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第545話 勇者からは逃げられない(強制イベント)
しおりを挟むついにこの日が来た
元杉神官の予定も聞いて、スケジュールをあわせている
想定外だったのは元杉神官の服装だ
何でも「死の宣告」を受けたらしくそれの回避のためにつけているようだ
「シュコー・・じゃあ行こうか!」
「< く わ し く >」
「パー・・あ、はい」
<はい>
時間には余裕を持たせてある
それよりも大事な話である
聞いてみると、こういうお告げは今までにもよくあることだったらしく、本人は全く気にしていない
だから最近服も色々と変えてきたらしい
今はいつもの神官服ではなく鎧兜にガスマスクである
金属製のすね当てまでしっかり装備していて、なんかキラキラしている
・・・・・・・・・・・よくわからないが必要らしい
こちらの世界で怒るものではないそうだし緊急性はないが、常に身につけることで予言を回避するのだとか・・
うん、わからない
わからないが元杉神官の命のためなら大事なのだろう
仕方ないのでそのまま家に連れて行く
「ここは?」
「私の家です」
「奈美ちゃん!入って入って」
家はマンションの三階、今日のためにお隣さんや上下で大きな声がするかもしれないと数日前から伝えておいた
理由を「結婚を父親に伝える」と言っておいたらおばちゃんも強面のおじさんもニヤけていたし、もしかしたら家の中で聞き耳を立てているかもしれないな
お母さんに招かれて入る
「お邪魔します」
元杉神官は杖を出してから家に上がった
私のことを溺愛している母親、正直うちの家族は複雑すぎる
本当のお父さんはインフルエンザで、お母さんは感染症で死んだ
親族はお母さんの弟である小林翔さんしか居なかった
すぐに親戚が見つかれば問題はなかったが3ヶ月ほど私は施設で暮らした
引き取ってもらって、そのうち新しいお父さんは新しいお母さんと結婚した・・いや結婚して私を引き取ったんだったかな?
当時のことは今でもよく覚えていない
幼かったのもあるけどお父さんとお母さんと一緒に寝て、気がつけば半年経って知らない場所に居た感覚だった
声もうまく出せずにいて、もしかしたら両親の死に、心がどこかに行ってしまっていたのかもしれない
そんな、きっと、とてつもなく手間のかかる子だったはずだ
今のお母さんはお母さんの不妊が原因で以前の結婚は失敗していた
だからか私のことは本当に大事にしてきて、気がつけば抱きついてくるしたまに気配で振り返るとブラシ片手に近付いてきてたりする
私の名前が黒葉なのは実はどっちでもいいんだけど幼い頃だったから「名前が変わるのは学校で嫌な思いをするだろう」って配慮と「黒葉の名前にしちゃうと前のお父さんとお母さんに悪い気がする」と言ってそのままになった気がする
前のお母さんの弟である小林翔はバーテンダーをやっていて、色々と頭がおかしい
幼い頃にはもう亡くなっていなかったおじいちゃんとおばあちゃんが遺したクリーニング屋を畳んでその場所でバーテンダーをやっていて色々と頭が良くて変に活動的な人だ
たまに「男はくそ度胸」とか言ってとんでもないことをやらかす人である
年末に侵入してきたときは本当に最悪だった・・だからこそ来たのだが・・・
リビングに入るとお父さんは椅子に繋がれていた、目隠しとヘッドホン付きである
足元では足のマッサージ機を使っているようだ
「お母さん?」
「マ・マでしょ!奈美ちゃん!逃さないようにね!」
玄関にはチェーンロックまでかけ、晴れているのにシャッターをゆっくりと下ろしたお母さん、絶対にお父さんが逃げると思ってるようだ・・私もそう思う
「えっと、シュコー・・黒葉?」
「元杉神官、こちらが私のお母さんの「ママでしょ!」ママの瑠夏、小林瑠夏です」
「ママって呼んでね」
「パー・・元杉洋介です、シュコー・・・よろしくお願いします、小林ママ」
「息子ができるなんて嬉しいわぁ!!」
お母さんは味方である
お父さんに話せないようなこともお母さんには話して・・というよりも見破られていて元杉神官のことは洗いざらいゲロった
多分隠したら興信所とか入れられそうだったから・・
「でも、元杉洋介くん、よね?今日のその装いは有名人だからかしら?それとも正装?」
「しの「そんなとこです、いつもの神官服になれますか?」パーうん」
<これがマンションですぅ?>
ガスマスクに鎧甲冑、命の危険とやらも考えてこのままでいいかと思ったがやはりは顔は見えたほうが良いよね
レアナー様はマンションに興味津々のようだ、
お母さんには元杉神官の写真をよくメッセ送ってたから顔は知ってるけど・・・むしろこの装備のままだったのはお父さん対策でもある
部屋の中で「最近物騒だからねぇ」とか言って城から帰ってきてから防犯グッズがどうのこうの言ってなにか集めていたらしいし、何をやらかすのかわからない
それにしてもお母さんはかなりポヤポヤしている、ガスマスク姿の元杉神官をすんなり迎え入れるなど・・・詩乃お義母さんもポヤポヤしているがどっちがポヤポヤしているか会わせてみたい気もする
というか私のドレス姿にも何も言わないのも流石である
元杉神官が幾つも用意してくれていたプレゼントのアクセサリー
ランディの入れ知恵で元杉神官は高価そうな・・・とてつもなく高価なアクセサリーをニューヨークのお店で買ってきた
肩や手首にジャラジャラと金色に艶めかしく輝いている
金とプラチナで出来ていて、細かなダイヤモンドが散りばめられている
ネックレスだけではない、レアナー様によってゴテゴテにコーディネートされたドレスとアクセサリーフル装備
足首にだってなんか宝石ついてる、無くしそうで怖い、プレゼント貰って怖いと思ったの初めてかも知れない
日本だとここまで成金というか、とんでもない品をつけている人はまず見ない
多分、アクセサリー1つでこの家買えちゃう・・きっとお父さんはこれをひと目見て高いとわかるからそれだけ私が大切にされてると理解するはずだ
元杉神官は防具が一人では脱ぎにくいらしく、小手やすね当てを外すのを手伝う
家に入ってから杖を持っていたのは床を傷つけないように少し浮くためだったのか
お母さんの前で下着以外脱がして、着せ替える
何が面白いのか遠慮なくこちらを見てくるお母さん・・・・・鎧甲冑もガスマスクも珍しいし、何もない空間に消えていくのは珍しいか
神官服を着させる、うん、いつもの元杉神官だ、可愛い
真剣な表情になった元杉神官がお母さんに向かって土下座した
「娘さんをください!」
「あらあら・・ど、うぞ、娘を、娘をよろしくお願いしまずぅぅううぅぅぅ」
「元杉神官、早い早い、お母さんも早いって」
お母さんは結婚に賛成してるのだ
それやる必要がない
だけど感極まったのかお母さんが泣いてしまった
参考資料のドラマは和室でやってたけどフローリングの上で土下座はちょっと違う
「あれ?お茶かけられない?」
「う”う”・・すんっ・・・・それはドラマとかあるあるのやつね・・用意する?」
「まって、そう言うんじゃないから」
お父さんはリビングの椅子に縛り付けられているのに微動だにしない
お母さんによると手錠は仕事のし過ぎで最近疲れてるし、私にかまってくれないからって言って拘束に成功したようだ
手錠はお父さんがこの間城に来てから通販で買った昔のアメリカの警察で使っていたらしい金属製である
目隠しは電動のホットアイマスクと少しだけアロマをして、足のマッサージ機を使っている
耳にはヘッドホンでヒーリングミュージックが流れているそうだ、完璧!ママナイス!!
元杉神官にお父さんとお母さんの好きなチーズセットを渡して、少しだけ作戦会議する
大晦日からじっくり時間をかけて打ち合わせはしていたが最終確認だ
「元杉神官、きっとお父さんは頑固で、とにかく結婚に反対のはずですが最悪結婚を反対されても私は嫁ぐので問題ありません」
「わかった、でも認められると良いね」
「そうですね、この人たちの中で私は未だに幼稚園児ぐらいの認識なので難しいかも知れませんが・・頑張りましょう」
「親離れってやつ?」
「子離れですね」
<わくわく、わくわくわく>
お父さんの横にお母さんが座り、お父さんの前の席に元杉神官が座った
元杉神官の服は大神官服・・・と少し工夫する
レアナー様はいつものように透明になって上から見ている、最近私にも透明度が上がっても見えるようになった
・・・・・さて、お父さんを騙して悪いけど電動のマッサージ機とヘッドホンを外すかな
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