上 下
168 / 207

#168 不思議な出会い

しおりを挟む
「いやー、結構掘り出し物がありましたね」

「そうだね。 思ったより賑わっていたよ」
 

 獣人国に来て2日目の夜。

 今シュージ達がいる王都の城下町には夜市という夜限定の市場があり、そこでは昼間売り出されていたものが安くなっていたり、逆に夜しか出てない店もあるという事で、ゾラと一緒に少し見て回っていた。

 
 ――――っ。


「うん?」

「シュージ、どうかしたかい?」

「今、何か聞こえませんでしたか?」

「いや、私には何も。 ナイル、ミニャ、何か聞こえたかい?」

「ガァ?」

「にゃ~?」

 
 そんな夜市での買い物も済ませた帰り道。

 シュージは何かに呼ばれたような気がして辺りを見渡したが、辺りは夜市の喧騒が響くのみだった。
 

「気のせいですかね……?」

 ――――っ!

「……! いや、やっぱり聞こえました。 今度は先程よりはっきりと」

「うーん、どうやらシュージだけにしか聞こえてないみたいだね」

「何となく、あっちから呼ばれた気がします。 ゾラさん、行ってみてもいいですか?」

「うん、分かった。 ナイル、一応空から辺りの警戒を。 ミニャはすぐ魔法使えるように準備して」

「ガァ」

「にゃっ!」


 それからシュージはゾラと共に、呼ばれた方へと足を進めていった。

 そして辿り着いたのは、大通りを外れ、住宅街も抜けた王都の端の方。

 夜だからか人気も全くないその場所は、少しひらけた公園のようになっていて、その真ん中に立派な狼のような動物の像が建てられていた。


「この辺りな気がするんですけど……」

「何もないね?」

「にゃ? にゃにゃっ」

「うん? どうしたんだいミニャ?」

「にゃー」


 すると、ミニャが突然走り出し、狼の像の後ろ側に向かった。

 それをシュージとゾラも追いかけていく。
 

「にゃ!」

「えっと…… おや?」


 するとそこには、全体的に白い体毛で、所々の毛先が淡い水色を帯びている、とても綺麗な小型犬サイズの狼が丸くなって眠っていた。


「この子は……?」

「ホワイトウルフ? いや、ちょっと違うな…… 見た感じ、誰かの従魔とかではなさそうだけど」

「……? わふ?」

「あ、目を覚ましましたよ」


 その仔狼は目を覚ますと、ひょこっと立ち上がり、真っ直ぐシュージの方に歩いてきた。


「はっはっはっ」

「おや?」

「何だかシュージに懐いてるね?」


 そのまま仔狼はシュージの足にスリスリと頭や体を擦り付けてきて、撫でて欲しそうに頭を差し出してきた。

 なのでシュージはそれに応え、仔狼の頭を優しく撫でてあげた。


「くぅん」

「可愛いですねぇ。 ゾラさん、この子どうしましょう?」

「うーん、誰かに飼われてる訳でも無さそうなんだよね。 ただ、魔物ともまた違う雰囲気を感じる…… シュージに懐いてるみたいだし、放置するのも可哀想だから、ひとまず連れて帰って保護しようか。 明日にでも衛兵の詰所とかに行って、この子を探してる人がいないか確認しよう」

「分かりました…… おっと!」

「わふっ!」


 そんな話をゾラとしていたら、ぴょーんと仔狼がジャンプしてシュージの体をよじよじ登ると、ポスっと頭の上に乗っかってきた。


「わふー」

「はは、そこがいいのか?」

「わふ!」

「ふふ、では一度帰ろうか」


 とても小さく軽い子なので、そのままの状態でシュージはゾラと共に宿へと帰っていった。



 *



「ただいま戻りましたー」

「おかえり、シュージ…… って、どういう状況、それ?」

「なんか乗ってる!」

「か、可愛いですっ」


 一応正体不明の狼ということで、人目につかないよう宿に戻ると、見習い組の3人が出迎えてくれた。


「ちょっと不思議な出会いをしましてね。 何故だかすごく懐かれたので、ひとまず連れて帰ってきました。 明日、衛兵の詰所で飼い主がいないか聞いてみるつもりです」

「お、シュージ…… って、な、なんだそいつ……?」

「おや、ガルさん」

「シュージ、その頭に乗ってるのは……?」

「さっき出会った仔狼ですね。 ゾラさん曰く、魔物とはちょっと違うそうですが」

「な、なんかそいつから、すげーオーラ感じる……!」

「えっ、そうなんですか?」

「よく分かんねぇけど、逆らえないような気がするっつーか…… 王様に出会ったみてーな感じがする……」

「ふむ? リック達はどうです?」

「いや、普通の狼の子供じゃね?」

「オイラもそう見えるかな?」

「とっても可愛いですっ」

「なんの騒ぎだ?」


 エントランスでわいわい仔狼について話していると、他のメンバーもやって来た。


「えっ、なにその子……?」

「な、なんか凄い存在感ー……!」


 すると、シャロとピュイもガルと同じように、仔狼から何か大きな存在感のようなものを感じ取ったようで、仔狼からちょっと距離を取っていく。


「お前、普通の狼の子供じゃないのかい?」

「わふ?」

「ジル、君は何かこの子について知ってるかい?」

「いや、分からんな。 そもそも、魔物や動物に詳しいゾラが分からないなら、うちのギルドでこいつの事が分かるかもしれないのは、イザベラぐらいだろう」

「それもそうだね」
 

 その後、ホテルの獣人の従業員さんを何人か呼んで、仔狼の事を見せてみたのだが、その人達も仔狼に驚き、ちょっと傅くような素振りを見せた人もいた。


「獣人さんに何か縁があるんですかね?」

「そのようだね。 うーん、この様子だと、普通に街には出れないかな。 騒ぎになっちゃいそうだ」

「誰かに飼われたりもしてないんじゃないか?」

「そ、そいつ飼うとか絶対無理だろ……」

「むしろ私達が飼われる側な気までしてくる……」


 それから色々検証したり、ホテルの支配人だという結構年配の物知りな獣人の人にも聞いてみたのだが、結局仔狼の正体は分からなかった。

 ただ、とりあえず直接見なければ獣人組の近くにいても大丈夫なようなので、一旦シュージの部屋で様子を見る事にした。

 それからホテルの食事を手早く食べて部屋に戻ったシュージは、一応仔狼の手足を濡れタオルで綺麗にし、その流れでシュージの収納袋から食べ物を色々出してみて与えてみたが、特に手作りのビーフジャーキーが気に入ったようで、嬉しそうにガジガジと齧っていた。


「わふ……」

「お、眠そうですねぇ。  僕もひとまず今日は寝ましょうか」


 腹を満たして眠くなった様子の仔狼を見て、シュージも寝ようかなと布団に入ると、モゾモゾとその仔狼もベッドに潜り込んできて、あっという間にシュージの横で眠りについていった。

 そんな仔狼のもふもふとした感触と温かさを感じながら、シュージも眠りにつくのであった。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?

中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。 殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。 入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。 そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが…… ※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です ※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)

処理中です...