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第192話 ネットマナー

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「すいません、ネットマナーの講義はここであってますか?」

「はい」

「代表の洋介です、よろしくお願いします」

「ほら座りな」

「うん」


子供が来た、この集団と彼等が何者かは知っている

元杉洋介、レアナー教という新興宗教の代表者で世界をひっくり返している有名人だ

宗教的な衣類に女の子かと間違えそうな幼気な顔つき

多分来たのが彼1人ならコスプレかと間違えたのかもしれない


だが我が校で有名な2人、春日井遥と黒葉奈美が一緒だ


2人共レアナー教の関係者でネットでは鬼神春日井や女神黒葉なんて書き込まれているのは見たことがある

最近では国会議事堂で机壊したり、ヨーロッパの首相や大統領との会談をしたと世間の注目を浴びている


様々な噂がある


壁を素手で破壊し、空を飛び、マフィアを駆逐する春日井遥

見た目は女神なのに中身が阿修羅だとも言われる

他にも病人だったとか死にかけて仙人になったとかハゲ親父と不倫していたなんて噂も流れている

それと学食のおふざけで提供されているスーパーマックスチャレンジ盛り制覇者だとか、流石にそれはないだろうな

ただでさえ美人なのに話題に尽きない有名人だ


それともうひとり、黒葉奈美

レアナー教で人を癒やす、慈愛に満ちた女神のような人らしい

目は前髪で隠れているし服装が地味なのだが背は高い

無言でニコリと微笑んで人を治すその姿に女神と言われている

彼女達には学内で有名人でナンパされる姿もよく見る


世間ではその2人とセットにされるのが元杉洋介、レアナー教の指導者

神様と一緒にいて現代の奇跡、スケコマシ、光の神官、超大型瞬時出現台風、狂信者、最強のボクサーなどなどと好き放題に言われている

見た目は可愛らしい子供だ、年齢は16歳、異世界でなにかあって見た目は幼いとかで・・・10歳ぐらいかな?

世界のニュースで彼が出ない日はないだろう、今年のネット検索では既にぶっちぎりの一位だ


そんな彼が目の前にいる、講義室が埋まるほどの人を引き連れてきて・・・


「あの、始まらないんですか?」

「あ、はいこれから「ネットマナー」についての講義を始めます」


ちょっと現実逃避していた

簡単なネットの使い方を検索方法から始まり、ウイルスや詐欺の危険性、SNSによるダイレクトメッセージの注意点などをわかりやすい事例を交えてプロジェクターに映し出す

ネットマナーは実生活にも影響を与えるかもしれない現代では必須の常識である

その人の人生をちょっとした礼儀で無事故・無違反で快適に過ごそうというものだ

いつものアホな学生共とは違う

こんな講義内容でも守れないやつがいるから大学もこういう講義をしましたよと実績を残すために大学に入ってすぐに講義が設けられている

話を聞かないものも多いし寝るものもいる、講義の半分も終わった後に入ってきて「出席したことにしてくれ」とか「ノートを取ってるふりをしてゲームをしているアホ」「講義を聞かずに仲間内で話して講義を妨害するもの」のなんと多いことか


カップルがいちゃついて話を聞かないのも問題だ、マンモス校だし相手は多くいる


まともに聞くものも多いし今までにきっちり学んできたものには面白くもない講義だろう

おそらく社会に出てやらかしてしまうのは講義を全く聞かず、何も学ばない、そもそもマナーのないものだ

彼等の「自分だけは関係ない」という態度は一体どこから来ているのだろうか?

そんなのだから今も全国でやらかす馬鹿者が晒され、その人生は暗いものに転落する

我が校ではないにしろ大学名も晒されているのはやるせないものだ


今は目の前に小さな子供が5人いる

小学生ぐらいの男女が2人と外国人でやけに洋介くんに似た子が1人、それと元国王を名乗る異世界人の女性で国会議事堂で堂々としていたネットで話題の子

洋介くんも含めて子供5人だけは本気で講義を聞いてくれている

この大きな部屋は部屋の中の廊下まで立ち見で埋め尽くされている

立ち見で教室の使用率を200%を越えようとしているほどに彼についてきた大人たちは講義も見ているが講義自体よりもその5人を見ている

間違いなくレアナー教の関係者だろう

この部屋の99%はレアナー教徒だな、きっと私以外・・・なんて心のなかで計算する

なんだろう、失敗したらどこかに連れて行かれるのかな


「質問はありますか?」

「はい!」

「何でしょうか?」

「公開メッセージにすると毎回脅迫メッセージも来るんですが仲良くもない初めて話す人にダイレクトメッセージを送るのも失礼に当たるんですか?」


そんな超有名人の悩みを言われても・・・


「場合によりますね、相手方がどう受け取るか次第で失礼になる可能性もあります」


無難に行こう、目の前の洋介くんは悪ふざけでこんな質問をしているわけではないのは見て取れる

アホな学生とは違うんだ

彼の役に立つように答えないと


「ですがその人にとってダイレクトメッセージの方がありがたい場合もあります、先ほど紹介した事例はあくまで一般的な内容となりますね」

「なるほどー」


次は写真や動画投稿の危険性やLIVE動画による失敗

ネットタトゥーともいわれていた「炎上が残り続ける話」だ

話していたら洋介くんから「あれぇ」なんてつぶやきが聞こえた

うん、色々やらかしてるもんね君

世界最大の動画サイトで最も多い登録人数で最もこの話に該当してるんだもんね


なんでこんな話してるんだ自分は・・・


しかも「炎上しないように気をつけるポイント」についてや「本名を出さない、住所を晒さない」などの最低限気をつけるべきポイント8項目のうち、私の知る限りだけで6項目も当てはまっている

1つでも危険だっていう項目なのにだ

もしかしたら他のネットマナー講座では君の名前が出てるかもしれないよ

登録者400人ほどの私が登録者20億ほどの彼に何の話をしているのだろうか・・・?

私の年収を一瞬で稼ぐ存在が目の前にいる

何か心のなかで揺らいだ気もするがこのネットマナー講座の内容はごく自然でまともなものだ

講義自体はまともに聞く子供たちがいたからか、それとも私が大人たちの圧に負けてか早く終わってしまったので質問に戻る


「こういうのもよくありませんの?」


洋介くんのスマホを操作して見せてくれる

洋介チャンネルへの「嘘乙定期!」「金儲け目的の詐欺集団」などの煽りに対して「嘘なんてついてないですわお馬鹿ですわね」などと反撃炎上コメントを書いたようだ


「か、漢字の勉強をしてまして、元杉のやってることから見てました、その、ごめんなさい、ですわ」


悪いことをした子供のような反応だ、謝る相手が違う

ちらりと大人たちを見ると「いいぞ言ってやれ」と見て取れる

これは相手が悪い、問題はないと思うが危険性だけは伝えておく


なにか色々と間違っている気がする


眼の前の少年は私の半分ほどの年齢だが世界一の有名人である

それも三〇を過ぎて独身の私の目の前に婚約者3人も連れている

人は人、自分は自分とわかってはいるがモヤモヤとしたものが心の中で渦巻いてしまう


「今日は色々参考になりました!よかったらまた教えてもらってもいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


私のSNSやチャンネルはダイレクトメッセージを公開している

うちの学生たちがインターネットでやらかさないように確認したり相談を受けているだけのものだ

私個人が自発的にやってるだけで大したものではない

そんな私の動画チャンネルとSNSが洋介くんに登録された


彼から登録されている人間は少ない


彼が登録している人は少ない、わずか数十人しかいないが世界の名だたる超有名人や彼の身の回りの人、それと単純に興味があったのか猫の出ているチャンネル程度だ

超有名人は一国の大統領や首相が並んでいる


その中に私の名前が増えた


その途端に新たな登録者も爆発的に増えている

完全開放しているダイレクトメッセージの通知数も滝のように流れる

月に2回ほど誰かと接触できればいいだけだったのに万を超える通知数だ

彼に登録されるとこんな事が起こるのか・・「これも一つのネットマナーか」とスマホをベッドに投げて寝た
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