上 下
159 / 167

#159 うなぎの肝吸い

しおりを挟む
「いやー、ありがとのシュージ。 助かったわい」

「いえいえ、お安い御用ですよ」


 本日、シュージは先代用務員のズズムの手伝いをしていた。

 その内容は、ズズムが作っている野菜などを商会に卸すことで、箱詰めされた野菜類をリヤカーで商会まで運んだり、商会の倉庫にその箱を運び込んだりと、中々の重労働だった。

 ただ、ムキムキマッチョのシュージからしたらこれぐらい朝飯前なので、いつもは2時間ほどかかるという作業が1時間もかからずに終わってしまった。


「年々この作業がしんどくなってきてなぁ。 寄る年波には敵わねぇよ」

「これぐらいで良ければいつでも手伝いますよ。 ズズムさんにはいつも美味しい野菜をお裾分けしてもらってますし」

「そうかい、助かるよ。 今日のお礼も期待しとってくれ」

「はは、ありがとうございます」


 そんな卸し作業を終えた2人は、ズズムの家に戻っていった。

 大体ズズムと会う時はこうしてズズムの家にお邪魔して、のんびりさせてもらうのが通例になっていた。


「戻ったぞーい」

「ああ、おかえりなさい」


 ズズム宅に入ると、ズズムの妻のハナエが出迎えてくれた。


「シュージちゃん、ありがとねぇ。 疲れたでしょう?」

「いえいえ、体力には自信ありますから、心配するほどじゃ無いですよ」

「流石だねぇ。 ほら、お茶を淹れておきましたから、ゆっくりしてって?」

「ありがとうございます」


 そのままリビングに上げてもらったシュージは、お茶を飲んで一息ついた。

 そこからはいつものように、ズズム達に最近何があったのかを聞かせてあげる時間となった。

 もうあまり遠出などが体力的にも厳しい2人からすると、色んな場所に赴いて色んな体験をしているシュージの話は聞いていてとても楽しく、ありがたいのだ。


「シュージはもう、この世界のほとんどの国に行ったんじゃな」

「そうですね。 あと行ってないのは獣人国と工業国家、あと魔国くらいですかね?」

「お土産話が色々聞けて助かっとるよ。 それに、婆さんが最近シュージのレシピを使って料理するのにハマっててな。 前までの食事に不満があったわけじゃ無いが、劇的に美味くなったの」

「シュージちゃんの料理は簡単なのに美味しくて凄いですからねぇ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。 あ、そういえば、またちょっと珍しい食材を手に入れたんですよ」

「お、新作じゃな。 今回は珍味か?」

「そうですね、珍味に入るかと」


 こうしてズズムの家に訪れた時は、大抵シュージが何か簡単なものを作ったりしている。

 なので、今回も早速キッチンを借りて、手早く一品作ることになった。


「今回はこちらを使います」

「何じゃ、これ?」

「うなぎの肝ですね」

「うなぎって確か、ニョロニョロした魚でしたかねぇ?」

「そうですそうです。 あまり人気がないみたいですが、とても美味しいんですよ」


 今回用意したのは、先日ハンスの誕生日の時に使ったうなぎの肝だ。

 うなぎは捨てる部位がないと言われるぐらい、身はもちろん、骨や肝まで美味しく食べられる魚なのである。

 ちなみに、骨に関しては油で揚げて骨せんべいにし、おやつとしてギルドのメンバーに提供したところ、めちゃくちゃ喜ばれた。

 そんなうなぎの肝にシュージは少し塩を振り、サッと湯通しして冷ましておく。

 そして、鍋に水とお手製の白だしを加えて煮立てていき、お椀にうなぎの肝を盛って、その上から出汁をかけていった。


「こちらがうなぎの肝吸いです」

「中々簡単じゃの?」

「お吸い物は作るのは簡単ですけど、本当に美味しいんですよ」

「では、早速…… おっ、本当じゃな。 これは美味い」

「とても安心する香りと味ですね。 体も温まります」

「うなぎの肝もぜひ」

「うむ。 ……ほー、コリコリしてて美味いの」

「癖になる感じがしますねぇ」


 うなぎの肝はコリコリした貝のような食感が魅力の食材で、生臭さや砂っぽさとかもない、非常に美味しく食べられる部位だ。

 それが優しい味わいのお吸い物と合わさると、何とも食べていて心が落ち着く一品になっている。


「僕の故郷でうなぎを扱うお店では、この肝吸いが食事のシメとして出てきたりするんですよ」

「確かに、これが食事の最後に出てきたら、何だか幸せな気分になるじゃろうな」

「うなぎは捌くのが少し難しいので、今度売っていた露天商の方や商会と、捌いた状態で売ってみないかと相談しようと思ってます。 絶対売れると思うので」

「そんなに美味いんなら、食べてみたいのう」

「ぜひぜひ。 後悔はしないと思いますので」


 そんな風にズズムとハナエと肝吸いを楽しみつつ、のんびりとした時間を過ごすシュージなのであった。

 それから程なくして、うなぎの切り身がシュージのレシピと共に商会で扱われるようになり、その美味しさから需要がとてつもなく高まるのだが、それはまた別のお話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

たまに目覚める王女様

青空一夏
ファンタジー
苦境にたたされるとピンチヒッターなるあたしは‥‥

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界のんびり料理屋経営

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
主人公は日本で料理屋を経営している35歳の新垣拓哉(あらかき たくや)。 ある日、体が思うように動かず今にも倒れそうになり、病院で検査した結果末期癌と診断される。 それなら最後の最後まで料理をお客様に提供しようと厨房に立つ。しかし体は限界を迎え死が訪れる・・・ 次の瞬間目の前には神様がおり「異世界に赴いてこちらの住人に地球の料理を食べさせてほしいのじゃよ」と言われる。 人間・エルフ・ドワーフ・竜人・獣人・妖精・精霊などなどあらゆる種族が訪れ食でみんなが幸せな顔になる物語です。 「面白ければ、お気に入り登録お願いします」

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...