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第474話 二人の決断
しおりを挟む幾つかの場所を見て回り、屋台で売っている肉も食べさせてもらった
レアナー紙幣は使えず、金貨銀貨銅貨だったので今度高価な酒を送ることで代わりに支払ってもらう
肉は・・・不味かった
何をどうすればこんなに不味く出来るのか
エグミというかひどい味がする
何に肉かもわからないが旨味もない、筋張っていて、飲み込むのも大変
固く、プラスチックを焼いてそれでいぶしたかのような味がする、食べたことはないが・・・
舌がピリついて拒否反応が起きるほどだ
「今日のこれはあたりのようですわね」
「これでか!?いえ失礼した」
こんな酷く食えないような肉で当たりだと?
吾郷やボブ、栄介の表情を見ると先程までの楽しげな視察からは空気が一変、目が死んでいた
私だけ外れというわけではないようだ
というか現地の護衛の兵士さんも食べていたが不味そうにしている
案内のロムさんは味覚が違っているのかもしれない
吐き気がしそうだったが小さな肉串一本、食べないと失礼や無礼に当たるかもしれないし笑顔で食べ切る
洋介くんが居るなら治してもらえるはずだ
大丈夫、きっと・・・大丈夫だよね?レアナー教の洗礼を受けるから
洋介くんのところに案内してもらう頃には胃袋もなんとかひっくり返らずに落ち着いてくれた・・・吐かないようにゆっくり歩こう
なぜか全世界どこでもよく見かける輸送用コンテナが並べられていた
報告であったように食料を集めていたものだと思われる
洋介くんは先程の神秘的な光を出していたような・・司教として荘厳な光を出していたような様子は全くなくなり・・・大工仕事をしていた
なにやらうまく行っていなくて、建てた柱につけたライトが簡単に落ちてしまっていた
釘の角度が悪いな
手伝うことになったのだが・・・どうせだ、ペンキを塗ろう
「ダート、良いのかい?大統領がそんな事しちゃって」
「なぁに、私だって子供の頃はやんちゃして壁を破って自分で塗り直したことぐらいあるさ」
「ハハハ、偉そうに見えるのにな」
「誰にだって子供時代はあるさ!」
好き勝手にペンキを塗っていく
ステインやよくわからない日本語表記の塗料だが塗るのはなんでも良いらしい
大きな木材に好きに塗っていくのは良いね
マスキングもなし、塗料もそこらかしこにはねてしまうが問題ない
全体を塗って、コンテナに立てかけていく
「俺のほうがうまく塗れてるな!」
「いやいや、デザイン的に私のほうが見栄えが良いだろう!?」
「なにぃ!?」
トーマスが居なくてよかった
大統領として威厳も何もなし、ガミガミ言われていたことだろう
私のきっちり斜めに塗ったデザインよりもボブの雷模様のほうが良いと言うのは納得行かないが・・・こんなにペンキまみれでいれるとは思いもしなかったな
大統領として自分でもどうかと思うが普段できないことで楽しく思う
渡されたのは良い肉だ
味付けされているのかスパイシーな香りがするし、骨が持てるようにカットされている
後は焼いてから骨と骨の間を切り分ければいいだけ、最高だ
さっきの口直しもあるし最高の出来で焼いて食べたいのに・・・蓋がない
この肉であれば蒸さないと火が通りが悪いだろう
木材の中でも割れてしまって使い物にならない物をその辺にあった斧で私はフェザースティックにし、ボブが斧で割って薪にし、火力を足す
小さめのミニコンロを裏返してそのまま蓋にした、無いよりかはマシだろう
「素晴らしい肉だ」
「待ち遠しいな!」
私とボブは世界タイトルマッチで出会って、友人として接するようになった
一緒に肉を食ったのだがお互い焼き加減や好きな部位、味付けの好みがあっていた
産まれも、育ちも、年齢も、人種も違う
お互い好きなものを紹介し合って楽しんでこれた
彼は腕っぷしで世界に挑戦しているが、私は政治で世界を動かすように挑戦している
最高の肉を食べ、しばらくして日本の城に戻った
異世界の空気、異世界の情勢、異世界の人々
まだまだわからんことばかりだが体験できてよかった
城に帰って巨大な風呂場で私もボブもペンキを落とした
こんなに大きな温泉は初めてだが・・何でもありだなこの城、山頂なのに湖かって言うほどの水量
魔法、ボブは肉体の強化ができるようになったらしいけど私も使ってみたいな・・・火を出したりなんかして
だが安全上の問題もある
この技術が世に広まって誰でも魔法で攻撃できるようになれば・・犯罪は確実に増えるだろう
何十人も真っ裸で風呂にいるのは不思議な気分だ
日本には「裸の付き合い」というものがあるそうだが文字から考えるとどう考えても卑猥な意味だろう
日本語と英語だけでも言語の壁で多くの齟齬が起きる
日本の道路でみた道路標示、行き先に-THE END-と書かれていた
日本においての意味は行き止まりといった意味だそうだがアメリカであれば死を意味するようにも感じる
逆にアメリカに来た日本人が警察官に助けを求めて「ヘイ!ポリース!」ということがあったという話を聞いた
日本では犯罪も少なく、警察官と民間の人間との距離が近く、親しまれている
「お巡りさーん」と親しげに呼ぶ方法法がわからずに丁寧に呼んだつもりだったそうだがそれはまずい
警察官に向かって罵倒するような意味合いになる
銃や薬物での犯罪の多いアメリカにおいてそんな呼び方をするやつは警察官に対して好戦的とも受け取れるし、銃を向けられてもおかしくはないだろう
ペンキの取るのが大変だった
寝転べる風呂でぐったりと泥のように休む
平和と安全保障について考えている私の横で吾郷はなにやら透明な丸い美容マスクを顔にしている
おみやげに買ったものらしいが先に自分で使ってから奥さんにプレゼントするようだ
何とも言えない気持ちだが周りに人がいない今だから少しだけ話したいことがある
「なぁ吾郷」
「なんでしょう?」
「私は、彼の話、 にするよ」
「・・・そうですか」
「あぁ」
吾郷には酷な話かもしれないな
詳しく聞いてこない間が心地よい
こういうのも『裸の付き合い』というやつだろうか?
「ダート大統領」
「何だ吾郷?敬語はいらない」
「・・私も決めたよ、だがもしものときは 頼まれてくれるか?」
「わかった、まぁ私もどうなるかはわからないがね?」
「男の約束だ」
「あぁ・・・だがそのフェイスパックは外してから握手しよう、しまらなさ過ぎる」
「わかった」
どうなるのか、正しいのかはわからん
成せるかも、意味があるのかも
道半ばで引き返すことになるかもしれん
だが今の気持ちに嘘はない
「「やろう」」
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