精霊の落とし子は、ほんとにあんまりやる気がない。


「此処は物語の世界なの。私はいずれ断罪されて幽閉された後、孤独と飢えの中で死んでしまう悪役令嬢なのよ」

 ある日、幼馴染のマリーディアは、なんともとち狂ったことを呟いた。

 ロバートは知っている。この世界は物語なんてものではない。
 もっと理不尽で窮屈でつまらなくて、それでいて愛しい世界だ。だってマリーがいるのだから。

 愛する幼馴染のため、ロバートはひとまず彼女の婚約者となることにする。
 いつかマリーが自分より好きな人ができたら、いつだって身を引く所存だ。
 だって、僕より素晴らしい人は五万といるのだし。
 僕はマリーが好きだけれど、マリーは断罪を恐れているだけで、避難のための婚約なのだし。

 ロバートはマリーが幸せになれるなら、それでちっとも構わなかった。


 一方のマリーはといえば。
 ロバートがいつか『本物の恋』に落ちてしまって、自分をお飾りの妻にしてしまったらどうしようか、と不安に駆られていた。

 だって、自分よりも余程素晴らしい令嬢はこの世に五万といるのだし。
 ロバートは幼馴染の自分を哀れに思って助けてくれただけで、そこにあるのは親愛でしかないのだし。


 なんて考えている素朴フェイスの強強ぼんやり主人公と、悪役やるにはちょっと向いてない小心者な美貌の公爵令嬢が、紆余曲折を経て無事に思いを確かめ合う話。



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