アイドルは恋愛禁止だけどグループ内恋愛は可能らしい。

松本カナエ

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5. デビューライブ入り

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 デビューライブはすぐだった。
 俺が入る前から段取りは整っていたようで、俺が入って調整するだけのセットリストと、立ち位置まで決まっていて、セトリ作るところからはじまっていたBaTiTが、と感慨深い。至れり尽くせりだ。
 俺は結局やれることをやるだけ。
 歌入れ振り入れは練習で身体が覚えている。
 衣装チェンジのタイミングや、MC、ファンサ曲などはすでに決まっていた。
 怒涛の練習期間、打ち合わせが過ぎ、あっという間にコンサート会場入りをした。
 今まで観に来る側だったでかい会場に、セットが組まれていくさまを俺は呆然と見ていた。
 リハでは他のメンバーも苦戦しているようだった。イメージした以上に大きい会場で、まさか秒単位で凄い距離を移動しながら着替えることになるとは思っていなかった。
 衣装合わせの時も思ったけど、今まで着てた衣装はアイドルのコスプレで、これが本物の衣装なんだなって思った。実は脱ぎやすいようにマジックテープでつけられているとかには「へー」ってなった。だからライブ中に何着も着替えられるんだなとか変なところに感心してしまった。
 公開オーディションもあったので観客が入るだろうと見越してのチケット販売だったが瞬殺だったらしく、できあがったステージの上に立った俺は、客席を見て俺は「この客席が全部埋まるのかよ」と声を失った。

「次の曲は振りとかはなしで、通路移動しながらファンサです。上着は脱ぎながらで途中の待機スタッフに預けて帽子を受けとってかぶります! 上手かみて下手しもてに1名ずつスタッフ待機。上手かみては清島さん吉岡さん、下手しもては川内さん山上さんです」

 舞監から声がかかり、俺はその通りに動く。

「振りとかないから手持ち無沙汰感出ないように」

 演出から声が飛ぶ。俺はできるだけ爽やかに笑いながら、通路の向こうの客席に客がいるのをイメージして、手を振ったり、歌の合間に投げキッスしたりしながら上着を脱いでスタッフに預け、帽子を受け取ってかぶって移動した。
 移動後の配置についてふと見ると、他のメンバーが途中で立ち止まって俺を見ていた。

「えっ? 何かミスあった?!」

 俺が慌ててスタッフを見ると、スタッフさんは首を振る。

「バッチリです! カウントまでに位置についてたし、客席へのアピールも良かったと思います!」

 舞監の返事に、俺の頭にはハテナマークがよぎる。

「すごっ、やるじゃん!」

 吉岡がそう言って俺の肩を叩く。

「新人がこれなのに俺らがビビってられないよな」

 清島がフゥッと息を吐いて「今の部分もう一回お願いします!」と言った。

 何だったんだろうと思ったけど、そのままリハは続いて、ラスト、アンコール想定の曲になる。

「俺たちの一番最初の曲です!!」

 清島が大きな声でマイクに言う。
 こういう時、俺はどんな顔をすればいいのか途方に暮れる。
 篠田が作詞した曲。「バッドでぴえんな俺たち」というコンセプトに合わせた曲。
 歌割りは初期と完璧に変わって、衣装も寄せ集めじゃなくて俺たちのために作られてて、格好いい編集されてアレンジされて、このステージにぴったりに作り変えられてるけど、お客さんが3人しか入らなかった、最初のライブから歌ってた曲。
 色々考えてしまい、ボーッとして、つい、篠田のパートで入ってしまう。

「あ! すみません、間違えました!!」

 謝りながら視界の隅で川内の表情が曇るのが見えた。

「ちょっと止めてもらっていいですか?」

 川内が言うので、空気がピリッとする。

「ちょっと来い」

 俺は端に呼ばれる。

「俺たちは、オーディションで入れるやつを選ぶ時に『俺たちのファンだけは選ばない』って決めてたんだ。山上はオーディションでは全然俺たちのファンには見えなかった。純粋に芸能界を、アイドルを目指しているように見えた。だから選んだんだ。何で今更そんなに篠田にこだわるんだ?」

 川内の指摘は痛い。
 そんなつもりじゃなかった。それは本当だ。俺だって篠田の記憶が蘇らなければ、こんな風に間違えることもなかった。
 けれど、俺にはもう篠田の記憶があって、起きたら忘れてないかな、記憶喪失にならないかなって思ったけど無理だった。

「こだわってるつもりはありませんでした。本当にただ入りを間違えてしまっただけです」

 俺は川内を真正面から見返した。

「ご指摘ありがとうございます。初めての大きなステージで緊張してしまって、本当に単純に……あと、皆さんも歌割り変わったからだと思うんですけど、一瞬入りが遅れる時ないですか? 多分それ篠田さんのパートのところかなと思うんですけど……篠田さん亡くなって、まだ時間が経ったわけじゃないので、篠田さんの存在がチラついてしまうのは仕方ないことなんじゃないですか?」

 川内は、俺の言ったことに思うところがあったのか、しばし黙ると「次は間違えるなよ」とだけ言った。
 そう、俺は気になっていた。
 川内は俺にだけ厳しい。
 正直言って、新しい歌割りに慣れてないのはみんな一緒で、清島は篠田のパート振られてるところを忘れがちで一瞬拍がズレている時がある。それについては川内は指摘しないのだ。

(俺、嫌われてるな……多分……)

 俺は少し寂しい気持ちになりながら、頭を切り替えてその後のリハを進めた。

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