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第250話 黒葉と顔を隠した行商人

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「なにやってんの?」

「えっ?」


ミルミミスさんに食べ終わらせると後ろから声をかけられた

周りには完全に誰もいなかったはずだ

ムチに手をやる


「驚かした?ごめんごめん、行商人だよ」


黄緑の髪色にぴょこんと兎のような耳がついた女の子?いや男の子か?

この荒野と同じ色の服やマントだ

背中を向いていたのなら気づかないかもしれない


「ど、どうも」

「あんた達大丈夫なのか?こんな荒野のど真ん中で2人で座り込んで1つの飯を食うってさ」


顔も口も土の色と同じような布で覆っていた

背丈は私よりも低い、元杉神官ぐらいかな

声は高い、女の子か?いやこちらは多種多様な種族の人がいる、そうとは限らない


「だ、大丈夫です!」

「ふぅん、まぁ良いや、水はあるのか?どこに行く?難民?迷子?死にたがり?ザウスキアの人?もしかしてそっちの子は奴隷?困ってるか?」

「えぇっと」


近付いてきてまくし立てるように聞いてくる

誰だこの人、ミルミミスさんの知り合い?


「ザ、ザウスキア?チ、違います!」

「そっちの人は立てないの?ダイドンの茎いる?」

「<いらない、そこでとまれ>」


トスッ

「・・!?」


私の後ろにいるミルミミスさんから魔力があふれた

近付いてきた小柄な人からナイフが地面に落ちて刺さった


「殺す?」

「え・・あ、え?」


殺す?この人をミルミミスさんが?




それよりも私




―――――殺されそうになったの?今?




ナイフを落とした行商人を名乗ったこの人、顔を隠しているため表情は見えないが震えて立っている

ミルミミスさんがなにかしたのかもしれない


「こ、殺さずに無力化出来ますか?」

「うん、<動くな>」

「ひぐっ!?」


ミルミミスさんは魔力のこもった声を叩きつけたようだ

ピクピクと動いているがこの人は何なんだろうか?

元杉神官の言っていたように賊かもしれない

こちらの世界では襲いかかってくる人間は珍しくないらしい


それにしても魔力ってこんな使い方もあるんだ

私も魔力を声にのせるぐらいはできるけど・・・ミルミミスさんは私にはわからない行動なことをしているのかもしれない

自在に動くムチで腕を拘束し、便利グッズの中からガムテープを出して手首を出して後ろ手にぐるぐる巻にする

巻いてる時に急に動かないかと私がビクビクしたものだが問題はなかった

厚着をしているようで手首は子供の用に細かった

いや、子供なのか?

マスクと帽子をゆっくりと外す


「子供?」

「・・・・・ぁ・・ぅ・・・・」


顔は可愛らしい子供だ、少し肌が焼けて耳が上についていて犬耳だ、もしかしたら猫耳かもしれないけど

恐怖に染まった顔のままミルミミスさんから目が離せないみたい

動けないようなので少し余裕が出てきた

命を狙われたことはレアナービルでもあった


でもそれは『レアナー教』を狙う目的であって『私』を狙うものではない


元杉神官の魔道具によって吹き矢や拳銃程度ならダメージにならない

それにボディガードが最近増えたから危険を感じることはなかった

この少年か少女かわからない、いや少女だな、少女の持ち物は全部取り上げる

腰やポケットから武器や財布袋、私のものとよく似た収納袋

武装解除のためにも全身チェックしたけど胸はない


「ミルミミスさん、反撃できないようにして話させることは出来ますか?」

「うん」


ガッ!!


「ぎっ!?」


ゆらりと立ち上がったミルミミスさんが右手で頭をつかんで地面に叩きつけた

肉厚なプロレスラーの攻撃のように激しく叩きつけられていた

死んじゃわない?


「<抵抗するなら頭を潰す>」


頭をつかんだままミルミミスさんがこちらを見た

話してもいいってことかな


「なんでナイフを向けようとしたんですか?」

「・・・」

「<話せ>」

「ザ、ザウスキアの人間に話すことはない!!」

「ザウスキア?向こうにある国だよね?私達違うけど」


この子はザウスキアと敵対している人間?戦争中なのかな?


「嘘だ!!こんな場所でそんな服、あり得ない!!!」

「え?関係ないんだけど、そんな勘違いで殺そうとしたの?馬鹿なの?」

「馬鹿って・・クソ!離せ!離せ!!」


暴れる少女だけどミルミミスさんは全く動じていない、むしろ力が強くなっているようにさえ見える

後ろ手にガムテープでかためたのは有効なようだ


「<こいつ殺す?>」

「まって・・・あなたはザウスキアの人間じゃないのよね?」


ザウスキアから来た人間を殺そうとしたのならその反対、目的地の住民じゃないかな?

賊だとしても人を殺したくはない

だけど解放するかというとそうではない、開放して他の人が殺される可能性を考えると放ってはおけない

私達みたいに誰かを殺そうとするかもしれない


「そ、そうだ」

「じゃあ向こうの町の人だよね、案内して」

「・・・いやだ・・・ぁぁぁあああああ!!!」

「<死にたい?>」


抵抗する少女だがミルミミスさんの手に力が入ったのがわかった



――・・・殺しちゃうかもしれない!!




「まって!どうする?私たちはザウスキアとは関係がないの、レアナー教国から来た友達とはぐれて困ってるの」

「ク、クソババア、お前の神に誓えるか?」

「神に?できるよ」

「じゃあ誓え、お前がザウスキアと関係ないことをな」

「わかった<サシル様、レアナー様、私はザウスキアとは関係ありません>・・・これでいい?」


こういう誓いや宣誓は声に魔力を載せるものだ

元杉神官がヨーグルトを食べたときにそれがレアナー様の分で買いに行くように言われて宣誓していたのを見たことがある

そうじゃなくてもケーリーリュさんには教わっていたので知っていた


「わかった、こっちの亜人ババアどうにかしろよ、お前の奴隷なんだろ?」

「奴隷じゃない、ミルミミスさんは、友達、かな?」

「そうか、じゃあ俺も<レアナー様に誓って町まで送り届ける>これでいいか?」

「決まりですね、あんたもレアナー教徒なのね、で、名前は?」

「エシャロットだ、ババアは?」


私のこともミルミミスさんのこともババアとは・・口の悪い子だなぁ

名前を答えそうになったけど考え直す

海外の麻薬に関する捜査では名前や顔を知られるのは良くないそうだ

答えないことにする


「秘密、さっさと歩く!」

「このままかよ!?」


立ち上がらせてそのまま歩かせる、後ろ手にぐるぐる巻きにしたガムテープはそのままだ

何をするかわからないしね


パシィンっ!!


文句を言う少女に対して地面にムチを打って鳴らした


「わぁったよ!!!」


それにしてもエシャロットって野菜みたいな名前だなぁ
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