383 / 618
第376話 憧れの先生
しおりを挟む子供を虐待する親を毒親とか言うらしい
私の両親は酷い人間で、私も酷い人間だった
ピアスに染めた髪、賭け事をずっとしていて部屋にはゴミばかり、私を痛めつけては笑う本物の鬼だった
ダーツの的にされたり、缶詰を投げつけられたことがある
中身の入った缶詰は本当に、本当に痛かった
私自身も万引きをしないと食べていけなかった
ある日、万引きに失敗した
「なんてことするんだっ!?このクズ!!死んで詫びろ!!」
店のバックヤードで何度も殴られた
座っていた椅子から派手に転げ落ちる
「うっ・・」
「子供になんてことするんですか?!」
「これは躾だ!!お宅の物を盗もうとしたんだ、こいつの!盗み癖を!治すためには!!必要!なんだ!!!」
何度も殴られ意識が飛びそうになる
何度かこのまま意識を失ったこともある
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「店の人に謝る気あんのか!!おるぁっ!!!」
見せかけの殴り方ではなくこいつ自身本気で殴っている
だけど文句は言えない
文句なんて言おうものならもっと殴られる
「あぐっ!?」
「もういいから、さっさと帰ってくれ!!」
「ありがとうございます、お前も店の人にちゃんと謝れ!」
「ごめ、なさい」
今日は血尿だろう
外に出ると殴られた場所が夜風にあたって心地よい
「ぺっ」
カツッ
ぐらついていた歯が抜けた
「成果は?」
「ん」
「しけてんなぁ」
腹巻きに隠した小さな焼鳥のタレを渡した
この男の指示で万引きをして、失敗するとこれだ
ある時、母の浮気で弁護士がいた
私は母の連れ子だった
その時の弁護士さんが康介さんだ
たしかに母は浮気していた
だけど父も浮気していた
「あんたが悪いのよ!このクズ!」
「あん!?何いってんだよ!お前こそ浮気しといて何だ、その口の聞き方は!!」
両親の怒声の中、コップの割れる音がやけに耳に残った
何度目かの話し合いで事務所にいた
弁護士のおっさんは会うたびに菓子をくれた
ロリコンクソ野郎かと思ったが食い物に罪はない
話し合いをするために初めてきた事務所の奥の部屋はいつものゴミまみれの家と違って綺麗だった
「ごめんね、話し合いが終わるまではここにいてね、好きにお菓子を食べていいよ」
「・・・」
「あ、誕生日おめでとう、お父さんたちには秘密ね」
「ちっ、そんな子供じゃねぇよ」
いちごのショートケーキ、お誕生日おめでとうと書いている
私のために買ってくれた初めてのケーキに胸が高まった
誕生日って今日なのか?知らなかった
菓子を全部食べ終え、ケーキを全部食べて袋のクリームも舐め取る
初めて食べたけど白いふわふわにいちごがすげー美味いのな
絵本なんかもおいてあったけど子供じゃないし興味ない
私はそっちの部屋から出てきちゃいけないと言われたのに話を聞きに行ってしまった
白い床の建物、声が薄っすらと漏れるドアをゆっくりと開けて
「ではお子さんの親権についてですが・・」
「俺はいらねぇ、養育費も期待できねぇしな」
「私だってあんな子いらないわよ!」
ギィー・・カタン
「えっ」
「ちょうどよかったわ、絵美、お父さんと居たいわよね?」
「何いってんだお前の子だろ?!」
「村田さん!お子さんに何言ってるんですか!?」
・・・何も考えられなかった
「弁護士先生は黙ってください!こんな子産まなきゃ私は幸せになれたんだ!こいつが子供好きで一緒に育てるっていうから結婚したのに!働きもしないで嘘ばっかり!」
「だからって俺の子じゃねぇのに引き取るわけ無いだろクソ女!」
何を言ってるのか、何が起こっているのかわからなかった
嬉しくもなく、悲しくもなく、ただただ何もない
「ごめんね、こんな事にならないようにもっと配慮するべきだった」
いつの間にか弁護士の先生に抱きしめられていた
その後、二人は何度も喧嘩して包丁で刺したりして死んでしまった
全く悲しくはない
親戚はいない
施設に預けられ、生活していたらしい
全く覚えていない
最後に先生を見たのは最後に先生が来た日
それまで色々ボーッとする私に声をかけてくれていた・・と思う
ふと気になって、施設に来ていた先生を追ってまたドアを少し開けて話を聞いた
「元杉さん、寄付をどうもありがとうございます」
「いえ」
「また来てくださっても良いんですよ?」
「これ以上私があの子の近くにいるとあの子のために良くないでしょう・・・絵美ちゃんのことをよろしくお願いします」
何を言ってるかわからなかった
ただ、先生が部屋を出る時に目があって、ものすごく悲しい顔をしていた
「本当に、本当にごめん、俺のせいで、こんな事になってしまってっ!!」
先生が居なくなって、ただ、先生のことを考えてしまう
母親によって金色に染められた髪がいつの間にか黒になった頃、私は私の心を取り戻した
先生の仕事は弁護士、弁護士は人を助ける仕事だ
あの人のお陰でご飯も食べれるし、怯えずに生きれるようになった
ずっとあの人のことを考え、胸が熱くなってしまう
ドキドキして、ずっと考えてしまっていた
あんな人間になりたい
少しでも近づきたいと施設の名前の入ったヨレヨレのノートや教科書を使って勉強した
クソな父親だったが一つ感謝したいことがある
万引きがバレるたびに私をボコボコにすることで警察沙汰にならなかった、だから私は法的に潔白だ
・・・・・店側も関わりたくなかったんだろうな
色々わかる歳になって覚えている限り全ての店で頭を下げた
罵られることも、邪険に追い出されることもあったけど、私の万引きの動機に涙を流して謝罪を受け入れてくれた店もある
お陰で弁護士になる第一歩を歩むことが出来る
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?
雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。
特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。
その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった!
吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか?
※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。
RISING 〜夜明けの唄〜
Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で
平和への夜明けを導く者は誰だ?
其々の正義が織り成す長編ファンタジー。
〜本編あらすじ〜
広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず
島国として永きに渡り歴史を紡いできた
独立国家《プレジア》
此の国が、世界に其の名を馳せる事となった
背景には、世界で只一国のみ、そう此の
プレジアのみが執り行った政策がある。
其れは《鎖国政策》
外界との繋がりを遮断し自国を守るべく
百年も昔に制定された国家政策である。
そんな国もかつて繋がりを育んで来た
近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。
百年の間戦争によって生まれた傷跡は
近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。
その紛争の中心となったのは紛れも無く
新しく掲げられた双つの旗と王家守護の
象徴ともされる一つの旗であった。
鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを
再度育み、此の国の衰退を止めるべく
立ち上がった《独立師団革命軍》
異国との戦争で生まれた傷跡を活力に
革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や
歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》
三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え
毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と
評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》
乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。
今プレジアは変革の時を期せずして迎える。
此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に
《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は
此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され
巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる