上 下
158 / 618

第157話 頭のいい変人

しおりを挟む

深夜のコンビニにたむろする若者、1枚の写真を撮るために遭難するカメラマン、家中を趣味のグッズを集めるコレクター


みんな馬鹿だ


親に言われるがままに勉強し、青春なんて一切感じなかった

恋愛なんて猿のするものだと習ったし当然40になった今でも猿との付き合いなんてしていない

省庁に入ったのはそれだけの知性があったからだ

勉強して、日本で一番の名門大学を出て、それが当たり前だと思った

自分の人生は自分だけのものではなく環境が自分を形成し、最適最高最善の道を歩んでいる

そのはずだった


「お前って好きなもん何もないの?」

「人生損してるよ君」

「頭はいいけど馬鹿だよね」


何故かそう言われる

享楽に耽けるなど人間にあるまじき行為だと思うのだがどんな人間にもそういうものはあるようだった

私以外


私は一つの事案に対してその国がするであろう行動パターンを多角的に考えるのが得意であった

民衆の大まかな反応の予想、国として行う対応の範囲、他国の反応、宗教的反応、ジェンダーレス団体の反応、スポーツ業界の反応、富裕層の反応、貧困層の反応、食品産業の反応など

上げればきりがないがいつも最低でも180ほどは分析もしくは評価し、60ほどの対応案などを書面にしていた

誠実に仕事しているだけなのだが「遊びを知らない馬鹿」などと言われるようになっていた

遊びとは何なのか?遊ぶことなど人生におけるマイナスでしかない、はずなのだがどんな立派な人でもその「遊び」というものは大切であるようだ


遊びについて調べてみた


単純に体を動かして遊ぶという意味だけではなく「余裕がある」という意味合いが大きい

内容は様々、趣味、読書、飲食、スポーツ、芸能、育児、宗教、ゲーム、写真、電車、登山、車など

何でも良いが人生における楽しむポイントを人は何でも持っていて、休日や空いた時間にそれらを楽しむ事こそ人生の潤滑剤であり、人生の目的とまで言われるようだ

後輩には人生をかけて楽しむ価値があるとアイドルと握手をするために人が入れるサイズのダンボールで中身の同じCompact Discを買っていた

確かその時も


「えー!先輩CD聞かないんですか!?人生損してますよ!!」


なんて言われたはずだ、もしもあの時にそういった無駄、いや「娯楽」に手を出していれば違ったのだろうか?

この何もない生活に不満を感じたことなどなかったのだが尊敬する上司には「じゃあ定年退職した時にお前に何が残るんだ?そこに生きていく意味はあるのか?」そう言われて、何も返せなかった、言い返そうとしてもぐうの音も出なかった


私を分析してみた


毎日1時間は走る

朝はコーンフレーク、昼食は日替わりランチ、夜は適当に済ませている

身長175センチ、体重67キロ、少し腰痛がある、交通事故による左の肩鎖関節脱臼による痛みがたまにある、軽度のスギ花粉症

血液型や社会保険は趣味には関係ないだろう


それだけだ


自分が心安まる瞬間について、寝てる時?いや、そういうことではないのだろう

何かを分析しているときが一番ましな気がする

紙媒体、ネット媒体、人から、団体などから情報を吸い取って文書化し提出する

200を超える分析をし、施策を50考えたとしても採用されるのはわずかに1つだけ

この分析が楽しみであるし天職である


人と付き合うなんて苦手だ、噛み合わないし相手、他人に知性を感じないことも多い


酒に、タバコに、女性に、金に人生を楽しむものも多く聞くし身の回りにもいるがそんな気持ちは全くわからない

仕事をおろそかにはしない、が、上司に言われたようにテレビのニュースと政治以外を見るようになった


「幽霊調査・・・?」


全く聞いたことはなかった、だがそのやり方と手法に興味が湧いた

幽霊という非現実な存在を調べるのだ、それも科学的に

番組によると日本では超能力やSF、オカルトといった類いのものは研究が大々的にされていない


当たり前だ、そんなことに公費を使うなど税金を払う国民が許さないだろう


そう思ったが海外では当たり前にそういったことを研究する機関もあるらしい

心霊調査とはなんなのか

超能力を研究する機関や幽霊に語りかけて温度や湿度、会話ができるのか、撮影できるのかなど様々な条件下で調べるのだ

勿論今見ている情報が真実とは限らない

映像自体が作られたものかもしれない、幽霊が出たと言われる場所の温度センサーも故障や作られたものかもしれない

幽霊騒動の裏にはパワースポットや磁気が関係しているかもしれない

なるほど、自分ではまともと思っていても情報を受け取る側の人間自体が磁気の影響を受けて幽霊がいると錯覚する、もしくは計器が故障するがため幽霊と錯覚する


もしくは磁気の影響で片付けているだけで幽霊は存在する


もう止められなかった

初めて勉強と怪我と病気以外夜更かしをして、昼過ぎに起床してしまった

仕事を休むのに急な体調不良などという嘘を初めてついた


寝ても覚めても幽霊調査のことしか頭にない


日替わり定食の野菜炒め、これも温度センサーを当てて食堂の1人分だけ温度が下がっていたりすればそれは幽霊が影響しているのか?幽霊は生前の行動をなぞって行動する場合がある

ということは野菜炒めを食べた幽霊はここの職員だったのか?この野菜炒めが好きなのか?未練があるのか?食事は必要なのか?幽霊の家族はここにいるのか?目の前の職員は本当に生きた職員か?

勿論ここの効きすぎたエアコンが影響しているのかも・・


「最近、楽しそうだけど何かあったのか?」

「実は趣味を見つけまして」

「ほう、なんだ?」

「幽霊調査というのを知っていますでしょうか?幽霊調査というのは・・・」


初めて人に打ち明けたが止まらなかった幽霊調査とはなんなのか、海外での調査方法、最近の主流なやり方、分析方法、環境要因、人的要因、最新の機材、科学的分析など

最近は仕事終わり、金曜から日曜の間は廃墟で計測する生活をしている

時計を見るとなんと1時間は話しただろうか、昼休みいっぱい黙って聞いていた上司だったが私に最高の提案をしてきた


「なら、こういう勤め先があるんだが興味はないか?」


定年退職後などの後に他の会社の顧問になるなどはよくある話だ、そのまま民間で数年働き退職金をまたもらう、いわゆる天下りだ

まだ私はそういう年齢ではない、だが内容を見て決めた


「行きます」


そこは楽園だった

夢にまで見た高感度センサーに高感度カメラが山のように有る

大きく重く、埃を被っている、最新機器ではないだろう、使い方の分からない機器が、センサーが整頓されている

幽霊調査がメインのようだが鉛製のヘルメットらしきものがあることから超能力についても調べることができるようだ、目隠しにトランプなどその最たる例だろう

「海外で研究されているのだから日本にも」そんな建前で作られた天下り会社の一つ

前任者は1年間、ここに来てコーヒーを啜って調査を待つという名目でデスクに座り続けていたらしい、コーヒーメーカーだけやけに豪華だ

調査機材への質問は「全く分からない」の一点張りだったがコーヒーメーカーについては詳しく教えてもらった、全く覚えられる気はしないが

だいたい電話番号はあっても宣伝をほとんどしていないのだから調査を依頼しに来るものなんていない

一応給料もでるが金は問題ではない、もう老後の資金まで貯金しているし、ここで残りの仕事生活をしてもいいらしい

なんでも他の天下り先と違ってここは人気がない

そもそも社員が自分1人しかいない完璧な左遷先として使われているし、会社としての存続、つまり天下り先の存続に人が必要らしい

他の会社の資金の兼ね合いか天下り先の存続用か・・・・


馬鹿な選択だと分かっている


だけど馬鹿でいい、馬鹿がいい


人間とは馬鹿になることで幸福を得るものだ


深夜のコンビニにたむろする若者、1枚の写真を撮るために遭難するカメラマン、家中を趣味のグッズを集めるコレクター、そして幽霊調査に心酔している私


私はやっと馬鹿になれた

馬鹿で、馬鹿で幸福な人間になれた


まずはこれを運ぶだけの車を買おう、ここは階段しか無いビルの3階だ

・・・よくもこんな重い機材をこの部屋に詰め込んだな
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...