上 下
133 / 207

#133 本格麻婆豆腐

しおりを挟む
「ここがこの街の市場やね」

「おお、活気が凄いですね」


 東の国、ナグモに来て2日目。

 シュージはフウカの案内で市場にやってきていた。

 そこはかなりの賑わいを見せていて、所狭しと色んな出店が並んでいた。

 並べられている商品も、馴染みのあるものから見たことのないものまで色々とあり、目移りしてしまう程だった。


「明日からの祭りでここらは屋台が沢山出て、更に人が集まるだろうね」

「それは楽しみですねぇ」

「シュージもなんか屋台やれば?」

「そんな今日明日で出せるものなんですか?」

「細かい申請とか処理するの面倒だから、当日の朝に希望者を集めて、ランダムに屋台を割り当てられるんだよ。 まぁ、変なもの売ってたら警備にバレるから、その辺の心配もないしね」

「結構ゆるいんですね」

「それで、どう? シュージが屋台出したら絶対人気出ると思うんやけど」

「お祭りは3日位あるんでしたっけ?」

「そうやね」

「なら、一日二日ならやってもいいですね。 前に別のお祭りでも屋台出したんですけど、楽しかったですし」

「お、やろやろ。 私もシュージの屋台絶対行くわ」

「はは、ありがとうございます。 なら、その時に使えそうなものをここで買いましょうか」


 それからフウカと共に、色々と市場を見て回った。

 その中でもシュージの目に留まったのは、やはりこちらにしかないような食材や調味料だ。

 特にやはり辛味をつけるもののバリエーションが凄く、唐辛子一つとっても10種類ぐらいあるし、他にも辛味噌やラー油、紹興酒など、今まで中々見つけられなかったものが沢山あった。

 それをシュージは大量に買い込んでいく。


「凄い買いっぷりやね?」

「うちのギルドの皆さんはよく食べますからねぇ。 以前も沿海州に行った時、凄い量の海鮮を買い込んだんですけど、それももう無くなりそうですし」

「体が資本の冒険者やからね」


 その後もシュージは市場で噂になるぐらい爆買いし、ホクホク顔でカグラ家へと戻るのであった。



 *



 そして、時刻はお昼時。

 昨日言われた事もあり、今日の昼ご飯はシュージが作る事になった。

 その横には手伝い兼勉強をするためにミコトとフウカが来てくれている。


「それで、何を作るんですか?」

「折角ならこちらのものを使った料理を作ろうかと」


 そう言ってシュージが取り出したのは、豆腐とバッファローのひき肉、長ネギ、あと大量の調味料だ。


「こんなに使うん?」

「僕の料理は色んな調味料を使うんですよ。 とは言っても、分量さえある程度覚えれば、色んな料理に応用できますし、そこまで難しく考えないで大丈夫です」


 そう言いつつ、まずシュージは中華鍋に油を入れ、刻んだしょうが、にんにく、長ネギを弱火で炒め、油に香りを移していく。

 その間、ミコトとフウカには豆腐を切って、沸騰してないぐらいのお湯に入れて温めておいてもらう。


「この豆腐? も見た事ないですね」

「こちらは僕の故郷にあったもので、商業ギルドから近々売り出されると思いますよ」

「見た目は味無さそうやけど、どうなるんやろね」


 豆腐を初めて見るミコトとフウカからすると、この白い味の無さそうなものがどういうものになるのか、想像がつかなかった。
 

「では、ここからは手早くいきましょうか」


 油に香味野菜の香りがしっかり移ってきたところで、ひき肉を加えて中火でしっかり炒めていく。

 ひき肉の色が変わって香りが立ってくるぐらい炒まったら、先ほど買ってきた豆豉醬、豆板醤、醤油を加えて更に炒める。

 少しすると肉の周りに透明な油が出てくるので、それを見たら紹興酒、溶かしておいた鶏ガラスープ、そして豆腐を投入し、豆腐が崩れないようにスープと絡めていく。

 それらが軽く煮立ってきたら、ごま油、ラー油、そして隠し味に少しの砂糖を入れてサッと混ぜる。

 ちなみに砂糖はほんの少しだけしか入れないが、それでも入れると入れないとでかなり仕上がりが変わるので、入れるのがおすすめだ。

 そして仕上げに、水溶き片栗粉を少しずつ入れながら全体を大きくかき混ぜていき、しっかりとろみがついたら、本格麻婆豆腐の完成だ。


「とってもいい香りがしますね」

「中々辛そうやね!」

「今作ったのは本格的にかなり辛くしたので、この後に辛くないのも作りますよ」


 今作ったのは、カグラ家やシュージくらい辛いのが食べれる人向けなので、辛いのがそこまで得意じゃない人用のもちゃんと作っていく。

 それもできたら、シュージが蒼天の風から持ってきた炊飯器に炊いておいたライスを茶碗に盛り、卵スープと口直しのきゅうりの浅漬けと一緒に食卓へ並べていった。


「今日作ったのは麻婆豆腐です。 辛いのと辛くないのがありますので、お好きな方をどうぞ」


 とりあえず大皿に辛い方と辛くない方を分けておいたので、各自で取り分けてもらった。


「んっ! 辛いねこれ! 美味しい!」

「確かに辛いですけど、旨味が凄まじいですね……! 今まで食べてきたどの料理より美味しいかもしれません」

「やっぱシュージの作る辛い料理は最高やね~」


 カグラ家の者達は当然辛い方の麻婆豆腐を食べているが、その辛さと旨さが丁度いい塩梅のシュージの料理にとても感嘆していた。

 シュージも辛い方を食べているが、やはり本場のちゃんとした調味料を使ったおかげで、かなり美味しく作れたと自負できるぐらい、今回の麻婆豆腐は美味しかった。


「これはシュージの屋台も楽しみやね」

「お、シュージ屋台やるん~?」

「はい。 誰でも参加できるそうなので」

「ええやんええやん~。 皆んなと一緒に行くわ~」

「ぜひぜひ来てください」


 その後は美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、明日の屋台で何を作ろうか思案するシュージなのであった。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ

読み方は自由
ファンタジー
 辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。

処理中です...