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#117 甘みが増す焼きフルーツ

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「シュージ、ちょっといい?」

「おや、ネルさんどうしました?」


 ある日の昼下がり、厨房で食材の仕込みをしていたシュージの元へネルがやってきた。


「今日、街を歩いてたら作業中に大怪我しちゃった人を見かけて、その人の怪我を治したら色々貰い物した」

「それはそれは。 良い事をしましたね」

「野菜とか果物売ってる店の人で、置いてあった包丁が落ちちゃったらしくて、足が結構ざっくり切れてた」

「ああー、それは災難でしたね」


 割と包丁などの刃物を扱っている際に起きうる事故が起きてしまったようだ。

 かくいうシュージも、そういう事故が起きないように常日頃から包丁の扱いは気をつけている。


「そんな大怪我もその場で治せちゃうんですね」

「まぁ、部位欠損ぐらいなら新しく生やせたりもできる」

「え、すごいですね?」

「でも、そういうのは怪我した人の体力とか生命力を凄い使うから、あんまりやらない方がいい。 多分、腕一本で十年は寿命が縮まる」

「なるほど、メリットばかりではないのですね」


 ネルとそんな事を話しながら玄関の方へ行くと、いくつか木箱が置かれていた。

 その中には瑞々しい果物が沢山入っている。


「おお、かなりの量ですね」

「治した人の店の店員達が運んでくれた」

「ありがたくいただきましょうか。 そろそろおやつの時間ですし、これらを使いましょう」

「なに作るの?」

「うーん、折角新しいグリルもありますから、焼きフルーツにしますか」

「果物焼くの?」

「はい。 食べた事ないですか?」

「うん」

「物によりますけど、結構美味しいんですよ」

「そうなんだ。 焼くだけなら私もできる?」

「そうですね」

「じゃあ、暇だから手伝う」

「お、もちろんいいですよ」


 という事で、ネルと一緒に木箱を厨房まで運んで焼きフルーツを作ることにした。


「今回はりんごとバナナ、あとパイナップルを焼きましょうか。 ネルさんにはりんごを切ってもらいますね」

「ん、分かった」

「皮付きで今回やるので、こんな感じで切りましょう」


 シュージはまずお手本として、りんごを半分に切って断面をまな板の方に向けて半分、また半分と切っていった。


「で、最後に種のところを切ってしまえばOKです」

「ん、これなら簡単」

「料理は別に上手くやろうとしなくてもいいですからね。 簡単にやるのが一番ですよ」


 そこまで料理の経験のないネルでもこれぐらいなら出来るようで、ゆっくりとりんごを切り始めた。

 それを見守りつつ、シュージは大きなパイナップルの上下を切り落とし、8等分に切り分けて皮の部分と真ん中の芯の部分も切り落としていく。

 一つの棒のようになったパイナップルは、ちょっと大きめの一口大くらいにカットする。

 焼くと少し小さくなるので、これぐらいが良いだろう。


「おおー、シュージ早い」

「はは、こういうのは慣れですね」

「パイナップル硬いのに、すごい」


 シュージはサクッとやっているが、パイナップルを切るのは結構難しいので、慣れてないうちは包丁を滑らせないように注意しなければいけない。

 不安な人は切る際に毎回切りやすい置き方や角度にして丁寧にやるのが良いだろう。


「ん、りんご切れた」

「良いですね。 では、バナナも切って今回はこんな感じにしましょうか」


 切り分けたりんご、パイナップル、バナナを鉄製の串に2つずつ刺し、砂糖を軽く振りかけて、先日ジンバが作ってくれた大型グリルに持っていく。

 新しいグリルには火の魔石を使った炙り焼きに丁度良さそうな火柱を立てる機能があるので、それを使って焼くことにした。


「おおー、豪快」

「フルーツは火を通しすぎると溶けちゃうので、軽く炙る程度ですね」


 中々高火力な火柱なので、防熱性の高いミトンをして炙っていく。

 すると、振りかけた砂糖がいい感じに焦げつき、キャラメリゼをしたような仕上がりになってきたら火から引き上げ、最後に粉末状にしたシナモンを軽く振りかけたら、焼きフルーツの完成だ。

 早速おやつ目当てでやって来たメンバー(主に女性陣)にも焼き上がったものを渡していき、全員に行き届いたところでシュージとネルも食べ始めた。


「んっ、すごい甘くて美味しい」

「この辺りの果物は焼くと不思議と甘さが増すんですよね」

「全部がそうじゃないの?」

「これがそうでもないんですよねぇ。 焼くと逆に美味しく無くなるのもありますし、そもそも溶けてしまって焼けないものも合ったりするので」

「むぅ、残念」

「まぁでも、こういうのなら旅先の野宿とかでも作れますし、何なら屋台とかで出しても良さそうですよね」

「確かに。 料理楽しかったからまたしたい」

「おっ、いつでも歓迎しますよ」


 今日ネルには簡単な事をやってもらったが、どうやら料理に興味を持ってもらえたようだ。

 自分の好きな料理に関心を持ってもらえるのは普通に嬉しいので、今度ネルと料理をする時も楽しませられればいいなと考えるシュージなのであった。
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