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第551話 偽装結婚

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口から何も出せないまま、警察に小林さんは連れて行かれてしまった

やっと落ち着いて警察に行ってなんとか「あの人は助けてくれた」と主張したがもう小林さんは捕まってしまった


相手は4人、私を性的に暴行するようなことを言っていた

警察を呼んだのは小林さんだが先に手を出したのも小林さんだし骨を折るほどの重傷を負わせたのも小林さんだ、あの大男の鼻は折れたようだ

―――その場で私が何も言えなかったから・・・


数日はバーが閉まってしまっていた

あの時すぐに弁明していたら小林さんは何か違っていたかもしれないたかもしれない

私があの日、からまれなかったら小林さんに迷惑をかけることもなかったかもしれない

すぐに謝りたかったけれどお店のガラスと看板が割られて落書きされていて、張り紙がしてあった



-当面の間、休業します-



この紙が貼られてからいたずらされたのかそれともいたずらがあったから休業するのか・・・

ちゃんと謝りたかったが住所までは知らない、警察でも教えてもらえなくて・・・・・会えない日が続いた


ある日、張り紙が無くなって、準備中になっていたので意を決して入った

胸が張り裂けそうなほど緊張した、いつものドアがやけに重く感じる

小さく鳴る、品の良いドアベル


「すいません、まだ準備中でし・・瑠夏さんでしたか」

「ずっと謝りたかったんです!」

「いえ、それより美味しいマティーニはどうですか?」

「え、は、はい」


いつものように少し微笑んでいる小林さんに胸が少しだけモヤモヤしたが、小林さんもなにか伝えたい事があるのだろう

手際良く作られたそれを一口飲む


「美味しいです」

「ありがとうございます」


いつもの小林さんだ

いや、いつもよりも柔和な気さえする

疲れているような顔色が見て取れるがちゃんと食べているのだろうか?


「私、ずっと小林さんに謝りたくて・・!!」

「いえ、謝らないでください、むしろ私から言いたいことがあるのでそれを聞いてからにしてくれませんか?」


ずっと、この人のことばかり考えていた

謝りたくて、仕方なかったというのに


「・・・・はい」

「まず、私の店の客が貴女に危害を加えようとしてすいませんでした」

「いえ、そんなことは・・・」


続けようとしたが目で制されてしまった

まだ続きがあるのだと


「むしろ怖いものを見せてしまってすいません、昔取った杵柄といいますか・・こう見えて荒事には慣れている方なんです」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、お恥ずかしい話、昔グレていましてあれは・・いえ、話がずれてしまいました・・彼らは店を出た貴女を追いかけ、良からぬことをしようと話していました・・・だから通報し、止めようとしたのです」

「・・・・」

「あれで止まってくれればよかったんですが・・結果としてうまく行かなかったですね」


口を挟まずに聞いているとコトリと小さな音を立ててチーズの盛り合わせを出してくれる

食べながら聞いてほしいということだろう

大事な話をしているというのに・・・私に気を使って和ませようとしてくる

なんか悔しいが美味しい


「私にとって警察に捕まったことは貴女を守った勲章で、誰かを守ることが出来たという栄誉です」

「す、少し気障っぽいですよ?」

「でも本心なので、私に謝るよりも私からお礼を言われてください・・・ありがとうございます・・護らせてくれて」


――――――ずるいっ!ずるいずるいずるい!!


「ずるいじゃないですか!そんな事言われたら謝れなくなるじゃない!」

「はい、私はずるい男なんですよ」


それで、相手や事件のことも含めてどうしていたか教えてくれた

彼らの仲間がお礼参りに店を外から荒らしてきたので制裁して、結構なお金をぶんどって彼らにはタコ部屋に就職してもらったと

少しブラックだとは思ったがこのお店にはどこかヤクザっぽかったご隠居さんもきてたし、お酒のお店だとよくあることなのかもしれないな

普段なら少し背筋が凍るような話だが私の胸の中はぽかぽかして、小林さんの顔から目を離すことが出来ないでいる


「でもオープンし直したはいいものの、店は畳もうかと思ってるんですよ」

「な、なんでですかっ!?」


お店もちゃんと直った、不良青年たちも問題なく片付いた

風評被害も有るだろうし、お店のことはわからない

だけど私の憩いのこの場所がなくなるかもしれないって・・・!


「実はお恥ずかしい話、父親の残した借金もありまして、あ、いや、そうじゃないな・・・」


疲れた顔で何かを考えている小林さん

借金とぽろりとこぼしたがもっと大きな問題でも有るのか、それとも私に隠そうとしているのか黙ってしまった

なにか言いにくいことが有るのか

いつもの聡明な彼にしては言い淀んでいたが、しばらくして口を開いた


「実は、姉が見つかりまして」

「お姉さんが?」


思ってもない返しに、静かに聞くはずだったのに声が出てしまった


「はい、実は出ていった姉が病気で亡くなりまして」 

「そ、それは・・お悔やみ申し上げます」

「ありがとうございます、姉は問題はないんです・・・ただ、私に姪がいることがわかりまして、施設から引き取るのにはまっとうな仕事についていたほうが良いなと」


なるほど


「やはり血縁はあっても男で独身・・・施設も簡単には引き渡してはくれません」


だから綺麗にしたお店は売ってお金にして、どこかで働こうかと弱々しい小林さん

今入ってる食材とお酒の分だけは全部売ってから職を探そうと・・・・・こうやって働くのが夢だと言っていたのに!

ほんの少し泣き笑うように言った勲章で栄誉って、いつもの寡黙な小林さんからはそう出て来ないセリフで、少しヤケになっているのか・・・だから本気だと伝わってきた


「―――だったら、だったら私と結婚して、引き取りませんか!?」

「・・・・・え?」

「ぎ、偽装結婚ってやつですよ!」

「いや流石にそれは瑠夏さんに悪いですよ」

「なんのなんの!私は不妊でバツイチでもう結婚できないと思ってましたし!ほ、ほら、小林さんだって姪ちゃんを引き取れたほうが良いじゃないですか!!」
 

最低だ私

姪ちゃんを引き合いにして、余計な選択肢を出している

ただ出てしまったことは取り返せないし名案だとも思う

困ってる女の子を助けることだってできるかもしれない、誰も損しない提案だと思う


「ほらっ結婚まですると小林さんにバツがつくかも知れませんから婚約してることにして・・」

「し、しかし!」

「ほら、わたし!職場とここと家しか行かない駄目女ですからっ!!いや、このバーが悪いってわけじゃなくて、えとえと、私看護師で、きっと姪ちゃん引き取るのには有利になると思いますよ!!?」


息を切らして、言ってしまった


「すいません、姪のために今は藁にもすがる気持ちなんです―――・・・お願いできますか?」

「はいっ!どーんと任せてください!!!」
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