少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo

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第241話 春日井の絶望と守護神チーテック

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あれ?私、何してたっけ?


目の前には病院で寝ている自分がいる

春日井遥、大学生

階段から落ち歯が折れて、首も痛めて・・・癌も見つかった自分

薬でずっと体が思うように動かず、髪もまばら

闘病で頬は痩せこけ、鳥の足のように肉付きはなくなり、生気も無ければ希望もない

大学の親友だった真莉愛と彼氏である春樹に裏切られ、小学校、中学校、高校、大学、私の知らない人にまで私の悪評を広められた負け犬


-そんな人じゃないと思ってた-
-今度、俺と会わない?-
-嘘だよね?遥がそんな事するわけないよね?-
-幻滅した、もう二度と連絡しないで-


そんなスマホの中を見た私、絶望に染まった顔をしている


あぁそうだ、死にそうになってたんだ


<ふむ、これがお前の絶望か>

「だれ?」

<チーテックだ>


あれ?よく見ると私が春樹と付き合ってる

そうだ、私は後期の試験のコピーをしに・・・あれ?


<・・俺の加護で少し負担になってるようだな>

「どういうこと?」

<いいか?お前は今、死にかけてる>


声をかけられると意識がそちらに戻る、あれ?コピー機に入れるお金・・ちがう、意識が引っ張られる

自分の中がぐちゃぐちゃで、自分が今、何をどこでやっているかもわからない


え?私、死にかけてるの?


<そうだ、俺も本体で守護神になったのは初めてだからな・・・少し身体を借りてもいいか?死なせないようにするから>

「おねがいします?」

<おう>







「さて、ここはどこだ?」


地面に寝ていたのだが全身が痛む

身体が張り裂けそうだ、ふらつく身体をなんとか保ち、全身を骨の一本血管の一本まで意識する

肉の身を借りるのは久しくしていなかったが足の指の一本一本の骨まで痛みでわかってしまう


俺の加護に身体が適応しようとしている、痛んで仕方がない

悪夢を見ているのも俺の加護が原因だ

俺の加護をやると人はそれまでにあった悪夢を見直す

人生においてこれまでに良くなかったことがあればそれを見直してこそ今の自分を見直すことができる

今の自分が護るものを考える機会となる、俺なりの試練だ


身体を使ってゆっくりと地面に立って周りを見渡す

見事に森だな

藪草がないだけマシか、晴れてるのも良い

それにしても


「・・・胸の重い女だ」


神になって性別はなくなった、女になったこともあるし男になったこともある

俺も元は・・男だったような・・・?いや女だったかもしれん

収納袋の中を調べると、変な槍と盾がある

槍は斧のような先端が付いているが・・・重いなこれは記憶によると、ハルバードというのか

他の長柄の武器には刃がついてない

剣でも良いがこっちのほうがマシだな

それとこれは・・・ミートスパゲテ・・・?なんだ?ミートパスタ?2種類の読み方があるのか

どうやって食うんだこれ?

3股の匙、これか?ソースを麺にかけ、すくって食う


旨い!!!!何だこの味は!!!??


赤いソースは食欲をそそらなかったがこういうものなのか!

肉もほんの小石の一粒程度でもしっかりと味がついている!

これぞ天上の料理ではないか?

雑味もなく、変な癖も、後味も、金属臭さもない!

ただただ旨い!!この上の赤いのだけでも良いがそれだけでは飽きるのだろう、この麺も良い!!!


「あぁっ!!」


麺が進む!上の赤いのもうまい!!


記憶によるとこれはイタリアという場所の食べ物らしい

異世界の記憶はやはり興味深いがそれよりもやることがある

痛む喉を無視して美味しく頂いた、俺と適合中なら栄養はとっておいたほうが良いだろう

飯を食っていたらミャーゴルが来た


「ルルルルル」

「ん、ルールというのかよろしくな」


立派なミャーゴルだ

記憶によると関係はうちの飼い猫らしい


「乗せてくれるか?」

「ルルル!」

「今の俺は弱い、戦闘も任せられるか?」

「ルルルルル!」


助かる、地面に限界までひれ伏してくれたが乗るのもしんどい

春日井起きねぇかな?

のっそり歩くミャーゴルだが揺らさないように気を使ってくれているんだろうな・・・


どこの国かはわからんが門についた

なんの問題もなく

入るのに門兵に調べられるようで何人も待っていたので列を待つ

大きなミャーゴルに乗っていることから周りと距離がある

野生でこのサイズと会えば普通の民なら死を覚悟するだろうな


立派だよなこいつ、ふさふさした毛並みを撫でてやる


ただ近くにあった都市だが城壁も高いし兵士の質も装備も良さそうだ

城壁の上には兵器も置かれているし複数人が歩いているのが見える

これならヒュドラに襲われても・・いかん、つい守護する立場でものを考えてしまう


「次!お前だ!」

「立派なミャーゴルだがどこの出身だ?」


どこの出身・・・アオキチキューでも良いのだろうか?

いや、目立たない程度に適当にごまかすか


「レアナー教国」

「そうか、ここに来た目的は何だ?」

「人探しだ」

「身分を証し立てるものは?」

「免許証・・はダメだよな、これから作りに行く」


訝しげな門兵、おかしなやつと思っているのだろうな

やるか?

軽く笑みを浮かべたまま気付かれない程度にハルバートの柄に力を込める


「小銀貨3枚、ミャーゴルは2枚だ、今日中に身分証作って一度こちらに顔を見せに来い」

「わかった」


収納袋から出しておいた金貨を1枚渡す

勇者である元杉から貰っていた道具の中にあった金貨

細かいのははいっておらずに金貨しかなかった

仕方ないとも言えるがちょうどいいしこいつらを試すか


「・・・・・何だこれは?」

「心付けってやつだよ」


あからさまに嫌そうな顔をした兵士

若い兵はやれやれという顔をした

足りるよな?いや、違うなこの顔は


「いらんわ!!」

「すまん、他所の国だと賄賂渡さねぇと牢屋に入れられることもあってな」


国によっては賄賂は当然とされる、賄賂を断るってことはレアナー神聖教国からまだ近いようだ、もしくは教国内

言い訳ではあるがよくある話だ

この門兵は真面目に仕事をしているのだろうがそういうこともあるのならそれは言い分となるだろう


「・・・」

「それに細かいのは持ってないんだ」

「えぇい、釣りを渡すから待ってろ!」


釣り銭を貰って「腕に覚えがあるんだがこのあたりで働ける場所はないか?」と素直に聞いた

総合ギルドというものがあるらしく、そこで身分証を作ってもらえるし仕事も十分にあるらしい

気持ちのいい仕事をする門兵だ

俺1人なら身分証もいらないかもしれないがルールもいる

盗人に襲われる、貴族に狙われるなどよくあることだ

争いにならぬようにさっさと身分証を作ろう

そして宿屋だ

早くこの体を寝かせてやりたい


門からも見えていた総合組合とかいう建物に入ることにした
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