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第197話 再会とトロッコ

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アンケートを机において残ったドアを見る、いつもの木製に見えるドアと違って白いドアだ

紙が貼られている


-2人は外のことはあまり喋れない、言葉には気をつけるように-


ガチャッ!


2人のことが心配でドアを強く開いてしまった

ドアを開けるとそこは広い部屋だった

赤い絨毯に観葉植物、ソファーに座って後頭部が見えているのは妻だ


「お父さん!」
「貴方!!!」

「あぁ!!あぁ!!!」


ドアはパタンと音を立ててすぐに二人と目が合った

抱きしめて体温を確かめ合う

妻も娘もちゃんと来ている

パパじゃなくて日本語で「お父さん」といわれた、悪くはないな

だけど悪くないが心配にもなる

俺は眠っていて見ていて体温を感じているこの妻はなにかの魔法である可能性

俺は起きているがこの2人は偽物で俺が錯覚している可能性なんてのももある

妻の顔を見つめると妻が微笑んでくれた


パァンッ!!!


いたい、首が持っていかれるかと思うほどのビンタ

本物のアビゲイルだ


「お母さん止めて!」


その叫びが聞こえるまで俺は妻に殴られた

平手ではなく拳で

グレースに制止されるまで激しく殴られたが泣いた妻にはかなわない


「レアナー教へのスパイなんて何考えてるのよ!?バカじゃない!!!??」

「だいたいあんた記者だとか言ってさ!」

「日本で火事で死んだって聞いたけど!!」

「どこにもそんなニュースもないのに!!あんたの葬式までやってさ!!!」

「私達がどれだけ悲しかったかわかる!!!??」

「なんとか言いなさいよ!!!」


アビゲイルの言い分はもっともだ

軍を辞めた後は特殊部隊に引き抜かれたことを秘密にしないといけなかった

民間の記者として世界を飛び回る仕事

そんな台本で、様々なところで様々な仕事をしてきた


外交官に代わって書類を受け取ったり、新しい仕事を現地のスタッフに命じたり

上からはそれなりに信用されていた

だから今世紀最大のニュースであるレアナー教の情報を任せられた

内容は遠距離からの監視任務だ、簡単なはずだったんだ

色々言いたかったがまずは言いたいことがある


「あ、顎が」


グレースが間に入って止めてくれたお陰で妻に殺されずにすんだ

妻は元同僚だ、近接戦闘であれば俺よりも強い

妊娠もあったし軍を辞めた後は地元のボクシング教室で教えている、まだプロになれるぜ


恥も外聞も嘘もなしに牢獄に入るまでのことをなんとか説明した


「ばかっ」

「愛してるよ」

「ばかっ!このおおばかっ!!!」


なんとか愛してると伝えられてよかった

娘は元気でやっていて誰も病気はしていないし俺の死亡保険もおりて金はあるそうだ

娘も寂しかったと言ってくれた、俺もだよ

何をしていたか聞かれても牢獄内のことを話して石化しても困るのでそのことだけは隠し通した

無言の俺を妻は殴ろうとする

一発目のビンタも腹へのパンチも効いた、蹴りだけは止めてくれ

下手しなくても骨が折れるし何よりも娘の前だ


「お母さん!お父さん叩いちゃダメ!」

「「グレース」」

「それよりもあそびにいこっ!ねっ?」


遊びに?それは許されるのか?

「許されるのか」か、なにか新しく行動するのにそれが頭に刷り込まれてしまっている

手をひかれて外に出るとトロッコが置かれている

意味がわからんけど2人共慣れたように乗ったので俺ものる

トロッコはクッションもブレーキも何もない、斜面ですらないのに進み始めた

ことんことんと静かに音を立てて城の廊下を進む

外も見えた、太陽も見える


「キャッホー!」


スピードは駆け足ほどで速くはないが娘は飛び跳ねて楽しそうだ

小声でアビゲイルに「ここのことは話しちゃいけないことになってるの?」と言われて頷く

場所は確かにレアナーキャッスルのようだ、景色もそうだし城の外で働いてる人間も遠目に見える

ここは2階か3階の廊下?


今なら逃げられるんじゃないか?


一瞬だけそんなバカな考えが浮かんできたがすぐに否定する

妻も娘もいるんだ、逃げられるわけがない


逃げたとしてもどこへ逃げる?


トロッコに揺られて感じる妻と娘の体温が泣きそうなほどに嬉しい

長い地下生活で乾いていた心に染み渡るようだ

前に抱く娘に声をかける


「愛してる、心配だった」

「私もよ、お父さん、大好き」


大きなドアの前でトロッコが止まった

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