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第110話 懇願
しおりを挟む神殿で寝てると領主の妻と名乗る人が僕に会いに来たって知らせが来た
昼間まで寝るつもりだったのに起こされてちょっと気分が悪い
でも領主ってのは相手をしないと面倒なことにもなるかもしれないし起きて謁見する部屋に向かう
辺境の地方領主と僕なら僕のほうが立場は上だ
奥さんは一体何の用があるんだろう?それも約束もなしなんて無礼なことまでして
用意された部屋に行くと偉そうな人が座りそうな椅子に座るようにいわれたので座って待つ
左右に神殿長や大神官が横に並び、その前に神殿騎士達が武装してならんだ
神殿長達の後ろには神官たちがずらりとならんでくれている
戦時中だったら勇者って立場の僕はどこの国に行っても従者を連れていたし好き勝手に出来た
だけど、今はそうじゃない
用件がお礼や挨拶ならばいいのだがその土地の領主には神殿への影響力がある
最悪の場合、彼らが神殿を退けというのなら神殿は引き払わなければならない
もちろん抵抗するし、何なら戦争することもある
リクーマ様は現領主であるが血筋としては婿養子、この地の正当な継承者は正妻であるアリージュ様の方だ
そう聞かされた
領主という立場ではなくともこの地で最大の権力者の1人であることにかわりはない
息子を亡くして不安定になっているらしいが先触れ無しで出向いてくるの「こちらの事情なんて気にしない」ともとれる
とても失礼だ、何を言ってくるかな
現れたアリージュさんは白髪も多いおばあちゃんで喪服を着ていた
「聖下、御尊顔を拝謁できて嬉しい限りでございます」
「何のよう?」
しまった、直接言ってしまった
会話は横の人にいうように言われてたのに
直接話すのを許す形になってしまった
こういう儀礼は苦手なんだ、ちょっとため息をついてる神殿長、ごめんね
「息子のことです」
「グナイ殿のことかな?」
「はい!愛と慈悲たるレアナー教には死者を復活させる秘術があると聞き及んでおります、我が息子にそれを行っていただくことを御願いに上がりました」
そんな術があったら僕もすぐに使いたかったよ
旅の途中、次々に死んでいく仲間達
僕の力が足りず、僕の胸の中で、何人も温かいままなのに死んでいった
仲間じゃなくても、僕はどんな人でも助けたかった
道で倒れてる人、川で浮かんでる人、半分燃えて無くなってる人
救える命よりも救えない命のほうが多かった
「婦人、それは不可能です」
「聖下!謝礼ならいくらでも御払いします!ですから!どうか!どうか!!」
神殿長が前に出てくれたがそれでも僕に伝えにきた
前にもこんな事があった、親が子供の亡骸をみせてどうにかしてくれ、助けてくれと
何度もあったことだ
責められるなんていつものことだ
「【ごめんね、僕の力が足りずに】」
ちょっと魔力が漏れてしまった
婦人や大神官に神官、神殿騎士たちの一部も立てずに尻餅をついてしまっている
盾がカラカラと転がる音が聞こえて申し訳なく思う
「聖下、抑えてください」
「【ごめん、ちょっと旅のことを思い出してさ」
「す、すいません、聖下のお気持ちを伺い知れず、このアリージュ、大変な失礼を働いてしまいました、し、しかし!聖下は神々と魔王討伐の報酬を約束されたはずです!それを、我が息子に使ってほしいのです!!御願いです!御願いです!!!」
頭を下げてきたアリージュに僕は・・
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