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第586話 万魔殿
しおりを挟む神殿の中に入っても洋介の気配は感じない
外もアンデッドだらけの地獄のような状態だったけど、中も酷い、虫と人が合体したようなよくわからない悪魔っぽいのが群れて来る
ゾンビのような敵も混じっていたがセーが清浄化の光を放って一掃したが・・ここ神殿だよね?
効いているのか苦しんでいる敵もいるが全部消えるわけではない
入ってすぐ、大勢の敵が来たが神殿の奥までロムが燃やし尽くしてポポンとタカくん、それにさまよう鎧数体でその場を制圧してくれた
「ふん、さっさと迎えに行ってよね、ボクはここで相手してるから」
「ロム、ロムも一緒に」
何が正解かは分からないがロムと離れるのも心配だ
「いえ、ハルネー殿、行きましょ」
「でも」
『決断の一つ一つに人の命がかかっている』ことに重圧を感じる
どちらを選んでもどう転ぶのかはわからない
「ロム殿の魔法は味方まで焼きかねないし視界が開けていた方が有利です・・・私達と一緒であれば力を振るえないでしょう」
「・・わかったわ、無事でね」
「いえ、ご武運を、春日井」
大講堂、神殿で一番広く、敵も集まってくる場所だそうだけど勝算があるのだろう
タカくんも風の魔法を使えるし、怪我をしてもポポンがいるからなんとかなる
ロムはここで敵を引き付けるというので任せることにした
「これでもボクは勇者の師匠で、英雄だからね、さぁ行った行った!」
一瞬部屋を出る際に躊躇ったのがわかったのだろう、笑顔で杖を振って急かされた
微妙に小生意気なんだよなロムは・・
まぁまた今度うまいものでも作ってやるか
こちらの最大戦力であるミルミミスも来てくれると助かるんだけどミルミミスはなにかの制約でダンジョンには入れない
アダバンタスの情報が正しければ各地に存在する死者を捨てる穴というのはダンジョンであるし、繋がっているならミルミミスは入れない可能性があるし外で雷を落としてくれたほうがこちらに来る敵の圧を防ぐことができる
―――これで良いのだろうか?
この建物も外から見れば大きくて荘厳な建物だったように見えたが中は間違いなくまともではない・・建物自体も漂う空気もおかしい
規則正しく正方形だったであろう石畳や石柱が進めば進むほど歪んでいる、それに重く嫌な瘴気・・・どう考えたってまともな状態じゃない
「ウォオオオオオオバアアアアアアア!!!」
「ふんっ!」
しばらくはセーとロムのおかげか、何も出てこなかったが、何処からか敵が現れ始めた、人の領域の神殿には似つかわしくない敵が、わんさかと
梟のような顔の魔族が殴りかかってきたので首を落とした
とても強そうな相手だったけどチーテックに馴染んだ私の敵ではない
多くの敵が襲いかかってくるが、セーもダリアもエゼルも鎧袖一触にしている
・・・というよりもエゼルのいる場所がエグい
エゼルが前に出ると、エゼルから壁の範囲までの敵が全部ずれる
どんな敵も出てきた瞬間にバラけてブロック肉になる
それでも柱の陰から出てくる敵なんかが接近してくるからダリアとセーと私が対処するし、あまり早く進むと洋介がいても洋介ごと斬ってしまいかねないとあまり早くは進めない
「洋介は何処にいる!」
「し、シラナいっ!!!シッテテもオシ・・」
たましっかり喋るやつがいるから道を聞きながら進む
奈美は旅路と言語の神サシル様の加護を授かっている
いざという時の道標であるが・・できればドラゴンの中に残ってほしかったな、接近されたら対処できない
たまに銃で後ろから支援してくれるのはとても助かるが、それでも心配だ
もしかしたら経験の浅い私を抜いてセーとエゼルとダリアだけで移動したほうが早くつけるかも知れないが・・迷った時に私か奈美がいればより早くつくかもしれない
焦れてしまうがこれがベストのはずだ
この悪魔の巣窟のような神殿、相手も命をかけて襲いかかってくるし急げばこちらも危険にさらされる
全員生きて帰る、そうじゃないと洋介に心配されそうだしね
ダンジョンにいたさまよう鎧達、彼らは物凄く役に立っている
よく考えればダリアやエゼルのような存在が死後に鎧の姿でとなったのだから頼りになって当然なのかも知れない、もしかしたら経験だけで言えば何百年も経験値があるのだから
私や波よりよっぽど活躍していて、戦闘中にあるにも関わらずちらりとこちらを見て様子をうかがってくる余裕すらある
敵に洋介の居場所を答えるやつはいなかった、しかしだいたいこういう建物は奥に行けばいいとかいうエゼルとダリアの指示に従って奥まで突破した
だいぶ進むと変なやつがいた
それまでの道と違って巨大な空間、10メートルはあろう大きな門の前に4メートルほどはある脈動する肉の塊、かろうじて人型を取るそれと更に空中に羽ばたきもせず静止する巨大な蝶
彼らに対してもエゼルが切った
が、切れていない
「おや?たしかに手応えはあったのですが・・」
チンッ
それまでよりも大きく納刀の音が響き、筋肉の塊も巨大な蝶も一瞬切れたように見えたがすぐに元に戻った
「何でしょうあれ?ダリア、気をつけなさい・・・ダリア?」
「おいおいおい・・・エゼル姉貴は覚えてねーか?」
「なんでしょう」
「あの地下のクソ野郎の術だよ、あれと似た気配がする」
「・・・・・なるほど、あの外道がいるのでしょうか、なら・・!」
ヂィィィィンッッッ!!!!!
エゼルから寺の鐘のような音が鳴り、今度こそ蝶と肉の化け物は無数に分割され・・・・なかった
斬られた肉の断面から腕や足が出てきてめくれ上がり・・・肉同士をつないで元に戻った
蝶も切れたように見えたのに変わらずにそこに飛んでいる
「良いですねぇ良いですねぇ!それでこそ出来損ないとは言え勇者殿だ!」
「誰っ!?」
ヂッ!!!
私の問いかけに誰かが応えるよりも早く、門の前に現れた男に向かってエゼルの必殺の剣が飛んだ
大きく門を切りつけ、建物の中だというのに雨が降ってくる
分厚い門はその向こう側が僅かに見えるし、化け物共々天上まで切り裂いたようだ
「そこに見えているのは私の実体じゃありませんよ・・ふふ、剣聖殿、懐かしいですね!あなた達をぐちゃぐちゃにしていたのが、本当に懐かしい!!」
「洋介は何処よ!」
火傷で顔の半分がピンク色でまだ傷を負ったばかりなのか髪の先が少し焦げている、白衣の男は肩をすくめて頭上の蝶を見て応えようとはしない
蝶は青と緑のグラデーションがかった優雅な色でただそこに浮かんでいるだけ、アダバンタス以上の大きさで、それでいて見ていると背筋がゾワゾワするような気持ち悪さを感じる
肉の塊は四つん這いになって、常に筋肉が脈打つように皮膚の下で動いている、最初は生気のない顔の目も耳も口も鼻もないマネキンのような姿だったはずが・・四つん這いになった腰から新たに上半身が伸びてきている・・・正しく異形の存在だ
「あぁあの小僧ですか?見てくださいよこの傷、なかなか治りが悪くてですね・・・いやはや、それよりもどうです?私の最高傑作は?!」
「醜悪ですね、その浮遊してる汚物も、床の上の肉の塊も」
「醜悪っ!醜悪!!酷いなぁ!これらは君たちでもあるというのにっ!」
「―――は?」
「あなた達英雄の肉で作った新たな新人類、そして崇高にして美麗な敬愛する我が神である」
蝶は神に関係するなにかだったのか?まさか・・神様本体・・・・・?
いや、聖域にはたしかにいろんな存在がいた・・しかしこんなにおぞましい気配はしなかったはずだ
本当に神なのか?
「< く た ば れ ク ソ 野 郎 !!!!!>」
ダリアが肉の塊をアッパー気味に打ち上げ、空中を走って更に殴った
門を破壊し、醜い肉の塊を扉の奥にまで殴りとばし、次いで男を殴ったが男は蜃気楼のように揺らめいただけだった
「おやおや、相変わらず元気ですね?君ほど元気な実験体はいなかったよ、いやぁ楽しかったよね」
「< 黙 れ ク ソ が っ !!>」
「君の一族のことは知ってるかな?くくく、皆傑作だったよ!『拳闘王シーダリアが偉業を達成して大金を稼いで神官様に金を支払った、だから瘴気で病にかかった者を領都に連れてくるように』だったかな?最初の十数人はそれでのこのこ実験体として刻んでやれたよ!!くははははは!!!ほんと傑作だったよ!!はははははははは!!!!」
「<てんめぇっ!!>」
「ダリア、下がって!」
男のいる周りを殴るダリアだったが扉の奥から戻ってきた肉の塊がイモムシのような形でありながらダリアを体当たりで柱まで弾いた
ダリアは柱が壊れた残骸からすぐに出てきて肉の塊を殴った
しかし今度は肉の塊はビクともせず、肉の横から出てきた腕にダリアが殴られた
「お前の姉は喜んでいたぞ!『まぁダリアが!?』なんて言ってたのだったかな?まぁ最終的には軍を動かして全員ひっ捕らえて生きたまま埋めたり売り飛ばしたり・・・生きたまま来れたものは何人か殺してこれの素材にしたのだがね」
・・・・・狂ってる
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