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14. デートは青空の下
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横峯と番って、スッキリした気持ちで高大は就職活動に身を入れ直した。
企業には一定数のオメガを雇う義務があり、オメガ枠を設けている企業が多いが、そういう枠はいいところからさっさと埋まってしまう。誰だって良い環境で働きたい。オメガが良い環境で働くためにはそういう環境が整った企業は争奪戦になりやすいのは当たり前で、ゴタゴタから出遅れてしまったため、高大は手当たり次第に受けていた企業を改めて見直してチェックすることにした。
「うーん……」
ノートパソコンの前で根を詰めている高大に、横峯がホットミルクを入れてくれる。
「無理しないで、自分にあったとこみつかるといいね。でも、今度の週末はちょっと休もう」
後ろからハグされて、うなじに横峯のおでこがコツンと当たる。首筋にかかる髪の毛がくすぐったくて高大が身動ぎすると、パッとおでこが離れて、顔がのぞき込まれた。横峯と間近で目が合う。高大は横峯にするっと眉間を撫でられて、額の髪の毛が横峯の両手で直される。
「パソコンとにらめっこしすぎだよ」
高大は横峯の指摘に目を細めて横峯を見つめる。見つめた先にあった横峯の表情に心配する色が見えて高大は首を傾げる。
「そんなに集中してたかな?」
確かに目がしぱしぱして、高大がまばたきをするとまぶたにキスを落とされる。
「今週末は就活も休んで、一緒に出かけよう?」
横峯が言う。
「どこに??」
「デートだよ」
「デート??」
横峯が高大を連れてきたのは、オシャレな庭だった。
青々とした芝生と植え込みに囲まれている。
ブライダルフェアと看板があり、ガーデンパーティの見本になっていた。
「ちょ、ここ……結婚式場じゃ……」
怯む高大の背中を横峯は押してエスコートすると、ニコニコ笑顔のスタッフが二人を奥に案内した。
「いいのかな? 予定があるわけじゃないのに」
高大が言うと、「え、俺は噛んで番にしたのに結婚式も考えないようなやつだと思われてる?」と横峯が眉を下げる。
「いや、何か、男同士だし、俺オメガだし、そういうのいらないかなって」
そう言う高大にスタッフはニコニコと笑いながら、「よくそう言われる方いらっしゃいます」と相槌を打った後、「うちは社長が男性オメガなのですが、私どもで社長の結婚式をプランニングいたしまして、とても楽しかったんです。なので、私どものためにもここで式をあげることを検討していただけたらとても嬉しいです」と言いながら、案内してくれる。
何だか感じが良くて、オープンなガーデンスペースは風が気持ちいい。
「どうぞ、立食形式なので、試食してみて下さい」
すすめられて、恐る恐る高大は皿とフォークを持つ。
「緊張しないで軽く食事しにきたみたいな気持ちで見ていいんだよ」
なぜか横峯が言って、スタッフが微笑む。
「お二人のような素敵なカップルに使っていただけたら、とても良い宣伝になると思うので、私どもとしては今日は楽しんで見ていっていただけたら……」
風がフワッと通り過ぎる。
「いやー、今日は風がちょっと強かったですね」
スタッフに言われて、空を見上げると高く青い空が広がっていた。
「洗濯日和ですね」
高大が言うと、横峯がちょっとギョッとした顔になる。
「えっ、何か変なこと言った?」
高大は慌てる。
「いや……あまりにもいい洗濯日和だから、これから帰って洗濯するとか言われちゃうのかと思って、ちょっと……ごめん」
聞いていたスタッフがフッと笑って、高大も笑った。
「お二人の結婚式のイメージがわいてきましたよ。こう、今ここに旗が飾ってあるじゃないですか。ここに洗濯物干しましょう」
スタッフが唐突に提案してくる。
「お二人にとって、洗濯が共通のキーワードになってるのかなって思ったので……」
高大と横峯は目を見合わせた。
「確かにそうです」
今この一瞬でそこまでのイメージをしたのかと驚きスタッフを見る。
「職業柄、どうしてもこの二人ならどんな式にするかなって考えちゃうんですよ」
ちょっと頭に手をやってから、スタッフが「色々見てみて下さい」と言葉を締めくくる。
「あ、いらっしゃいませー」
スタッフが離れていこうとした時、スッとした姿勢の良い色白で清潔感のある男の人が気さくに声をかけてきた。いらっしゃいとの言葉からスタッフだとわかるが、他のスタッフのような制服を着ておらず、スーツを着ている。
「あ、社長」
スタッフが声をかけたので、二人にも先ほど話に出た社長がこの人だとわかって、会釈をする。
「楽しんでいってくださいね!」
爽やかに笑って去って行く姿に、高大は純粋に憧れを抱いて見送った。
堂々とした姿のオメガ、そういう風に胸をはって生きられる自分になりたいと高大は思えた。
それは、横峯がいてくれたからだと高大は、隣で試食を食べ始めた横峯を見た。
横峯の向こうに空の青が見えて、高大は眩しくて目を細めた。
企業には一定数のオメガを雇う義務があり、オメガ枠を設けている企業が多いが、そういう枠はいいところからさっさと埋まってしまう。誰だって良い環境で働きたい。オメガが良い環境で働くためにはそういう環境が整った企業は争奪戦になりやすいのは当たり前で、ゴタゴタから出遅れてしまったため、高大は手当たり次第に受けていた企業を改めて見直してチェックすることにした。
「うーん……」
ノートパソコンの前で根を詰めている高大に、横峯がホットミルクを入れてくれる。
「無理しないで、自分にあったとこみつかるといいね。でも、今度の週末はちょっと休もう」
後ろからハグされて、うなじに横峯のおでこがコツンと当たる。首筋にかかる髪の毛がくすぐったくて高大が身動ぎすると、パッとおでこが離れて、顔がのぞき込まれた。横峯と間近で目が合う。高大は横峯にするっと眉間を撫でられて、額の髪の毛が横峯の両手で直される。
「パソコンとにらめっこしすぎだよ」
高大は横峯の指摘に目を細めて横峯を見つめる。見つめた先にあった横峯の表情に心配する色が見えて高大は首を傾げる。
「そんなに集中してたかな?」
確かに目がしぱしぱして、高大がまばたきをするとまぶたにキスを落とされる。
「今週末は就活も休んで、一緒に出かけよう?」
横峯が言う。
「どこに??」
「デートだよ」
「デート??」
横峯が高大を連れてきたのは、オシャレな庭だった。
青々とした芝生と植え込みに囲まれている。
ブライダルフェアと看板があり、ガーデンパーティの見本になっていた。
「ちょ、ここ……結婚式場じゃ……」
怯む高大の背中を横峯は押してエスコートすると、ニコニコ笑顔のスタッフが二人を奥に案内した。
「いいのかな? 予定があるわけじゃないのに」
高大が言うと、「え、俺は噛んで番にしたのに結婚式も考えないようなやつだと思われてる?」と横峯が眉を下げる。
「いや、何か、男同士だし、俺オメガだし、そういうのいらないかなって」
そう言う高大にスタッフはニコニコと笑いながら、「よくそう言われる方いらっしゃいます」と相槌を打った後、「うちは社長が男性オメガなのですが、私どもで社長の結婚式をプランニングいたしまして、とても楽しかったんです。なので、私どものためにもここで式をあげることを検討していただけたらとても嬉しいです」と言いながら、案内してくれる。
何だか感じが良くて、オープンなガーデンスペースは風が気持ちいい。
「どうぞ、立食形式なので、試食してみて下さい」
すすめられて、恐る恐る高大は皿とフォークを持つ。
「緊張しないで軽く食事しにきたみたいな気持ちで見ていいんだよ」
なぜか横峯が言って、スタッフが微笑む。
「お二人のような素敵なカップルに使っていただけたら、とても良い宣伝になると思うので、私どもとしては今日は楽しんで見ていっていただけたら……」
風がフワッと通り過ぎる。
「いやー、今日は風がちょっと強かったですね」
スタッフに言われて、空を見上げると高く青い空が広がっていた。
「洗濯日和ですね」
高大が言うと、横峯がちょっとギョッとした顔になる。
「えっ、何か変なこと言った?」
高大は慌てる。
「いや……あまりにもいい洗濯日和だから、これから帰って洗濯するとか言われちゃうのかと思って、ちょっと……ごめん」
聞いていたスタッフがフッと笑って、高大も笑った。
「お二人の結婚式のイメージがわいてきましたよ。こう、今ここに旗が飾ってあるじゃないですか。ここに洗濯物干しましょう」
スタッフが唐突に提案してくる。
「お二人にとって、洗濯が共通のキーワードになってるのかなって思ったので……」
高大と横峯は目を見合わせた。
「確かにそうです」
今この一瞬でそこまでのイメージをしたのかと驚きスタッフを見る。
「職業柄、どうしてもこの二人ならどんな式にするかなって考えちゃうんですよ」
ちょっと頭に手をやってから、スタッフが「色々見てみて下さい」と言葉を締めくくる。
「あ、いらっしゃいませー」
スタッフが離れていこうとした時、スッとした姿勢の良い色白で清潔感のある男の人が気さくに声をかけてきた。いらっしゃいとの言葉からスタッフだとわかるが、他のスタッフのような制服を着ておらず、スーツを着ている。
「あ、社長」
スタッフが声をかけたので、二人にも先ほど話に出た社長がこの人だとわかって、会釈をする。
「楽しんでいってくださいね!」
爽やかに笑って去って行く姿に、高大は純粋に憧れを抱いて見送った。
堂々とした姿のオメガ、そういう風に胸をはって生きられる自分になりたいと高大は思えた。
それは、横峯がいてくれたからだと高大は、隣で試食を食べ始めた横峯を見た。
横峯の向こうに空の青が見えて、高大は眩しくて目を細めた。
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