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第546話 娘さんをください2ndステージ

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城に行ってから生活が変わった

うちの静かなバーに、レアナー教の客が増えてパカパカ飲んでいってくれる

前も多分レアナー教の人が飲みに来てくれていたが、今では『聖地巡礼』とか言って団体で来てくれる・・聖地ってなんだよ・・・

少し迷惑な気もするが「娘さんに命を救われました!」と泣きながら握手を求められたりすると追い出す事もできない

ちゃんと他のお客さんには配慮しているらしく数席分は常に空いているし、空いていなければすぐに退いてくれる

夜のバーにも関わらずきちんとテーブルまで拭いてキッチンスペースまで皿ももってきてくれる

チップと言っていつの間にかお金は置いていくし、暴れる客がいればどこかに連れて行ってくれる、でも店に向かって拝むなお前ら


奈美ちゃんが慕われているのには「さすが俺の娘」と言いたいところだが微妙な気分でもある




・・・・・・・・・・・・・・・あの男の関係者だと・・娘を奪ったあの男の関係者だとわかっているからこそ・・・・・!!




バーの周りに居たレアナー教のボディガードも入ってきてくれて飲む姿に、一服盛ってやりたいとよぎってしまうが、売上は超好調だ

高い酒だろうと仕入れれば仕入れた分だけ売れる


「もぅ、少しは休んでよね」

「なかなか忙しくて・・はぁ・・・」

「またため息!もう!」


嬉しい悲鳴ではあるが家族サービスを怠ったからかいつもと違う瑠夏さん


「手貸して?」

「ん?はい」


ガチャリ

指と指を絡ませて正面から片手だけ恋人つなぎになったのだが通販で買った金属製の手錠がかかった


「る、瑠夏さん?」

「んふふー、ちょうどいいと思ってー、もう一つ!」


そのまま瑠夏さんによって両手を椅子の背もたれに固定された

いつものよくわからない天然な瑠夏さんはこの後どうする気だろうと眺めていると通販で買ったらしい大きな箱を開けた

1つはUSBで充電して目元のマッサージをしてくれるらしいアイマスク、もう一つは足を入れると足裏のマッサージをしてくれるやつだ

両方とも新品で箱を開けて説明書を目の前で読んでからつけてくれた

椅子を退かしたり大きさで机の下に設置しにくかったり電源コードの長さが足りないともたついていたが今は拘束されて動けないでいるし様子をうかがう

頭の上からかけるオーバーヘッドホンをつけられ、雨の音を・・・爆音で聞かされたり、耳痛いよ、いや、うん、もう何をしたいかわかったから

音量は下げられたけど鼓膜破れてないよね?それに服をはだけさせられて肩に湿布を貼られて、超音波加湿器でアロマまでしてくれる

手錠は余計だけどこうでもしないと休んでくれないと思ったのかな?愛する瑠夏さんのこの好意は受け取ることにしよう、手錠は余計だけど

ウィンウィンと動く足のマッサージ機が心地良いし・・・何より気遣いが嬉しい、手錠はほんと余計だけど


疲れが溶けていくようだ


しばらく外部から遮断されて色々考えてしまう

新たな酒の仕入れや店の売上、ファッキン小僧への対処法・・奈美ちゃんの将来・・・何も出来ないからこそ色々と考えてしまう

こういうマッサージ機器、いや、精密機器は使用してすぐには問題が起きることもある・・発火したりしたら逃げられないよな・・・なんて嫌な想像も頭をよぎる

でも好意だし、うーん、瑠夏さんが部屋で動く気配がする

料理でもしてくれてるのか?それとも今のうちに掃除?

玄関が開いた気配もした・・下げてもらったとは言え音量もけっこうあるからいまいち分からないが食材の買い足しかな?いや、もしかしてこれはサプライズパーティの準備?誰か呼んだ?


瑠夏さんは記念日を大切にする

最近、時間の感覚が無くなるほど働いているからなにか見落としている?

レアナー教の信徒が来るうちに稼いで、一軒家に引っ越そうと画策しているのだが・・何の記念日だ?えー、この前に初めて手を繋いだ記念日はした

婚姻届を二人で取りに行った記念、違う

奈美ちゃんを施設から養子に迎え入れた記念日?違う

「初めてママと呼ばれた」記念?違う


・・・瑠夏さんはいつの間にか記念日を作っていることもあるし、わからない


本当に良い人だ、不妊さえなければ別の男とそのまま結婚は続いていただろうと考えると複雑な気持ちにもなる

・・・バーで出会って、ずっと好きでいる

一般的に見れば僕はバーテンダーという世間様からすれば微妙なお仕事で、しかも姉さんの娘である奈美ちゃんを引き取ろうとしていたいわゆるコブ付きだった

唯一の親族とは言え、適齢期の独身男の家に幼い女の子を引き取るにはハードルが高かった、しかも当時は親の負の遺産で借金も残っていた

もう少し早く見つけられていればすんなり引き渡してくれただろうけど、一度施設に引き取った以上、怪しい相手に幼い子供は引き渡せない

それを付き合っていた瑠夏さんに話すと「今すぐ結婚して引き取ろう」とせがまれた

『借金持ちの独身男のバーテンダーの叔父だけいる家庭』よりも『夫婦共働きで親族としての血縁関係もある家庭』のほうが引き取りやすかっただろうな

しかも瑠夏さん、看護師である

バーテンダーの独身男よりも、塞ぎ込んで精神的ダメージを受けた少女にとって看護師の親の居る家庭だと引き渡しやすかったのだろうな

瑠夏さんは本当に子供好きで、奈美ちゃんに絡みまくっていて若干嫌がられたりしてるところが見えてしまう

キャラ弁は欠かさず作るし、ご飯の上に桜でんぶでLOVEと描くのはしょっちゅう

一緒にお風呂に入りたがって・・いまだに一緒に入るし髪の毛も洗ってあげているそうだ

冬に炬燵でミカンをむいてくれるのは良いけど、奈美ちゃんのためなら何十個でも剥くし、なんなら箱で買う

奈美ちゃんがげんなりしてるのは見て取れたけどそれなりに喜んでいるのはわかったから止められなかった、すまない


・・・もしも自分が父親にあれをやられたらグレる自信しかないな


彼女との生活は何年経っても飽きることはない


机の振動で、なにかのセッティングが終わったのか、マスクが外された


前の席に居たのはガスマスクを付けて、座っている、おそらく元杉洋介である

何だこの状況、あれか、元杉洋介の結婚のために挨拶に来たってことか瑠夏さんもグルである・・ということは瑠夏さんは結婚を認めていて、奈美ちゃんとは既に話がついていると見える、机の上にはうちでみんな好きなチーズセットの大箱が置かれていて、結婚の挨拶で「これはつまらないものですが」というやつだろうな、お茶も用意されている、普通のまともなやつはガスマスクつけて結婚の挨拶になんて来ない、つまりガスマスクは奈美ちゃんによってつけられたもので「娘さんをください」と言われて「お茶をかける」か「薬品もしくはガス攻撃」を想定してつけさせているのだ、まさかIPアドレスからバレたのか?チィッ・・・奈美ちゃんのドレスはなんだ?胸元のチンピラがしそうなぶっといゴールドのネックレス、ブレスレットやイヤリング、バングルまで・・ドレスも超高価そうなのにきこなすのはさすがうちの奈美ちゃん・・・あ、これはプレゼントだな、大事にされているってアピールだろう、この家買えそうな値段のプレゼントだ、説得力あるよ畜生、この時間にうちの家でカーテンを閉めることはないのに陽の光が全くささないのはシャッターまで下ろしているからだろう、逃亡対策だな、逃亡ルートに使えるのは風呂場の点検口だけか、ここからこの小僧にできることといえば前転宙返りで椅子を頭からぶち当ててやることぐらいか?いや、ここはまず、袖の針金で拘束を解い

「シュコー・・娘さんを僕にください」

「帰れ!!」

ガタタンっ!!


時間にして2秒ほどだろう、思案していると論ずるに値しない戯言が叩きつけられた

反射的に眼の前のお茶を反射的にぶっかけそうになったが繋がれていたのを忘れていた

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