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第114話 嘆きの婦人
しおりを挟む戦争で息子が死んだ
息子は冷たい身体で戻ってきた
大柄な身体、筋骨隆々、貴族らしくはならなかったけど家族を護るために戦うんだっていってとても精力的で、それでいてとても優しい子だった
かの戦神チーテックの加護まで授かり、私の自慢だったグナイ
夫が連合軍に参戦し、軍を率いていった折にあっけなく死んでしまった
グナイは武に秀でていたが書類仕事や領を回すのは苦手そうにしていた
私も次男のグルーゴも三男のシャームも手伝い、次から次に舞い込んでくる問題を必死に対処していった
戦場に行く前に「儂が死んだらグナイが次の領主だ」とリクーマは言っていた
リクーマの無事も心配だ
「魔王軍が勇者洋介を倒せば人の世は終わる」という神々の宣言は人々に衝撃を与えた
これには魔王軍から離れて引きこもっていた国ですら支援を表明
勇者洋介の発案で国際連合軍が作られ、各国の名だたる諸侯がこれに参加、魔王軍を打ち倒さんと動いた
魔王軍の侵攻は我が領地のほんの先にまで迫ってきていた
本来であればリクーマがここに残り、グナイは国際連合軍に参加したほうが良かったのかもしれない
グナイが国際連合軍に参加して戦功を上げることができればグナイの統治は確約される、その上、諸侯への顔がきくこととなるだろう
だがグナイの加護は仲間を護るときにこそ真価を発揮する戦神の加護だ
この領地で、この領地や領民を護るのであれば確実にその加護は発揮される
連合軍ではそれが発揮できなければむしろでしゃばりとして顔を売りに来たと見られるかもしれない
リクーマであれば連合軍で領主としての名が知られている
土地に詳しい事もあって参戦する兵を無碍に扱われることはない
この先の地に配属される連合軍にはこの土地に詳しいものは少ない
もしも国際連合軍が敗走した場合に我が領地に逃げ込むだけの案内ができるのは若い頃にこの辺りで族狩りをしていたリクーマである
この地にまで逃げ込んでくれればグナイがその力を発揮できる
故にグナイが領地に残り、リクーマが国際連合軍に参戦した
リクーマを見送るときは夫を見る最後だと覚悟した、それほどに魔王軍は強大だった
だけどまさかリクーマが生き残り、グナイが死ぬとは思っていなかった
街中が魔王討伐の報を聞いて沸き立っていた
窓がピリつくほどに喜びの声が英雄への賛歌が聞こえた
私の息子は死んだ
帰ってきたリクーマはもう焼かれて灰になったグナイの墓で崩れ落ちた
それからリクーマは悲しみを忘れようとしているのか残党狩りや戦後の復旧という仕事に没頭し、私はせめてグナイの死後の幸福を祈っていた
サロンで友だちに誘われて高名な霊媒師に占ってもらっているうちに没頭した
だがその男は邪教徒と通じていたらしく私は神官様に助けられた
エマンス神官はグナイと同じチーテック教の神官であった
「グナイという長男殿が散ったのは残念に思いますが誇った方がいい、なぜなら同じチーテックの加護を受けたということは彼にも護りたいものがあるから戦ったということだ、その彼が護りたいものが悲しい顔をしていては彼も悲しむのではないか、そう私は考える」
そう言われて私は重くなった心がストンと落ちた気がした
エマンス様は同じ加護を持つものとして最後に身に着けていた武具を数週間祀りたいとおっしゃってくれた
「こ、これは・・!」
「なにか?」
「いえ、さぞグナイ殿は強い加護を持っていたんだろうな、と、戦いの名残が見て取れます」
「そう、ですか」
「責任を持って浄化し、神に祀らせていただきます」
「お願い致します」
グナイは一度、この地に訪れた聖下と共に魔物と戦った
「聖下は息子よりも華奢で、その幼い身を顧みることなく戦ってくださった」
そう苦しげに言っていた
「道で倒れてる浮民ですら治そうとしていてあれこそが聖人なのでしょう」
だから聖下の温情にすがった、聖下にも出来ないことかもしれないと知った上でだった
聖下に出来なくても神にならできるかもしれない
神々は時に奇跡を起こしてきたと言われる
神の怒りで国ごと焼き払われた、空に大地が舞った、死者が蘇った、空から山より大きな剣が落ちてきたなど
物語でしかわからないもの、忘れ去られたもの、見えるもの、虚実もわからないものが伝承に残っているものもある
だけど私はたしかに山よりも大きな剣を見たことがある
夫には怒られたけど、これが息子にできる最後だったと思えば・・・
私に会うものは身元が調べ直され、ちゃんと神から恩寵を賜った占い師や貴族の婦人方とサロンを開く
「閣下!魔物が現れました!!」
「どこだ?」
「ここです!エマンス神官を名乗っていた魔族によって聖下の婚約者様が拐われようとしております!!!」
眼の前が真っ暗になった気がした
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