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③
しおりを挟む差し出されたボードに目を移す。
上位人気種族としては『人間』、『エルフ』、『魔族』、え、魔族入ってんの。やめとけよあんな種族、『犬』、『猫』、『ドラゴン』、『妖精』、『幻獣』、『精霊』……ってところか。
見慣れないのは『猫』と『犬』? 魔族大陸《ローカストス》には居なかったから、恐らくこれは人族大陸《ミュステン》に住んでいる生き物だろう。
「あの、この、猫?とか犬っていうのはどんな生き物なんですか」
「此方はローカストスで言う魔尾《シュェ》、魔爪《リャヤ》でございます。四つ足で歩行する小動物でして、野生にもおりますが基本的にはペットとして飼われておりますね。詳しいことはカタログの一六ページに載っていますので、気になるようでしたら是非ゆっくりとお読みになって下さい。カウンター内は時間の流れが違いますので、待ち時間等はお考えにならなくて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
後ろを気にしていたのもばっちり見られていたらしい。なんだか恥ずかしい気持ちでカタログに目を落とす。
犬ってのは人族と古くから付き合いがある生き物らしい。忠誠心に溢れた種族で種類も様々。小型犬から大型犬まで、なるほど、確かにこっちで言う魔尾《シュェ》に近い。こっちのはもっと気性荒いし、あんまり懐かないけど。
猫ってのは何? 魔爪《リャヤ》はこっちじゃ呪いの象徴、触れると災いがあるって言われてて忌み嫌われてるんだけど…………お、おお……自由気ままな種族か。人族の中には猫に人生を捧げたり生活を猫中心にしている者も居るのだとか。なんだ、支配者スキルでもあるのか?
成る程なあ、自由か……。
正直今更人族になって柵の中で生きるのも、もう一回魔族やり直すのも微妙だし、そもそもあんまり人と会話もしたくない。誰かに付き従うのも、まああと百年くらいしたら考えても良いけど今は良い。
うーん、猫。なんかよさげだな……、いや、でも待てよ!
「あの、これってやっぱり、小動物だと生まれによっては危険だったりしますか?」
当然のように人に飼われたり安全な場所で生活出来る前提で考えていたが、こんな脆弱そうに見える生き物が一匹で生まれ落ちて大丈夫なんだろうか? 危なくないのか?
サイズ感とか見たら俺の手のひらくらいしかないじゃん。俺が魔族でも最弱なのに、俺でも握りつぶしちゃいそうなくらいか弱い生き物に思える。こんなんで生き残れるのか?
不安に思って尋ねた俺に、モニカさんはにっこり笑って今度は別のボードを取り出した。
「その点に関しては問題ありません! アレルスマイアー様は功績点が三億四千万点ございますので、大抵の災難にはあいませんし、寧ろ限りなく恵まれた状況で生を受けることも可能です」
「三億……ってのは多いんですか?」
「一般的には五千万点ほどですね」
「えっ、俺大分多くないですか!? なんでそんな、功績点?あるんですか!?」
「それだけ素晴らしい功績を残されたと、大神様が判断されたということです。ファイルを拝見させて頂きましたが、私も確かに三億四千万点に相応しい生涯だと思います。本当にお疲れ様でした、是非とも、次の生は楽しく謳歌して下さいませ」
にっこり笑うモニカさんの顔が、涙で滲んでよく見えない。
そうか。俺の頑張りは何も無駄じゃ無かったんだ。配下にこき使われるような情けない魔王だったし、民には嫌われまくってたけど、それでも、俺の頑張りを神様は見てたんだな。
俺は乱暴に仮面を外すと、モニカさんが温かいお茶を差し出してくれてからも暫く、声も無く泣き続けてしまった。
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