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第187話 牢獄での正気
しおりを挟む牢獄にも娯楽が増えてきた
捨てられるはずのお菓子の箱にペンで数字を書き込んでそれをトランプにしたりして遊んでいた
人間には息抜きや娯楽が必要だ
どんなものでも良い
ここに来る前にはここの住民にも様々な娯楽や趣味があったはずだ
散歩や釣り、スポーツにゲーム、タバコに酒に女・・・とにかく何かで心を安らげていたはずだ
しかしこの牢獄内には何もなかった、何もなかったが何かするものは多かった
人によっては極限とも言えるストレスがあったのだろう
急に叫びまわるものや歌うものも多かったがそういう人間は祈りの間に行って祈ればしばらくして落ち着く
祈りに心の開放とやらを求めて永遠と祈り続けるものがいるのは困りものだ
趣味の中で一番怖いのはランニングだ、無限に繋がる出口のない廊下がある
走るのには良いかもしれない
ただ、誰にもぶつからなければの話だ
接触した場合には走っていたものだけではなく運が悪ければぶつかったものも石化してしまう
何度も新人にここのルールを説明するがストレスでいきなり走り出すものがいる
イカれた状況でストレスがかかるのだろう
してはいけないとわかっていてもやってしまうものもいる
たまに集団で走ってるものがいるがまさに暴走族だ、止められるものはいない
むしろみんなで参加して汗を流すことがある
娯楽はギャンブル向けられるものも多かった
菓子のゴミは牢獄を散らかしたと認定されれば一日の稼ぎがなくなる
服に入れておけば消えることはあまりない
そうやってゴミが無くならないように大事に取っておく
ポイントは自分だけのものだがポイントで交換した菓子やビールは譲渡可能だ
奪うことは出来ないが賭け事も出来る
ただし自主的に「譲る」ことが出来るのだ
賭け勝敗による契約の履行が果たされるかは本人次第である
払わないものもいるがそんなことをすれば仲間はずれとなる
それよりも僅かなことでも楽しむことが増えた、ここの生活ではとても喜ばしい変化だ
ほんの小さな喜びかも知れないが何かでストレスを解消しなければ、正気を保てずにいずれ爆発する
狂ったものの凶行は恐ろしい
無限のスープが出てくる謎容器を破壊しようとするものやトイレの中で愛を育もうとする集団がいたときは最悪だった
スープ騒動のときはすべての食品がなくなり丸一日食い物がなかった
大部屋の奥に1部屋しかない集団トイレ
そのトイレの中のやつらのせいでドアがつっかえたときは地獄だった
我慢の限界でドアを蹴破ろうとしたものがいた
ドアの先のもの数人も勢いの付いたドアにぶつかり石化、更に蹴破ろうとしたものを動かそうとしたものも石化し固まった
固まった人間たちが絡まり、トイレのドアが完璧に封鎖された
漏らすぐらいならと何人もが殴り合って石化した
盛っていた者共は罰なのか空き部屋で壁を向いて10日は石化していて大分大人しくなった
ストレスは危険だ
まともに見えるやつでもいきなり爆発することがある
ここでは太陽も風も感じられず、通常では感じられないストレスに晒され続ける
謎のルールに振り回されてる、そう考えているうちはいい
深く考えると危険だが深く考えてしまうとイカれそうになる
なぜならここの管理者はいつだって私達を好きに殺すことが可能だ
もしも石化したまま、意識のあるままドリルで目玉を削られたら?足の指先から砕かれていけばどうなる?死ぬのか?
それとも山に転がっている石のように放置され、その中で意識が残り続けるのか?何億年も?
これほど恐ろしいことはあるのか?
これを各集団のリーダーたち、同性愛者たちのリーダーも含めて話した
どうにか管理者の役に立つように行動すること、最低限の治安を維持していくことなどを取り決められた
暴発するものを減らすためにもスポーツや賭け事を増やした
鍛えたものが多いし肉体を使う賭け事は人気だ
並べられた菓子袋のスタートラインからどれだけ飛べるかなんて遊びも賭けの対象となった
次々に考えられる遊び、子供の考えるような馬鹿げたものもある
次々入ってくる新人には白けた目で見られるがそれでいい、そのうちもっと面白い遊びも思いつくだろう
だけどまぁ俺は賭け事には興味がない
妻への手紙にポイントがいるのだ
娘が可愛く育っていると綴られ、涙した
「写真のセーターを気に入っている」とかかれているがセーターの写真はない
おそらく途中で紛失したか検閲に引っかかったのだろう
初めてこの牢獄で激怒してドアを蹴り飛ばし、石化した
おかしな点はある
書いた手紙が消えて2-3日で返事が来る
本当に妻かと迷う、本物の妻からの手紙なのか?
手紙に不審な点はない、筆跡も妻のものだ
ここの運営者がアメリカに国際郵便を送り、それが届いて返事が返ってくるまでに2-3日?あり得ない
今日起きて紙に書かれてる文字が信じられなかった
妻子に会う ポイント半分
信じられるかどうか、何も考えることなく迷わずに丸を書く
漢字にも慣れたものだ、今では日本語を書くことも出来る、うまく書けているかはわからないが
その日一日、仕事は手につかなかった
Aに話すと服を貸してくれた
黒のスーツだ、しつらえたかのように俺にピッタリ、いやほんの少しだけ小さいか?
ネクタイはないがカッターシャツもあった、ベルトはない
Aは身につけているサスペンダーを外して俺につけてくれる
だが長さが合わない、既製品のサスペンダーではない、ゴム紐のようなもので作られたものだ
Aはサスペンダーを俺に会う長さで折りたたんだ
「調整してくるから待ってな」
「ありがとうA」
「気にすんな、それよりもスーツは自作だ、ゆっくり体を動かして確かめろ」
「わかった」
「破るなよ?」
ゆっくりと上半身を動かしてみる、ほんの少しだけピッチリと体に張り付く
激しい動きをしなければ大丈夫そうだ
腕時計や財布も欲しいところだがそうもいかないな
「おまたせ、上着脱いでみな」
「それよりこのスーツはなんで作ったんだ?」
Aにはこのスーツは入らないだろう、なのに作った意味がわからない
「あー・・Dがいただろ?あいつに作ってたんだよ」
「D?あぁあいつか」
Dはトイレで乱痴気騒ぎを起こしたリーダーだ
身だしなみにも気を使う気障な伊達男、話してみると知的で頭の回転が速いのだが同性愛者でよく誘ってくるのが難点だ
・・・・たしかに自分とやつとは体格が俺と近い
「やつはあぁいう性格だろ?服の依頼がよく来るんだがあの騒ぎで支払いのポイントを食い物にして配っちまっただろ?このスーツは支払い待ちなんだ」
あいつの服かと少しげんなりもしたが背に腹は代えられないな
一応妻子と会うなんてこれまでにないことだし戻ってこられなかったらと話す
もしも戻ってこれなくても諦めるとまで言ってくれた
代わりにこうなった経緯を話す
手紙のやり取り、すぐに来る怪しいが本人とわかる返事、写真は抜き取られていたなど
「その情報だけでも戻ってこなくても釣りが来るさ」
「で、俺の姿はどうだ?」
「・・・・・だめだな、ヒゲモジャにその髪だ、少し整えてこい」
頬に触れてヒゲのモサモサ感を感じる
そういえばそうだな、娘にあっても別人と思われるかもしれん
少しでも整えておくか
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