上 下
161 / 164

#161 セネルブルグ家での昼食

しおりを挟む
 セネルブルグ家にやって来たシュージは、色々とここ最近あった事などをセルゲイ、ミリア、シュミットの3人に話し聞かせていた。


「やっぱりええのう、冒険者は。 色んな場所を見て回って、色んな経験ができて」

「早くなれるといいわね」

「む? いや、母上、まだなると決まった訳じゃ……」

「シュミットはもう心の底ではかなり冒険者になりたいと思っているだろう?」

「父上も…… まぁ、否定はせんが…… まだ見ぬ弟が領主を継ぎたがるかも分からんし……」

「心配しなくとも、私だって貴族の領主にしてはまだかなり若い方だ。 あと2、30年は実務を行うだろう。 だから、若いうちは好きな事をやりなさい」

「シュミットの事だし、ただ冒険者をやりたいというわけでもないでしょう?」

「そうじゃな。 妾は冒険者として色んな経験を積みたい。 他の領や国に依頼を受けて行きつつ、文化や政治を学んだり、人と交流したりして、セネルブルグ家にその知識を還元したい」

「全く、我が娘ながらその崇高な考えには恐れ入るよ」

「そんなシュミットだから、私達も何も心配せずに応援できるわ」

「父上、母上……」

「来年からの学園を卒業したら、貴族としても一人前だ。 好きにやっていいよ」

「ほう、学園なんてものがあるんですね?」

「ああ、貴族の子供は13歳から15歳まで王都の学園で過ごすんだ。 そこで貴族としての教養を身につけつつ、各々の目指す道の勉強も行う」

「妾の場合は魔法や剣じゃの。 それに、貴族の子の中にはそれなりに冒険者を目指す者がいるから、冒険者について学ぶ教科もある」

「中々良い環境なんですね。 通うのは貴族の方だけですか?」

「貴族学園じゃからそうじゃな」

「平民の方のための学校とかはないんですねぇ。 僕の故郷では子供は全員学校に通ってたのですが」

「平民の為の学校か…… 確かに、平民は簡単な読み書きと算術を学ぶのが精一杯だから、そういう者達のためにも学ぶ場があれば、優秀な人材をもっと発掘できるかもしれないね」

「じゃが、これ以上王都に学校を建てるのは、敷地の問題を考えても中々難しいと思うぞ」

「うーん、そこは別に王都じゃなくてもいいかもしれませんよ? どこかの土地に大きな学校を建てて、寮制とかにすれば平民でも通えるでしょうし、その学校を中心にした学園都市なんかも作れるかもしれません」

「確かに、我が国の領地は開拓されていない土地も多くある。 そこに新たな街が生まれれば、物流も良くなるし、何よりそこにある学園で優秀な人材も育てられる…… 面白いかもしれないね」

「そういえば、シュージ様は孤児救済のために多額の寄付をしたりしているんですよね?」

「そうですね。 やはり、これからの未来を担うのは子供達ですから、そんな子供達が路頭に迷ったりしてしまわないよう、少しでもお手伝いができたらなって」

「素晴らしい考えですわ」

「だから、貴族学園のように3年とまでは言いませんけど、1年ぐらいだけでも自分が目指したい夢への勉強ができる場所があれば、子供達がそれぞれ夢を追える環境になるかなって。 まぁ、口で言うのは簡単ですが」

「いや、とても良い考えだと思うよ。 シュージ君は王家の方々とも親交が深いから、会う機会があったら話してみるといいんじゃないかな? やはり、我々貴族の目線からすると、シュージ君のような考えは出て来づらいからね」

「そうですね。 提案するだけしてみようかと思います」


 そんな感じの話もしつつ、その後もシュージはセルゲイ達との雑談を楽しむのであった。



 *

 

「あ、お久しぶりです、ムグラさん」

「おお、久しぶりだな、シュージ殿」


 シュージは現在、セネルブルグ家の料理長であるムグラがいる厨房にやって来ていた。


「話は聞いてる。 昼食を一食作るんだってな」

「はい、そういうお話になりまして」


 先程セルゲイ達と話していた時に、折角ならシュージの料理が食べたいという話になったので、こうして作りに来た次第だ。


「あまり待たせるのも申し訳ありませんし、手早く作れるものにしようかと」

「分かった。 何か手伝える事があれば言ってくれ」

「ありがとうございます。 では、僕はメインを作りますので、サラダをお願いします」


 今回はこの家の料理人達に、サラダ作りの手順を説明して作ってもらい、シュージはメインを作ることになった。

 という事で、まずシュージは玉ねぎを一口サイズに切り、ニンニクをみじん切り、ナスを輪切りするところから始めた。

 切り終えたら、フライパンにオリーブオイルを注ぎ、ニンニクを炒めて香りを移したら、玉ねぎをしんなりするまで炒めていく。

 それが済んだらナスも入れ、こちらも火が通るくらいまで炒める。


「おや、シュージ殿、それは?」

「これは鯖の水煮ですね」


 そして、野菜があらかた炒められたら、沿海州で買ってきた鯖の水煮と白ワイン、カットしたトマト、味噌を入れ、蓋をして弱火と中火の間くらいの火加減で10分近く煮ていく。


「やはりシュージ殿は手際が素晴らしいな」

「それを言うならムグラさん達も、以前に比べると迷いがないですね」

「貴殿のレシピを沢山見て作ってきたからな。 流石にある程度慣れてきたよ」


 以前は調味料や食材を沢山使って一つの料理を作るという事をあまりしてこなかったこの家の料理人達も、シュージのレシピを参考にした料理をここ数ヶ月作ってきたので、以前より味付けの手際などがかなり良くなっていた。


「お、いい感じですね」

「サラダも出来たぞ」

「ありがとうございます」

「運ぶのは我々がやろう。 本来、シュージ殿はもてなされる側だからな」

「はは、そうかもしれませんね。 では、お言葉に甘えます」


 とりあえず料理は完成させたので、盛り付けや配膳はムグラ達に任せ、シュージはセルゲイ達のいる食堂に移動した。

 それから少しすると、綺麗なお皿に盛り付けられた鯖とナスのトマト煮込みと、鶏むね肉やアボカド、あといくつかの種類の豆が散りばめられたコブサラダが目の前に配膳された。


「おお、美味しそうだね。 早速いただこうか」


 そんなセルゲイの音頭で食事が始まり、セルゲイ達は思い思いのお皿に手をつけていった。


「この煮込み料理、美味いの! トマトの風味がよく効いておる」

「こちらのサラダも美味しいですね。 よく見ると、凄い沢山の野菜が入ってます」

「今回の料理は、ミリア様のような妊婦の方に必要な栄養素が取れる食事にしてみました」

「こんなにちゃんとしたものを食べてもいいのですね。 シュミットの時はこんなに美味しい食事は取れなかったから、とてもありがたいわ」

「他にも、思いつく限りのレシピをお渡ししますので」

「本当にありがとうございます、シュージ様」

「いえいえ。 やはり妊娠中ともなると食欲が減ったりしてしまいがちですが、美味しい料理ならそれなりに食べれると思いますからね」

「本当に素晴らしい料理人だね、シュージ君は」


 そんな風にセルゲイ達から絶賛の言葉を貰いつつ、その後も和やかな雰囲気で談笑したりしながら美味しい昼食を楽しむシュージなのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

昔助けた弱々スライムが最強スライムになって僕に懐く件

なるとし
ファンタジー
最強スライムぷるんくんとお金を稼ぎ、美味しいものを食べ、王国を取り巻く問題を解決してスローライフを目指せ! 最強種が集うSSランクのダンジョンで、レオという平民の男の子は最弱と言われるスライム(ぷるんくん)を救った。 レオはぷるんくんを飼いたいと思ったが、テイムが使えないため、それは叶わなかった。 レオはぷるんくんと約束を交わし、別れる。 数年が過ぎた。   レオは両親を失い、魔法の才能もない最弱平民としてクラスの生徒たちにいじめられるハメになる。 身も心もボロボロになった彼はクラスのいじめっ子に煽られ再びSSランクのダンジョンへ向かう。 ぷるんくんに会えるという色褪せた夢を抱いて。 だが、レオを迎えたのは自分を倒そうとするSSランクの強力なモンスターだった。 もう死を受け入れようとしたが、 レオの前にちっこい何かが現れた。 それは自分が幼い頃救ったぷるんくんだった。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...