を受けない魔法を使い、目を閉じる。
相手の動きを見るんじゃない。
相手の殺気を探してそこをつく。
ヒュン
敵の攻撃をかわし右腕に力を集約する。
「避けてばかりじゃ倒せないぜえ!」
相手が放つ大きな殺気。
今だ。
「滅火豪龍拳!」
俺は拳を敵の腹部にヒットさせる。
「ぐぁはあ!」
俺の拳はグルゲルの腹を突き破り、ようやく止まる。
「ば、ばかな、この俺が.....ミラヴォーネ様.....。」
バタァン
ふう、終わったか。
「アレス、今のは.....。」
やべえ!そういやボスいたんだった!
「なるほど、(拳で魔族を倒すとは)お前を再評価する必要があるな。」
あっ、ふーん。
ボス『苦戦したうえに包丁折るとかお前雑魚すぎん?再評価が必要だわこれ。』
俺の脳内翻訳機が久しぶりに仕事をする。
もう泣いてもいいよね?
俺強くなんてないよ。
「今日はここでお開きにしよう。どうやら四天王の一人、ミラヴォーネが本格的に動き出したようだ。」
「わかった。俺は屋敷に戻る。また何かあったら呼んでくれ。」
こうして俺は屋敷に戻った。
さっきの戦闘をセリスが見ていたとは知らずに。
セリス『私は.....。』
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
[完結]勇者の旅の裏側で
八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。
起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。
「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」
「………………はい?」
『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。
依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。
旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。
しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。
人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。
これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。
・1章には勇者は出てきません。
・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。
・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。
・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
女男の世界
キョウキョウ
ライト文芸
仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。
再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。
男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。
彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。
※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる