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【おまけ】卒業旅行は温泉に!! 前編
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ある日突然横峯が大学生協から旅行のパンフレットを山程抱えてきて、「さあ、卒業旅行に行こう!!」と旅行会社のCMみたいに言ったから、高大は思わず横峯の顔をまじまじと見てしまった。
旅行のパンフレットは、イサマルとかドブロヴニクとかシャウエンとか、どこの国の都市だかわからないおしゃれな名前が書いてある。
高大は慌てた。
「ごめんっ、俺……!!」
横峯の顔が青ざめ、高大に振られたかのような絶望的な顔になる。高大は高大で相当申し訳なさそうにか細い声で「俺、パスポート持ってない」と言った。
「うわー、そうか、その可能性を全然考えてなかった。ごめん。いきなり海外とか、ハードルが高すぎたよね。パスポートは作る手続きしとくとして……」
高大が旅行自体を忌避しているわけではないとわかった横峯は、「そうだ! 温泉に行こう!!」と言い出した。
オメガは修学旅行に行けない。
厳密には行けないわけではないのだが、何かあっても学校側では責任を負わないという形で、リスクを抱えて修学旅行に行く者がいないというだけである。
だから、高大は旅行なんてしたことがなかった。
遠足もほぼ行かなかったので、「遠足前の夜状態だな」と横峯に指摘されて、初めて高大は自分がそういう状態なのだと知った。
さっきから旅行鞄を開けしめして、忘れ物がないか何度もチェックしている。薬は持ったか、歯ブラシは、着替えは、と何度目かの確認をしていたら、高大の頭の上から聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「現地で買っても大丈夫なんだから」
現地で買う、なんて想像もしていなかったから、高大ははビックリして横峯を見つめた。
「買うの?」
「忘れたら、だよ。だから心配しなくても大丈夫」
ホッとするというより、余計不安になって、横峯の顔を見つめていると、ムニッと頬をつままれた。
「そんな緊張した顔してないで楽しい旅行にしよ」
つまんだ頬をそっと両手で包んで、軽いキスをされる。
安心感に、高大の顔の筋肉が緩む。
「ちょっとその顔はズルい」
横峯が言うが、自分の顔が今どの顔かなんてわからない。高大がぎゅむっと顔に力を入れると、またキスをされた。
「楽しい旅行にしよ?」
もう一度言われて高大が慌てて頷くと、横峯に優しく微笑まれた。
翌日は、洗濯日和の青空……とはいかなかった。
ちょっとガッカリした高大に、横峯は笑って「洗濯日和だったら洗濯したくなっちゃうでしょ」と言って、買ったばかりの車に、荷物と高大を乗せた。
軽自動車だけど、背が高くて室内が広めの車は新しい匂いと、横峯の匂いがした。
「何か、いい匂いするね」
ボソッと高大が言うと、横峯は高大のかぶっていたキャップをギュッと下げた。
「……出発前から意識しちゃうからそういうこと言っちゃだめだよ」
苦笑いし横峯はシートベルトをつける。明るく「出発ー!」とオーディオのスイッチを入れて出発した。
オーディオから流れた曲は恋愛ドラマの主題歌になってた曲で、高大はフフッと笑ってしまう。雰囲気重視の横峯のチョイス。
ナビは前の日から入れていたらしい。横峯も準備万端で、同じだなと高大は嬉しくなる。
横峯の運転は危なげなく、「普段から乗ってるの?」と高大が聞くと、「ペーパー講習通ったから」とこともなく言う。
高速は平日だからか空いている。横峯の運転は特にヒヤッとするところもなく、たまに背の高いトラックがビュンと追い越し車線を飛ばしてくるので、高大はひとりでビクッとしてしまう。横峯は鼻歌まじりに運転しながら、たまに左手で高大に触れてくるので「もう、運転に集中してよ!」と何度も高大は横峯に注意した。
お昼に寄った蕎麦屋は古民家を改装したという趣のある店だった。
メニューも色々おいしそうで、悩んでしまう。
「うーん……」
季節の野菜天ぷらがついている定食がおいしそうだなと思いながらメニューをめくると、山菜おろし蕎麦があったので、これと決める。山も近いし山菜は豊富に違いない。
店員さんが注文を聞きに来て、二人一緒に「山菜おろし蕎麦」と注文して笑ってしまう。大学で会った時の食堂で高大が食べたメニューだった。二人ともきっと同じことを考えている、と目を見合わせる。
追加で、野菜天ぷら盛り合わせと蕎麦屋なのになぜかメニューに入っているとりもつ煮も頼んでみる。
「うまー……」
出てきた食事に舌鼓を打つ。謎の葉っぱの天ぷらもおいしい。頼んだメニューが全部当たりで頬が緩む。
駐車場で軽く挨拶した他の客が駅の近くのジェラート屋に行くと言っていたので、「俺たちも行ってみる?」と寄り道を決める。ナビに場所を追加して向かう。ちゃんと駐車場があって良かった。
本格的なジェラートのガラス張りの店。フルーツの名産地だから、フルーツの果肉入りのジェラートが多い。更には地元のミルクなどを使用していると書いてある。
濃厚でコクのあるミルクと、生の果物の味わいのジェラート。
二人で別々のジェラートを選ぶ。高大は柚子とチョコ、横峯はミルクとイチゴ。
「はー、しみる……」
口に入れて目尻が下がる。
「こっちも食べてみる?」
高大はスプーンとジェラートのコーンを横峯の方に傾ける。
「……ふっ、カップルみたいだね」
ニコニコと横峯が口を開けたので、「あっ」となって高大はあまりの照れくささに、スプーンではなくコーンを横峯の口に突っ込んだ。
「うぐっ」
幸せの甘さだった。
地元のワイナリーにも寄って、試飲していいという横峯にかぶりを振って、「一本買っていこう? 旅館で飲も?」と高大が言う。
「いいよ」
観光を満喫して旅館に到着する。
旅行のパンフレットは、イサマルとかドブロヴニクとかシャウエンとか、どこの国の都市だかわからないおしゃれな名前が書いてある。
高大は慌てた。
「ごめんっ、俺……!!」
横峯の顔が青ざめ、高大に振られたかのような絶望的な顔になる。高大は高大で相当申し訳なさそうにか細い声で「俺、パスポート持ってない」と言った。
「うわー、そうか、その可能性を全然考えてなかった。ごめん。いきなり海外とか、ハードルが高すぎたよね。パスポートは作る手続きしとくとして……」
高大が旅行自体を忌避しているわけではないとわかった横峯は、「そうだ! 温泉に行こう!!」と言い出した。
オメガは修学旅行に行けない。
厳密には行けないわけではないのだが、何かあっても学校側では責任を負わないという形で、リスクを抱えて修学旅行に行く者がいないというだけである。
だから、高大は旅行なんてしたことがなかった。
遠足もほぼ行かなかったので、「遠足前の夜状態だな」と横峯に指摘されて、初めて高大は自分がそういう状態なのだと知った。
さっきから旅行鞄を開けしめして、忘れ物がないか何度もチェックしている。薬は持ったか、歯ブラシは、着替えは、と何度目かの確認をしていたら、高大の頭の上から聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「現地で買っても大丈夫なんだから」
現地で買う、なんて想像もしていなかったから、高大ははビックリして横峯を見つめた。
「買うの?」
「忘れたら、だよ。だから心配しなくても大丈夫」
ホッとするというより、余計不安になって、横峯の顔を見つめていると、ムニッと頬をつままれた。
「そんな緊張した顔してないで楽しい旅行にしよ」
つまんだ頬をそっと両手で包んで、軽いキスをされる。
安心感に、高大の顔の筋肉が緩む。
「ちょっとその顔はズルい」
横峯が言うが、自分の顔が今どの顔かなんてわからない。高大がぎゅむっと顔に力を入れると、またキスをされた。
「楽しい旅行にしよ?」
もう一度言われて高大が慌てて頷くと、横峯に優しく微笑まれた。
翌日は、洗濯日和の青空……とはいかなかった。
ちょっとガッカリした高大に、横峯は笑って「洗濯日和だったら洗濯したくなっちゃうでしょ」と言って、買ったばかりの車に、荷物と高大を乗せた。
軽自動車だけど、背が高くて室内が広めの車は新しい匂いと、横峯の匂いがした。
「何か、いい匂いするね」
ボソッと高大が言うと、横峯は高大のかぶっていたキャップをギュッと下げた。
「……出発前から意識しちゃうからそういうこと言っちゃだめだよ」
苦笑いし横峯はシートベルトをつける。明るく「出発ー!」とオーディオのスイッチを入れて出発した。
オーディオから流れた曲は恋愛ドラマの主題歌になってた曲で、高大はフフッと笑ってしまう。雰囲気重視の横峯のチョイス。
ナビは前の日から入れていたらしい。横峯も準備万端で、同じだなと高大は嬉しくなる。
横峯の運転は危なげなく、「普段から乗ってるの?」と高大が聞くと、「ペーパー講習通ったから」とこともなく言う。
高速は平日だからか空いている。横峯の運転は特にヒヤッとするところもなく、たまに背の高いトラックがビュンと追い越し車線を飛ばしてくるので、高大はひとりでビクッとしてしまう。横峯は鼻歌まじりに運転しながら、たまに左手で高大に触れてくるので「もう、運転に集中してよ!」と何度も高大は横峯に注意した。
お昼に寄った蕎麦屋は古民家を改装したという趣のある店だった。
メニューも色々おいしそうで、悩んでしまう。
「うーん……」
季節の野菜天ぷらがついている定食がおいしそうだなと思いながらメニューをめくると、山菜おろし蕎麦があったので、これと決める。山も近いし山菜は豊富に違いない。
店員さんが注文を聞きに来て、二人一緒に「山菜おろし蕎麦」と注文して笑ってしまう。大学で会った時の食堂で高大が食べたメニューだった。二人ともきっと同じことを考えている、と目を見合わせる。
追加で、野菜天ぷら盛り合わせと蕎麦屋なのになぜかメニューに入っているとりもつ煮も頼んでみる。
「うまー……」
出てきた食事に舌鼓を打つ。謎の葉っぱの天ぷらもおいしい。頼んだメニューが全部当たりで頬が緩む。
駐車場で軽く挨拶した他の客が駅の近くのジェラート屋に行くと言っていたので、「俺たちも行ってみる?」と寄り道を決める。ナビに場所を追加して向かう。ちゃんと駐車場があって良かった。
本格的なジェラートのガラス張りの店。フルーツの名産地だから、フルーツの果肉入りのジェラートが多い。更には地元のミルクなどを使用していると書いてある。
濃厚でコクのあるミルクと、生の果物の味わいのジェラート。
二人で別々のジェラートを選ぶ。高大は柚子とチョコ、横峯はミルクとイチゴ。
「はー、しみる……」
口に入れて目尻が下がる。
「こっちも食べてみる?」
高大はスプーンとジェラートのコーンを横峯の方に傾ける。
「……ふっ、カップルみたいだね」
ニコニコと横峯が口を開けたので、「あっ」となって高大はあまりの照れくささに、スプーンではなくコーンを横峯の口に突っ込んだ。
「うぐっ」
幸せの甘さだった。
地元のワイナリーにも寄って、試飲していいという横峯にかぶりを振って、「一本買っていこう? 旅館で飲も?」と高大が言う。
「いいよ」
観光を満喫して旅館に到着する。
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