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第335話 世界に唯一人、貴方しかいない
しおりを挟む彼が現れた
多くの加護を授かり、身体の中に神々の力を持った少年
私のように僕たちがいっぱいいるのかな?
この変わらぬ日常に飽きてはいないのかま?
自分以外が仲間をもつこの世界で彼はどう生きてきたのかな?
どんな人間なのだろうか?
しかし私は王だ、王として作られた以上、王として接しなければならない
王と勇者はどう話すべきなのか?
勇者が1人でいるところに行ってみて、声を出せずに居た
眼の前にその幼くて貧弱な存在がいるというのに、聞きたいことは多くあったはずなのに、どう聞いていいかわからない
「あなたは?」
「私は聖王です」
何度も見に行って、何も言えずに見ていると声をかけられた
「それって名前じゃないよね?名前は?」
「無いです、つけられる前に世に生まれてしまったので」
「じゃあせーちゃんって呼んで良い?」
せーちゃん?地球の言語で聞こえるのならそういうものになるのか?
「っは、はい」
「僕は元杉洋介、勇者です」
「知ってます」
この日はすぐに寝た
何があったのかはわからない、何かを話した気もするが記憶にない
たかが数時間前の出来事だ
なのに思い出せない
俺は壊れてしまったのか?
既に多くの神の加護、一部をその身に宿した勇者
この世で唯一人、私達と似た存在
顔が熱い
その日は一睡もできなかった
天井から眠ってる勇者をずっと観察した
これまでも勇者の称号を持つものと会ったことはあるがこんなことは初めてだ
それにこの勇者が敗北すれば魔王が世界を支配するそうだし、うん、この勇者を見守ることが王として最大の責務だ
この日から僕達はおかしくなったのだと思う
思考の何処かには勇者を考えるものが常に居て、自分で抑えようとしても何処かから湧き上がってくる
王としてふさわしくない行動であるとわかっているのに、日常に王ではない自分が勝手に動き始めた
観察を続けているうちに勇者と同じことをしてみた
勇者を打った棒で同じく打たれてみて、勇者の食べた食べ物と同じものを食べ、勇者の衣類を着てみた
痛みは身体に強い刺激を与える
この痛みを勇者にも味わってほしい
「へへへ」
小さくて私達の身体には苦しい装いを無理やり着ただけなのに、何故か心が沸き立つ
「本日の議題はここまでですが、何がありますか?」
手を挙げ、聞いてみることにした
「無いようですな、それでは「待ちなさい」
「「「「「は?」」」」」
今までこんなことをしたこともなかったからか皆驚いている
・・・・・
「なんでもないです」
わからない、いくら経典を読んでも、いくら異世界についての書物を読み漁っても
僕たちも一応人である、人であり、人以上の階位には上がれぬと決められた紛れもない人だ
故に感情があるはずだ
しかし感情とは何かわからない
強い感情とはやはり生命活動の停止への拒絶ではないだろうか?
処刑したものは強い感情を吐き出して死ぬものが多かった
試してみよう
呼吸を減らし、心拍を減らし、臓器の活動を停止していく
段々とどこかに落ちていくような、苦しい?わからない
強い忌避感が生まれてきたとおもう
「はぁっ!はぁっ!!!こほっ」
自分でも驚くほど強い衝動がどこかからでてきた
これが生命体として生きていて生まれる生存本能
これも勇者と出会わなければ分からなかったです
明日礼に行こうぜ、そうですね
・・・・・なぜだろう
話し始めてジリジリと逃げられ、ついつい追いかけてしまう
この感情はなんというのだろうか?
勇者を通して何かを私は見つけていく
一つ一つの発見に、私達は浮き立った
もっと勇者と一緒にいたい、わたしたちのように強い感情を与えたい
叩けばきっと強い感情が出てきて嬉しいはずだ
人が人として感情を出すことは尊いことであるし勇者もそれを望むはずだし、僕も勇者に味あわせてほしい
拷問というのは特に感情を揺さぶられ、それまで持っていた全てを捨て去ってでも隠し事を表に出してしまう
勇者に感情を表に出して欲しい、強い感情を表に出すというその喜びを感じて欲しい
旅に出た勇者
僕たちはそれを見送った
私達は王であるし、魔王から勇者の両親を守れるのは俺達だけ
「とーさんたちをよろしくね」
「わかりました」
頼られるってこんなにも素晴らしいことなのか
涙が出てしまうほどに嬉しかった
勇者ならやり遂げる
そしてやり遂げた先に両親の復活があり、それはこの国で行われる
それはきっと俺たちの知らない愛を見せてくれるだろう
私達はそれを待つ
ところが魔王を倒しても勇者は帰ってこなかった、それはいい
こちらの世界に帰ってきたと思ったら知らない女達と婚姻するという
連絡を受け、勇者のいる辺境まで急いだ
しかし、勇者は入れ違いで帰ってきて両親と共に地球に、日本に帰ってしまったらしい
――――――・・・・・・・・ああああああああああああ
これが、これが嘆き
もう待てない
はっきりと自覚した、これこそが愛
彼を愛している
彼のことを考えない時間はなく、彼が居ない世界になど未練はない、彼のために死ねる、彼を私のものにする、そのためだったらどんなことでもする
だって、私達には貴方しかいないのだから
まずはレアナーに相談した
凄く反対されたが協力を約束させた、理由はわからない、きっと私の思いが通じたのだ
もう少し、もう少しでずっと一緒にいられる
ただ一緒にいるだけではない、何も変わらぬ日常ではない
私を愛し、共に過ごし、憎み、憎悪し、また愛し、共に過ごし、憎み、憎悪する
これを永遠と繰り返し、強い感情の中で私たちは幸せに生きるのだ
「なのに」
みんなが邪魔する
身体にまで入り込んできた闇を打ち払い、起き上がって敵を見定める
忌々しくも異世界に連れて帰ろうとする侵略者、完全に否定するべき敵
「勇者は、私のだ」
「それを決めるのはあんたじゃない、洋介と、私達だ!!」
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