洗濯日和!!!

松本カナエ

文字の大きさ
上 下
15 / 20

15. 縁とは不思議なもので

しおりを挟む
 気分転換にと横峯が誘ってくれたデートだったが、ここで働きたいなと高大は思った。
 そう横峯に言うと、苦笑いされる。
「将来ここで結婚式したいなって思って欲しかったんだけど……働きたい、ねぇ……」
 チラチラと、働いているスタッフたちを見ながら、横峯はうなる。
「まあ、オメガの社長がやってるってだけあって、変なやつはいなそうだね。ただ、変な客はいないわけじゃなさそうだからなー……」
 心配そうに高大を見る横峯に、高大は眉を下げた。
「いや、そんな俺だって変なやつに絡まれてばっかりじゃないよ……今まで全然そんなことなかったし。あそこの面接官が外れだっただけで……」
「そうだろうけど……一応ね」
 困り顔の高大の口の中に横峯が茶色いプチフールを突っ込む。
「ん! うま!!」
 チョコレートの味のプチフールはかわいくて美味しい。隣にはまた違う形と色が並んでいる。高大は、さっきまでのことを忘れたかのように一個ずつプチフールを試食していく。
「うまっ!」
 どこがどうおいしいとは言えないが、甘さもちょうど良くて次々食べてしまう。
「全部うまい! どれが一番好きかなって思ったけど、どれもうまい!!」
 絶賛した高大のそばでクスリと笑う人がいて、高大は口をつぐんだ。
「すみません。おかわいらしい反応でしたので……」
 その人はスラリと背が高く骨太そうな体格で、纏うオーラが芸能人かなと思うくらいだった。
 一瞬、横峯がピリッとした空気になり、高大を引き寄せた。
「そんなに警戒しなくても……」
 苦笑いをしてその人は名刺を差し出してきた。
「パティスリー……ジャドレララバント??」
 名刺は横書きで、横文字が並んでいる。
  Patisserie j'adore la lavande
  Patissier 佐野享
 そう書いてある名刺を見ながら首をかしげている高大に、笑いながらその人が自己紹介した。
Patisserieパティスリーj'adoreジャドーレ la lavandeラバンドです。佐野さのとおると申します」
「へぇー……あ、もしかしてこのケーキ!!」
 佐野は肯定するようににっこり笑った。
「全部おいしくて、ほんとうにすごいなって話してて」
「ありがとうございます」
 ちらっと佐野が横峯にも視線をやり、高大は慌てて自己紹介する。
「鈴木高大です。こっちは横峯大輔……」
 横峯は自己紹介する高大を複雑そうに見ている。
「お二人は番になられて……ご結婚される??」
 結婚式場に見学に来ているのだから、普通はそうに決まっているのだが、そこまですぐにうんと言えず高大は横峯を見た。
「ええ、いずれ」
 堂々と答える横峯は、未だに警戒を解いていない。高大はおろおろしながら、佐野を見ていた。
 横峯は警戒しているが、高大には温かいまなざしに見えて、笑顔を返した。すると、高大を引き寄せた腕が強くなる。
「ハハッ、そんなに警戒しなくても、私は一途ですから。番以外に邪な感情は抱きませんよ」
 朗らかな態度は崩さないで、佐野は「これもオススメです」と差し出してくる。
 プチシューはかわいくて、口に入れるとフワッと香って中からカスタードが出てくる。
「うまっ!」
 高大は、ピリピリした横峯の口にもプチシューを突っ込む。
「ん! ……うまい……」
 横峯がうなる。
「結婚式ではプチシューのタワーが人気なんですよ。クロカンブッシュって言って、高く積んだシューのひとつひとつに感謝の気持ちが込められてるんです」
 高大は感心したようにプチシューのタワーを眺める。フルーツも飾りつけられていて、見た目にもとても華やかなのに、なぜか派手なだけではなく慎ましくも見える。
 そのクロカンブッシュに糸のように飴が絡んでいて、鳥の巣のようになっている。
「オメガの巣作りのイメージです」
 笑みを深くして佐野は言う。それはそれは幸せそうに。いつの間にか横峯の顔も緩んでいる。
「私にも番がいまして。巣作りしてもらえた嬉しさをウエディングケーキに表したいと思って作りました」
 そう言われてもう一度クロカンブッシュを見ると、飴にはキラキラとアラザンなどがくっついていて、フルーツの他にナッツなども散らばっている。
「アレルギーの方たちに対応する意味でも、飾っているところからの取り分け以外にもプチシューを用意しています」
 視線に気づいたのか佐野が説明してくれる。
「素敵ですね」
 心からそう思って、高大は言った。
 佐野の笑みが深くなる。
「私も番も、あなた方がここで結婚式をやってくださったら大歓迎します」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...