少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo

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第494話 OMOTENASHI

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隔離措置をされていたがなんとか出ることが出来た

病気の潜伏期間などもあるのだろうが
 

「異世界の病原菌などわかりませんし、年単位で・・・」


なんて廊下で聞いて無理やり出てきた


行動が無責任だという意見も多かったが、得られたものも大きい

『レアナー教との友好的な関係』『異世界の実在を私が確認した』『お土産の中に新物質発見』などなど・・・

私と同じくトーマスと、レアナー教対策日本支部の局長も酷く責められたそうだ

なんとか功績を持って帰ってきたものの、立場上の問題もあるだろうし・・・後で労わねばならないな

日本のレアナー教対策の局長のあのバッグの100万円、なんと価値のある100万円だったことか

お菓子も現地の人間に配れて友好関係を築くことが出来たのもよかった、もしかしたら彼は未来予知を出来る超能力者かもしれないな


政務をしていると入り口のゲートから連絡が入った


「レアナー教の元杉洋介と名乗る人物が訪ねに来ていますが、約束しているとのことで・・・いかがしましょうか?」

「・・・・・少し待ってくれ、私から連絡を入れてみる」


吾郷が言っていた

洋介くんの行動は予測も予想も難しい、と


まさかアポイントもなしに・・・いや、来てくれといったのは私だけど何年、何月、何日、何時、何分とは言っていなかった

監視カメラのゲートの映像を見るとたしかに本人にも見える


「HALLO Yosuke?By any chance, is Yosuke in America now?」

「あ、え?はろー?待って、何言ってるかわからナイ」


電話をかけると画面の向こうの洋介はリアルタイムで電話をとっている、本人だということはわかったが電話越しだと言語が通じないようだ

一応日本語は少しだけ分かる


「チョト、まってテ」

「わかった」


すぐに妻に連絡をとってパイを焼いてもらう

ここ最近お土産に吾郷の美容グッズを買ってこなかったことにご立腹な妻だが・・買えそうな相手が来たのだ

これで機嫌も良くなってくれるだろう、とてつもなく急な話だが


魔法をかけてもらって言語が通じるようにしてもらった

私のガードが私の行動にビクビクしている

魔法など受け入れずに通訳を挟むように言いたいのが眉間のシワでわかる

私はレアナー教に寛容であると示すためにも大きくハグをして迎え入れた


・・・こうして触れ合うとやはり小さな子供にしか思えないな


用件は特に無いようだった

司教としての立場ではなく友達としてきたらしい

だけど今日は泊まりでもいいらしいし、さらに「よかったら明日布教と治癒しようか?」と言われて歓迎する


アメリカに住む、アメリカ国民の健康と安全のためにも治癒はしてくれると嬉しい

政治的にも、おそらく私の支持率は跳ね上がることだろう


だけどさ、だけど・・・・・もっと早く言ってほしかったなぁ

私も色々やって「人を振り回す方だ」と言われるがこの子の比ではないだろう


それにしても明日までか、これは公表できないな


何処かから漏れるか、洋介くんが公表したのなら止められないが公表してしまえば反レアナー教団体が何かしらの行動を取ってしまうだろう

腐った卵を投げてくるぐらいなら良いがロケットランチャーを打ち込まれかねない

洋介くんの相手を妻にしてもらって、今のうちに裏で各所に連絡を入れた

全米から治療して欲しい人間が集まることになるだろう

・・・担当する人間は絶対に徹夜だな

私ができることは治癒魔法の時間をできるだけ遅らせることである


妻は吾郷の顔の美肌効果に執心していて洋介くんに対して欲望が透けて見える、眼力が凄い

やつも日本人だから若く見えるが爺のはずなのに賢者の石製の顔パックでかなり若返っていたからな


連絡をし終えて戻ってみるとなぜか妻は一緒にパイを作っていた


「色んな種類があるんですね」

「そうね、フルーツやクリームの載ったパイや肉や魚の載ったパイもあるわ、日本だとタルトやパイって少ないのよね?」

「そう、かな?僕日本のことはあまり良くわからないし」


孫ほどの年齢の洋介くん

まとめられた経歴や情報を見ると11歳までは確実に日本に居た、その後5年の間異世界に居たそうだ

だから、11年間日本に居た常識があるのかと思えば最後に確認された交通事故によって頭部の怪我をしてしまって日本の常識はあまりないようだ


「異世界はどんなところなの?最近はどんな事があった?」


妻とは異世界について色んな話をした

レアナー教とパーティや会食をすることになったら必要になるかもしれないとベッドで話し合ったのだがファンタジーな世界のことを真剣に夫婦で考えるなんて不思議な気分で、童心に帰ったような気分でとても楽しかった


普通に異世界はどんなところかと質問しても今までと同じような情報しか出てこないと思ったのか、最近について聞いていた


「僕の領地で貴族が暴れてさ・・騎士団連れて行ったりしたかな」

「あら、貴族がいるの?」

「いるよー・・はぁ・・・僕の娘売り飛ばそうとしてさー、よっと、生地はどれぐらいの薄さにするの?」

「・・・・・それはねー」


気になる話をしていたがパイを作るのに集中しているようだ

娘ってなんだ?子供がいるのだろうか?

妻はすごく仲が良くなっているようで、楽しそうで何より

16か17といえばアメリカでは男らしさが出てくる年齢だ

だけどこの子は成長も11歳でストップしたのか、華奢な体でとても可愛らしい

ビルの壁一面に描かれた洋介くんの絵もあるが・・・会ってみるとやはりとても小柄に見える

国会で脱いだときの映像では胸を貫かれたような跡があって痛々しかったが


「向こうの世界にはどんな生き物がいるの?ペガサスやユニコーン、マーメイドはいるのかしら?」


妻も心の底から楽しそうだ

気持ちはわかる、ここまで立場が偉くなれば、小さな子供たちにだって気を使われたり、いきなり泣かれたりもする

それに比べてこの子は本当に気を使わない、異世界では彼の立場は王よりも偉いと聞いた

神々という存在からの寵愛、恩寵、加護というものを授かった存在

そんな土地で常識を学んだならそもそも神以外誰に対しても気を使う必要がないのだ

こちらも彼に対しては政治的に裏を読み合い、笑顔を取り繕って話す必要もない

嘘をついたってバレるそうだし素直に行くしか無いが


「ペガサスとユニコーンは見たことあるけど、人魚は知らないや」

「居るのね!?凄い!見てみたいわ!!」

「見てみる?こんな感じなんだけど」


洋介くんが何もない空間からなにかの玉を取り出し、立体映像を見せてくれた

ボディガードの連中がビクついてみている

今にも銃を取り出さないかが心配だ、下がらせようとしても「職務ですので」と返してくる


「え?これは・・戦争?」


翼の生えた馬、ペガサス、角も生えているし、空を走り、角からレーザーを出して、洋介くんの足を切り飛ばした


「育てにくいし気位が高くて乗りにくいし野生の子は畑荒らすしですごく面倒だよ」

「そ、そうなのね」

「こっちの馬は進化しないの?」

「進化?」

「馬から角や羽が生えたり」

「しないわ、そちらの世界ではそういう事があるのかしら?」

「うちのルールも元は普通のミャーゴルだけど聖獣に進化したー・・それは何を塗ってるの?」

「溶かしたバターよ、美味しく仕上げるコツね」


とにかくあれだ、OMOTENASHI

何も居ない空間に向かって洋介くんがブツブツ言っているのはきっと女神がそこにいるのだろう

フレンドリーな女神様だがもてなして損なことはないはずだ

私もエプロンを着て手伝う

洋介くんはなにか城でやってしまったらしく、ちょっと時間が出来て私に会いに来たようだ・・・家出ってやつか?何ならこのまま住んでもらいたいものだ

昔パイのコンテストで賞をとっていた妻だが一流のシェフの料理にもつくらせる


無論私の予定は全てキャンセル


・・・・きっと今頃、同じく予定をキャンセルしてこちらに向かってきている人は多くいるのだろうなぁ
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