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#178 ミドリとお買い物
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「ここがこの街の市場ですね」
「わぁ、活気がすごいですね」
今日はミドリと一緒に、普段シュージが利用してる市場を訪れていた。
何でも、シュージの食材の目利きについてなどを学びたいそうだ。
なので、シュージはいつも通り野菜や肉などをいくつかのお店を回りながら買っていく。
「シュージさんは食材を買う時に何を見ていますか?」
「うーん、食材にもよりますけど、例えば野菜だったら色とか重さですね。 色は見るだけでその野菜が新しいか古いかすぐ分かります。 ですが、中には色や大きさが立派なものでも、中身が伴ってないみたいなものもあるので、実際に手に取って確認するようにしてますね」
「なるほど……」
「ですから、そもそも触らせてくれない所はあまり信用してないですね。 もちろん、盗難防止とか汚れが付くからという理由も分かるので、触る時は手袋をして触らせてもらってます」
「配慮がすごいですね?」
「お店側もお客側も気分良く買って買われるのが一番ですからね。 特に行きつけのお店の方と仲良くなるというのは、買い物においてかなりプラスに働いたりしますし」
その言葉を裏付けるように、シュージが立ち寄るお店では、店員とシュージがとても仲良さげに話しており、いくつかのお店ではおまけや規格外で捨ててしまう食材を貰っていたりした。
「なるほど…… 今までお店の人とは事務的な会話しかしなかったですけど、今のを見てるとお店の人と仲良くなるのって凄く大事ですね」
「そうですねぇ。 こういう人の輪というのは時に思いがけない助けになってくれたりもしますし」
「勉強になります」
その後もシュージはいくつかのお店で買い物をし、市場の後には商業ギルドにも立ち寄った。
「おや、シュージさん。 ご無沙汰してます」
「ああ、ラヌンさん。 おはようございます。 ミドリさん、この方はここの商業ギルド長のラヌンさんです」
シュージ達が商業ギルドに入ろうとすると、入り口からちょうど出てきたラヌンと鉢合わせた。
「あっ、初めまして。 沿海州の冒険者ギルド、潮騒の花で料理番をしているミドリといいます」
「ご丁寧にありがとうございます。 沿海州の方なのですね」
「はい、そうです」
「そういえば、シュージさんのレシピの中で、海鮮系の料理を作りたいけど、中々手に入らないという声が結構寄せられてるんですよね」
「確かに、この町では中々手に入りませんねぇ」
「それもあって、輸送に転移門を使うという話がかなり現実味を帯びてきているんですよ。 転移門は制作や設置にコストがかなりかかりますし、軍事的な面でも問題があったりするのですが、近頃の各国の食事文化の発展に伴って、どの国も食材の輸送問題が付いてまわってるようなので、転移門を使えればその辺の問題が一気に解決しますしね」
「確かに、遠い場所からでも一瞬で輸送できれば、かなり便利でしょうね」
「ですが、転移門は便利な反面、どうしてもやろうと思えば兵士を一瞬で送り込んで侵攻、なんて事もできてしまいますから、設置に色々と問題が付きまとうんですがね」
「難しいですねぇ」
「そういう問題の解決策も色々と相談中です。 ……おっと、シュージさんと話していると、つい話が弾んでしまいますね。 これから会談がありますので、私はこれで」
「おや、そうなんですね。 お気をつけて」
そう言って、ラヌンはその場を後にした。
「シュージさん、あんな偉い方とも繋がりあるんですね」
「ラヌンさんとの出会いも、人との縁が繋いだ新たな縁ですよ」
その後、商業ギルドでは、沿海州では中々見ない食材が多かったようで、ミドリがお土産に色々と買ったり、シュージとあーでもないこーでもないと言い合いながら楽しい時間を過ごしていった。
「結構長居してしまいましたねぇ」
「そうですね」
「それにしても、ミドリさんはとても頑張ってて凄いですね」
「突然ですね? ありがとうございます」
「いつも真面目に料理の勉強や実践をされてますからね。 何か目標のようなものがあるんですか?」
「目標とは別かもしれないですが、母に楽をさせたくて」
「ふむ?」
「僕の母は体があまり強くなくて、沿海州の街の雑貨屋のお手伝いをしているんですけど、お世辞にもあまり稼ぎは良くなくて、もっと稼ぎたくても毎日働けるような体じゃないので、小さい頃から毎日のように謝られてました。 満足いく生活がさせられなくてごめんなさいって」
「そうなんですねぇ……」
「父は冒険者だったんですけど、僕が物心つく前に依頼先で亡くなってしまったらしくて、その父が所属していたのが潮騒の花だったんです。 その伝手で僕は潮騒の花に入らせてもらって今に至ります」
「かなり苦労されてるんですね」
「そうですね。 最近までは料理をお金稼ぐ手段くらいにしか思ってなかったです。 でも、シュージさんと出会って、その料理に感動させられて、料理というのはこんなにも人の心を動かせるものなんだって知ってからは、料理に対するモチベーションが凄いんです」
「それは僕としても嬉しいですねぇ」
「この前、母にシュージさんに教えてもらった料理を出したら、それはもう泣きながら喜んでくれて。 それも今頑張れてる原動力になってます」
「自分の料理を誰かに喜んでもらえるのは料理人冥利につきますよね」
「はい。 だから、もっともっと色んな料理を作れるようになって、母の事や父がいた潮騒の花のメンバー達を喜ばせたいです」
「素晴らしい心意気だと思います。 僕で良ければいくらでも教えれる事は教えますので、何だって聞いてください」
「ありがとうございます。 頼りにさせてもらいますね」
そんなミドリの話を聞いて、改めてシュージも料理を頑張ろうと思わされるのであった。
「わぁ、活気がすごいですね」
今日はミドリと一緒に、普段シュージが利用してる市場を訪れていた。
何でも、シュージの食材の目利きについてなどを学びたいそうだ。
なので、シュージはいつも通り野菜や肉などをいくつかのお店を回りながら買っていく。
「シュージさんは食材を買う時に何を見ていますか?」
「うーん、食材にもよりますけど、例えば野菜だったら色とか重さですね。 色は見るだけでその野菜が新しいか古いかすぐ分かります。 ですが、中には色や大きさが立派なものでも、中身が伴ってないみたいなものもあるので、実際に手に取って確認するようにしてますね」
「なるほど……」
「ですから、そもそも触らせてくれない所はあまり信用してないですね。 もちろん、盗難防止とか汚れが付くからという理由も分かるので、触る時は手袋をして触らせてもらってます」
「配慮がすごいですね?」
「お店側もお客側も気分良く買って買われるのが一番ですからね。 特に行きつけのお店の方と仲良くなるというのは、買い物においてかなりプラスに働いたりしますし」
その言葉を裏付けるように、シュージが立ち寄るお店では、店員とシュージがとても仲良さげに話しており、いくつかのお店ではおまけや規格外で捨ててしまう食材を貰っていたりした。
「なるほど…… 今までお店の人とは事務的な会話しかしなかったですけど、今のを見てるとお店の人と仲良くなるのって凄く大事ですね」
「そうですねぇ。 こういう人の輪というのは時に思いがけない助けになってくれたりもしますし」
「勉強になります」
その後もシュージはいくつかのお店で買い物をし、市場の後には商業ギルドにも立ち寄った。
「おや、シュージさん。 ご無沙汰してます」
「ああ、ラヌンさん。 おはようございます。 ミドリさん、この方はここの商業ギルド長のラヌンさんです」
シュージ達が商業ギルドに入ろうとすると、入り口からちょうど出てきたラヌンと鉢合わせた。
「あっ、初めまして。 沿海州の冒険者ギルド、潮騒の花で料理番をしているミドリといいます」
「ご丁寧にありがとうございます。 沿海州の方なのですね」
「はい、そうです」
「そういえば、シュージさんのレシピの中で、海鮮系の料理を作りたいけど、中々手に入らないという声が結構寄せられてるんですよね」
「確かに、この町では中々手に入りませんねぇ」
「それもあって、輸送に転移門を使うという話がかなり現実味を帯びてきているんですよ。 転移門は制作や設置にコストがかなりかかりますし、軍事的な面でも問題があったりするのですが、近頃の各国の食事文化の発展に伴って、どの国も食材の輸送問題が付いてまわってるようなので、転移門を使えればその辺の問題が一気に解決しますしね」
「確かに、遠い場所からでも一瞬で輸送できれば、かなり便利でしょうね」
「ですが、転移門は便利な反面、どうしてもやろうと思えば兵士を一瞬で送り込んで侵攻、なんて事もできてしまいますから、設置に色々と問題が付きまとうんですがね」
「難しいですねぇ」
「そういう問題の解決策も色々と相談中です。 ……おっと、シュージさんと話していると、つい話が弾んでしまいますね。 これから会談がありますので、私はこれで」
「おや、そうなんですね。 お気をつけて」
そう言って、ラヌンはその場を後にした。
「シュージさん、あんな偉い方とも繋がりあるんですね」
「ラヌンさんとの出会いも、人との縁が繋いだ新たな縁ですよ」
その後、商業ギルドでは、沿海州では中々見ない食材が多かったようで、ミドリがお土産に色々と買ったり、シュージとあーでもないこーでもないと言い合いながら楽しい時間を過ごしていった。
「結構長居してしまいましたねぇ」
「そうですね」
「それにしても、ミドリさんはとても頑張ってて凄いですね」
「突然ですね? ありがとうございます」
「いつも真面目に料理の勉強や実践をされてますからね。 何か目標のようなものがあるんですか?」
「目標とは別かもしれないですが、母に楽をさせたくて」
「ふむ?」
「僕の母は体があまり強くなくて、沿海州の街の雑貨屋のお手伝いをしているんですけど、お世辞にもあまり稼ぎは良くなくて、もっと稼ぎたくても毎日働けるような体じゃないので、小さい頃から毎日のように謝られてました。 満足いく生活がさせられなくてごめんなさいって」
「そうなんですねぇ……」
「父は冒険者だったんですけど、僕が物心つく前に依頼先で亡くなってしまったらしくて、その父が所属していたのが潮騒の花だったんです。 その伝手で僕は潮騒の花に入らせてもらって今に至ります」
「かなり苦労されてるんですね」
「そうですね。 最近までは料理をお金稼ぐ手段くらいにしか思ってなかったです。 でも、シュージさんと出会って、その料理に感動させられて、料理というのはこんなにも人の心を動かせるものなんだって知ってからは、料理に対するモチベーションが凄いんです」
「それは僕としても嬉しいですねぇ」
「この前、母にシュージさんに教えてもらった料理を出したら、それはもう泣きながら喜んでくれて。 それも今頑張れてる原動力になってます」
「自分の料理を誰かに喜んでもらえるのは料理人冥利につきますよね」
「はい。 だから、もっともっと色んな料理を作れるようになって、母の事や父がいた潮騒の花のメンバー達を喜ばせたいです」
「素晴らしい心意気だと思います。 僕で良ければいくらでも教えれる事は教えますので、何だって聞いてください」
「ありがとうございます。 頼りにさせてもらいますね」
そんなミドリの話を聞いて、改めてシュージも料理を頑張ろうと思わされるのであった。
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