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第589話 絶対に見たくなかったもの

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「ぐぐぐぅ・・」

「<慈悲深きレアナーよ、末妹セーが願い奉る、愛し子が嫁、春日井遥が壊れぬだけの治癒の安らぎを>」


セーが治療してくれているが全身がきしむ

受け入れられるだけの器があっても、あまりにも強い圧がかかれば負担は大きくなる

水道の蛇口で湯呑に水を入れるのであれば問題はないだろう

しかし高圧洗浄機で水を当てればどうなる?

湯呑は割れるかもしれないし割れないかもしれない


ただ、私は湯呑ではない・・壊れてもセーに治してもらえるしきっと大丈夫だ


洋介を助けに行くのに私はここまでかも知れないが、それでもやれるだけのことはやった・・・やって後悔はない

肉の塊からゆらりゆらりと人の魂が抜けていくのを見て意識が保てなくなった











「なぜだ!!なぜなぜなぜ!!!!!ウェクンダンがっ!!?しかしまだ!まだ死なない!!ウェクンダンもっ!!私もぉ!!!」


僅かに残った肉片を号泣しながら素手で集めるようにしている男


「そこですね?」


ヂンっ!


「あっ返せ!返せ!!あがっ!?腕!私の腕ぇっ!!!?>」

「これが本体ですか・・」


僅かに残った肉をエゼルさんが切り刻むと蝶の姿の彫られたコインが出てきた

男も何らかの魔法が解けたのか、肉を集めていた腕が肘の先で切り落とされている


「ダリア、リリア」

「<おう!おねーちゃん!!>」

「ひぃっ!!?ま、まってく「<てめぇみたいなやつは生きてちゃいけねぇんだよ!魂ごと破壊してやらァ!!!!>」


ダリアさんの横に薄く見えるダリアさんによく似た人が男を結界で包み込み、ダリアさんが男を猛然と殴りまくっていた


「<やめっ・・!?!く、マティ っ!!  たす グ   ガッ!  たすけ!!>」

「<しぶてぇなぁ!!!潰れて消滅しやがれやオラァァアアアア!!!!!!!>」

「<やめ へ  !  やめ !  くだ   さ    !!>」


キュドンキュドンと・・とてもパンチで出せるような音ではない

逃げ場がないように男の向こう側に障壁が展開されて肉が辺りに飛び散ることもなくその場で破壊の限りを尽くされている

完全に潰しまくってるはずなのに、潰されて潰されても死なない男

命乞いをしようとしてるようだがダリアさんに慈悲はなく、治る度に体が貫通するほどに殴られ続けている

エゼルさんは肉の中にあったコインを興味深そうに見ている


「ふむ、これが核のようですね・・ダリア!続けなさい!!」

「<あいよっ!>」

「<   コ   ば   っ!!     ガ    クソ     >」


肉人形はあのコインで再生していて、今は男を再生し続けているようだ

そして代わりに、頭上の蝶が男が潰される度に見る見る縮んで行ってる


「<じゃあな!終わりだクソ野郎がっ!!>」

「<      し     に     だ         な  い   >」


苦悶の表情を浮かべている男を見て、あちらはもう大丈夫だろうと遥を抱いて、魔道具を手に取る

遥の周りで飽和して吸い込まれていく力の流れをこちらに向ける

使ったのは遥で、私が途中で使うのは通常の使い方ではない

だがこのままでは遥が危ないとわかる

あのオークは誰も邪魔されない状況を作り出し、元杉神官を切り刻んで結構な時間をかけて昇華した

だけどあの肉はかなりの量が一気に結晶化して遥に吸われていく

遥の身体から骨が割れる音が聞こえるし血管がかなり浮かんで、明らかに危険とわかる

訓練で使ったときにはこんな事は起きなかったし、この魔導具は身体の負担がかからないようなつくりになっていると思っていた・・完全に誤算だ

私が遥の持つ魔道具に介入するのは危険かもしれない


だけど、それでも、このままだと確実に遥は死んでしまう


元杉神官には遥が必要だ


「うくぅっ!!」


力の流れの大本は遥から変えられなかったけどそれでも遥に一度入ろうとして弾かれてまた戻ろうとしてる・・その分だけでも分だけでも私が吸っていく

私が吸って、できるだけ使っていく

近くにいた騎士たちに力を流し、家電のアース線のような役割を果たして、遥への負担を軽減する

彼らは昇華のためにダンジョンをさまよう存在であって満たされるまで物凄い時間がかかるらしい

単純に外に排出したいが排出したらすぐに魔道具に吸い込まれて遥のもとに戻っていってしまう

母さんを治すために訓練して、流され方と、流し方を覚えてよかった

じゃないとすぐに私も倒れていたはずだ


指が何本か折れていくし爪もない、血管が裂けて肘も痛めた


かなり無理やりで、腕の肉がめくれて骨が見えそうだ


もしかしたら右手、後遺症残るかもしれない


だけど、遥はもっと辛いはずだ



ついてきた全ての騎士が昇華し、ロムのもとから飛んできたタカくんとポポンにも吸ってもらい、あの男を完全に消滅させたエゼルさんとダリアさんに少し吸ってもらったところでやっとおわった

母さんのときも全身がバラバラになるかと思うほど痛かったけど今回はその比じゃない

・・・ただ、痛くても動かせる動き方を知っているだけだ


「大丈夫ですか?」

「・・・・・・はい、遥は?」

「大丈夫でしょう、きっと」


遥は明らかに存在感が増している

また胸デカくなった?身体の何処かは男性ボディビルダーかゴリラ見たくなってない?大丈夫?

・・だめだ、余計なこと考えちゃう

私はぎりぎり動けるが出血の酷い腕と割れた奥歯をセーさんに治してもらう

あぁそうだ


「元杉神官、助けるの、手伝ってもらえますか?」

「ハイ、ワレラ 一同 キモチ オナジ デス」


明らかに昇華して存在感を増した騎士たち

肉の体を新たに持ったものや、透けているが半透明の白いモヤが鎧に詰まったもの、鎧自体の力が増したものもいる


「ハル サマ ハコブ シマス」

「任せても良い?」

「ハイ コンゴ トモ ヨロシ オネガ シマ 」

「その辺は元杉神官と話してからでいい?」

「ハイ ハナセ 、ハナシ レンシュ タンレン ヤル マス」

「話しにくいのね?」

「ハイ」


女性型の鎧が遥を包み、鎧の中にすっぽり収めてしまった

その上で他のヨロイ騎士に荷物のように担がれている・・・食べられたんじゃないよね?

 犬笛を吹いて後方のルールに進むと伝える

ルールは最前線の私とロム、ロムと外の間を走ってもらって退路が使えるかの確認をしてもらっている、本当はお義父さんのところにいてもらうのが一番安心なんだけどね

戦闘も出来て、奇襲をかけられる、壁や柱も多いから隠密も出来てとても優秀だ

空間がおかしくなった時点で出口が無くなる可能性があったから誰かがしないといけなかった

波打つようだった石畳がきちんと四角く戻っているし、ルールにはきっと伝わるだろう


「あの蝶は?」

「分神と・・奴は消滅しました」

「そうですか」


あれ、神だったんだ

良いのか?神って殺しても・・・いや敵だし良いのか


「おそらくですが肉の中に神器を取り込んで再生能力を得ていたようです・・肉は神に力を流し、神は力を肉の核に流し、男は仲介してその力を使っていた・・・そのような類いに感じましたね」

「あの蝶はなんで襲いかかってこなかったんでしょうか?」

「おそらく異界化していたとはいえまだここが人界に近かったためでしょう、奥まで行っていれば私達にも何かしらの力が行使されていたかも知れません・・・先を急ぎましょう」

「はい」


暫く進むとタヌカ二人とヨーコが来た


「無事でしたのね」

「元杉神官は?」

「・・・わかりませんわ、城とこちらの奥まで調べたのですが奥で激しい戦闘があったようです・・・・予言の場には戦闘した痕跡が残されていました」

「それって・・・!?」


つまり、つまりそれはあの男の言う通り既に戦闘は起きていて・・・予言通り元杉神官がこの世にいない可能性があるってことだ

信じられないし、信じたくない


「<サっ・・サシル様、元杉神官は何処にいますか!!?>」


ぐんと吸われる魔力、今は減ったほうが心地良い


「<・・・・・・>」



悲しい顔をしたサシル様が浮かんでくる、いや、嘘と言って、お願いだから



「<答えにくくても、答えてください!!>」


「<・・・・・・もうこの世にはいません、全員今すぐ引き上げて日本に帰ることをおすすめします>」



聞きたくない言葉を否定したくて、信じたくない

だけど、サシル様は嘘を言っていないとわかる



「そんっな・・・」



膝から力が抜けて

あれだけ痛んでいた身体から痛みが全くなくなって、力が抜けて立っていられなくなった



「<末妹セー・・私にはこれ以上言えませんが、わかってますね>」

「うん、すぐに撤退する」


どう帰ったかは覚えていない

ただ、いつの間にかルールの背に乗っていて、セーが「大丈夫だから帰ろう」と言ってくる


まだ死体を見ているわけでもない

死んでいるというのはサシル様の言葉だけだ

あの先で元杉神官は生きているかもしれない


・・・・・でも神様も嘘をついたりごまかしたりからかってくることもあるが大事なことでは絶対に嘘は言わない


サシル様の言葉に嘘はまったくなかった

それでも嘘であると、サシル様の言葉を信じたくなくなってしまう

うそだと、どこかで確証が欲しくて、一度全員で集まって情報をまとめるんだ

詩乃お義母さんに抱きしめられなにか言われた気がする


「・・・・・・・・・・・・あなた達まで死んでしまったらよう君に顔向けできないわ、あなた達は生きて帰るのよ」


詩乃お義母さんのボロボロと流す涙はとても熱かった

動かせなくなった身体でドラゴン型ゴーレムの小窓から外を見ていると、絶対に、絶対に見たくないものがそこには見えて







「洋介さんっ・・・・・・・!!!!!」







いつもの城に帰ってきた









「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
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