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#198 クリスマスにはケーキも食べたい
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「何だかとってもいい匂いが」
「おや、グレースさん」
昼下がり。
シュージが厨房で作業していると、グレースがやって来た。
「とても甘くていい匂いがしたのでつい来ちゃいました」
「はは、そうですか。 ちょうどケーキの生地を焼いていたので、多分その匂いですね」
グレースの言う甘い匂いというのは、先程焼き上がったケーキ生地のもので、確かに中々良い匂いを食堂に漂わせていた。
「あら、今日はケーキが食べれるんですか?」
「昨日は僕の故郷にあったイベントの料理を食べましたけど、実はその時にケーキも出てくるものなんです」
「そうなんですね?」
「ただ、昨日はローストチキンの準備に時間が取られてしまって作れなかったので、代わりに今日作ろうかと」
本来は昨日作ろうかと思っていたクリスマスケーキだが、想像以上に昨日使ったコッコ肉が大きくて、調理に時間が取られた事であっという間に時間が過ぎてしまい、断念したのだ。
まぁ、シュージの感覚的には今日も今日でクリスマスだと思うので、問題はないだろう。
「それはとっても楽しみですね」
「グレースさんは年末の過ごし方はもう決めているんですか?」
今作っているケーキに使ういちごを切ったりしつつ、シュージはグレースにそう尋ねた。
「私はギルドで年を越しますよ」
「おや、そうなのですね。 帰省とかはされないんですか?」
「あぁ~…… 実を言うと、実家とちょっと折り合いが悪いと言いますか……」
そう言うグレースの表情は、嫌悪感とまではいかないが、ちょっと困っているような、そんな表情だった。
「おや、そうとは知らずにすみません」
「ああいえ、気を遣わなくとも、別に仲が悪いとかそういうわけじゃないんですよ?」
「ふむ?」
「私は教国のそれなりに良い家に生まれました。 我ながらとても大事に育てられたんですけど、10代の頃に他家との縁談が持ち上がりまして、少し歳上の方と婚約したんです」
「政略結婚というものですかね?」
「そうですね。 私も良家に生まれた以上、その責を全うしようと思っていて、婚約者の方ともそれなりに仲良くやっていました。 ただ、ある日、お相手の家の汚職が発覚したんです」
「それはよろしくないですね」
「幸いと言っていいかは分かりませんが、私の婚約者の方は無関係でした。 ただ、縁談自体は白紙になり、私は出戻る形で実家に戻りました。 そうなると、もう他の方とは結婚は望めないので、私は冒険者になって今に至るという形ですね」
「貴族とか良家の結婚ともなると、やはり一度婚約した相手がいた方は……」
「そうですね。 やはり外聞が悪いので」
「世知辛いですねぇ……」
「そういうこともあって、私の父と母は私に対して凄く負い目があるようで…… 実家に帰ると凄く腫れ物を扱うかのように優しくしてくれるんですけど、それがちょっと居た堪れないというか……」
「確かに、グレースさんの親御さんからすると、責任を感じてしまってもおかしくはないですよね」
「あまり気にし過ぎないで欲しいんですけどね。 私は今、とても楽しく日々を過ごせてますから。 ……って、ちゃんと言った方がいいんでしょうけど」
「いつかちゃんと伝えられるといいですね」
「そうですね。 あ、その時にはシュージさんが作ったお菓子とかをお土産に持っていくのもいいかもしれません」
「そういう事なら喜んで力を貸しますよ」
「ふふ、よろしくお願いします。 何だかシュージさんと話してると、暖かい気持ちになるというか、勇気が貰えます」
「はは、それは良かったです。 何かお困りの事とかあれば、何でもおっしゃってください」
「あ、グレース」
「あら、ネルちゃん、どうしました?」
「ちょっと買い物付き合って欲しい」
「分かりました。 では、行ってきますね、シュージさん」
「行ってらっしゃいませ。 外は寒いのでお気をつけて」
*
それから少し時が経ち、晩ご飯の時間。
既にメインの料理は食べ終え、シュージが冷蔵庫にしまっておいたケーキを皆んなの前にお披露目した。
ちなみに、今日のメインの料理はビーフシチューで、ゴロゴロとした肉が沢山入っており大変美味しい一皿だった。
「わぁ、いっぱいありますね?」
「興が乗ったので、何種類か作ってみました」
今回用意したケーキは、シンプルないちごのショートケーキと、スッキリした甘さのチーズケーキ、そして、チョコクリームがたっぷりと塗られたブッシュドノエルだ。
「何だか木の丸太みたいな見た目ですね?」
「正しくそうですね。 ロールケーキにチョコクリームを塗ったような形になります」
早速用意したケーキを切り分けていき、好きなものを取っていってもらった。
男性陣はそこまで甘味の強くないチーズケーキを主に選び、女性陣は各種類少し小さめに切り分けて、なんとか全種類食べようと皆で分け合っていた。
「あぁっ♡ とっても美味しいですね♡」
「美味しく作れて良かったです」
「やっぱりシュージさんの作るケーキは至高です♡」
「来年はもっと多くの方にこういう甘味も広まるといいですね」
明らかにこの世界の食事事情は改善されているものの、まだこういった手の込んだ甘味は貴族ぐらいしか食べる事が出来ていないのが現状だ。
それでも、簡単に作れるクッキーや飴菓子などは商会でも少しずつ取り扱われるようになってきたので、来年はもっと甘味も手に入りやすくなればいいなとひっそり思うシュージなのであった。
※※※
最近少しバタついてて、あんまり読み直しが出来てないです。
もし誤字とかがありましたら、遠慮なく教えてください。
「おや、グレースさん」
昼下がり。
シュージが厨房で作業していると、グレースがやって来た。
「とても甘くていい匂いがしたのでつい来ちゃいました」
「はは、そうですか。 ちょうどケーキの生地を焼いていたので、多分その匂いですね」
グレースの言う甘い匂いというのは、先程焼き上がったケーキ生地のもので、確かに中々良い匂いを食堂に漂わせていた。
「あら、今日はケーキが食べれるんですか?」
「昨日は僕の故郷にあったイベントの料理を食べましたけど、実はその時にケーキも出てくるものなんです」
「そうなんですね?」
「ただ、昨日はローストチキンの準備に時間が取られてしまって作れなかったので、代わりに今日作ろうかと」
本来は昨日作ろうかと思っていたクリスマスケーキだが、想像以上に昨日使ったコッコ肉が大きくて、調理に時間が取られた事であっという間に時間が過ぎてしまい、断念したのだ。
まぁ、シュージの感覚的には今日も今日でクリスマスだと思うので、問題はないだろう。
「それはとっても楽しみですね」
「グレースさんは年末の過ごし方はもう決めているんですか?」
今作っているケーキに使ういちごを切ったりしつつ、シュージはグレースにそう尋ねた。
「私はギルドで年を越しますよ」
「おや、そうなのですね。 帰省とかはされないんですか?」
「あぁ~…… 実を言うと、実家とちょっと折り合いが悪いと言いますか……」
そう言うグレースの表情は、嫌悪感とまではいかないが、ちょっと困っているような、そんな表情だった。
「おや、そうとは知らずにすみません」
「ああいえ、気を遣わなくとも、別に仲が悪いとかそういうわけじゃないんですよ?」
「ふむ?」
「私は教国のそれなりに良い家に生まれました。 我ながらとても大事に育てられたんですけど、10代の頃に他家との縁談が持ち上がりまして、少し歳上の方と婚約したんです」
「政略結婚というものですかね?」
「そうですね。 私も良家に生まれた以上、その責を全うしようと思っていて、婚約者の方ともそれなりに仲良くやっていました。 ただ、ある日、お相手の家の汚職が発覚したんです」
「それはよろしくないですね」
「幸いと言っていいかは分かりませんが、私の婚約者の方は無関係でした。 ただ、縁談自体は白紙になり、私は出戻る形で実家に戻りました。 そうなると、もう他の方とは結婚は望めないので、私は冒険者になって今に至るという形ですね」
「貴族とか良家の結婚ともなると、やはり一度婚約した相手がいた方は……」
「そうですね。 やはり外聞が悪いので」
「世知辛いですねぇ……」
「そういうこともあって、私の父と母は私に対して凄く負い目があるようで…… 実家に帰ると凄く腫れ物を扱うかのように優しくしてくれるんですけど、それがちょっと居た堪れないというか……」
「確かに、グレースさんの親御さんからすると、責任を感じてしまってもおかしくはないですよね」
「あまり気にし過ぎないで欲しいんですけどね。 私は今、とても楽しく日々を過ごせてますから。 ……って、ちゃんと言った方がいいんでしょうけど」
「いつかちゃんと伝えられるといいですね」
「そうですね。 あ、その時にはシュージさんが作ったお菓子とかをお土産に持っていくのもいいかもしれません」
「そういう事なら喜んで力を貸しますよ」
「ふふ、よろしくお願いします。 何だかシュージさんと話してると、暖かい気持ちになるというか、勇気が貰えます」
「はは、それは良かったです。 何かお困りの事とかあれば、何でもおっしゃってください」
「あ、グレース」
「あら、ネルちゃん、どうしました?」
「ちょっと買い物付き合って欲しい」
「分かりました。 では、行ってきますね、シュージさん」
「行ってらっしゃいませ。 外は寒いのでお気をつけて」
*
それから少し時が経ち、晩ご飯の時間。
既にメインの料理は食べ終え、シュージが冷蔵庫にしまっておいたケーキを皆んなの前にお披露目した。
ちなみに、今日のメインの料理はビーフシチューで、ゴロゴロとした肉が沢山入っており大変美味しい一皿だった。
「わぁ、いっぱいありますね?」
「興が乗ったので、何種類か作ってみました」
今回用意したケーキは、シンプルないちごのショートケーキと、スッキリした甘さのチーズケーキ、そして、チョコクリームがたっぷりと塗られたブッシュドノエルだ。
「何だか木の丸太みたいな見た目ですね?」
「正しくそうですね。 ロールケーキにチョコクリームを塗ったような形になります」
早速用意したケーキを切り分けていき、好きなものを取っていってもらった。
男性陣はそこまで甘味の強くないチーズケーキを主に選び、女性陣は各種類少し小さめに切り分けて、なんとか全種類食べようと皆で分け合っていた。
「あぁっ♡ とっても美味しいですね♡」
「美味しく作れて良かったです」
「やっぱりシュージさんの作るケーキは至高です♡」
「来年はもっと多くの方にこういう甘味も広まるといいですね」
明らかにこの世界の食事事情は改善されているものの、まだこういった手の込んだ甘味は貴族ぐらいしか食べる事が出来ていないのが現状だ。
それでも、簡単に作れるクッキーや飴菓子などは商会でも少しずつ取り扱われるようになってきたので、来年はもっと甘味も手に入りやすくなればいいなとひっそり思うシュージなのであった。
※※※
最近少しバタついてて、あんまり読み直しが出来てないです。
もし誤字とかがありましたら、遠慮なく教えてください。
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