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#112 いざ帝国へ

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「おお、ここが……」

「……変わってない」

「そうだねぇ」


 本日、シュージは転移門を使って帝国の首都である帝都を訪れていた。

 帝国の第一皇子であるオリオンと話した時からあっという間に1ヶ月近く経過し、例の文化改革作戦を実行する日が明日に迫っていた。

 そして今回、シュージの付き添いとして、帝国出身であるボリーとイザベラもついてきてくれていた。

 2人は一応、シュージの護衛的な役割も担っていて、限りなく0には等しいとは思うが、文化改革に反対の過激派が何かを企てたりするかもしれないので。

 そんな2人と共にやって来た帝都は、建物も地面の舗装も全て石で作られていて、どこか厳かな雰囲気を感じさせる街並みだった。


「綺麗な街ですね」

「まぁ、石を使った建築技術ではこの世界でも随一だと思うよ。 こういう他国に誇れるものもあるんだけどねぇ」

「それにしても、皆さん厚着というか……」


 街を歩く帝国民は、ピークは過ぎたもののまだ昼間は暑いと言えるぐらいの気温が出る今日この頃でも、ほぼほぼ皆んな厚着をしていた。


「……顔から下の肌は隠す文化」

「はしたないとか、穢れてしまうとか、理由も曖昧で、もはやいつからできた文化かも分からないものだけどねぇ」


 そうイザベラは複雑そうな表情を浮かべながら帝国民たちを見ていた。

 ちなみに今のシュージ達の格好は、シュージとボリーは動きやすそうな半袖シャツで、イザベラは普段着のロングスカートに上はノースリーブのシャツと普通に肌を見せていた。


「僕達この格好ですけど、大丈夫ですかね?」

「ああ、別に他国の者に強いたりする人はいないよ」

「……そこは、弁えてる」

「そうなんですね」


 2人の言う通り、周りの帝国民はシュージ達の方を見ても、他所から来たんだなぁ、みたいな目を向けるのみで、特に気にした様子もなかった。

 ただ、一定数羨ましそうにする目もちらほら感じる。

 やはり、中には自国の文化を煩わしく思う者もいるようだった。

 あと、妙齢の美女に厳つい男性2人という謎の組み合わせが気になって見てくる人もちらほらいたり。
 

「このまま城に行くのかい?」

「そうですね」

「……ちょっと、緊張」

「はは、大丈夫だと思いますよ。 妙に畏まる必要はないと言われてますし、僕らがするのは大体は裏方の作業ですから」


 今回行われるシュージの料理を振る舞う会は、城の大きな庭園での立食パーティー形式で行われると聞いており、今回シュージは裏方で足りない料理を補充したりする事になっている。

 これはオリオンとの手紙のやり取りや、一度目の邂逅の後にもう一度実はオリオンと会っており、その時の打ち合わせで決まったことだった。

 今日はこれから城に向かい、その最終確認と会場の下見などをする予定だ。


「おお…… 城も立派ですね」


 そうして、転移門から30分ほど歩くと、城の近くまでたどり着いた。

 先程からチラチラ見えてはいたが、こうして目の前までやってくると、その厳かな雰囲気につい見惚れてしまうくらい、そこは立派な石造りの城だった。

 その城門の近くまで行き、立っていた門番の人にオリオンからの手紙を渡すと、話が通っていたようですぐに中に案内された。

 城の中に入ると、城勤めの者達がチラホラ見受けられ、すれ違うと恭しく頭を下げてくれる。

 それに会釈で返しつつ、案内に従って歩いて行くと、応接室のような場所に通された。

 中に入ると、そこには既にオリオンとエヴェリーナが待っていた。


「シュージ殿、ようこそ帝国へ。 歓迎するよ」

「こんにちは、シュージ様」

「オリオン様、エヴェリーナ様、ご無沙汰しております」

「ああ。 そちらのお二人もよく来てくれた。 シュージ殿のギルドの仲間だと聞いているが」

「……ボリー、と申します」

「イザベラでございます」

「おお、名前は存じているよ。 ボリー殿は高名な冒険者として、イザベラ殿は魔法学者だったかな? やはり蒼天の風のメンバーは有名人ばかりだね」


 どうやら、ボリーとイザベラも名前は知られていたようで、快い歓迎をオリオンから受けていた。

 普段何気なく共に過ごしているが、蒼天の風のメンバー…… 特に昔からいるようなメンバーは、各分野の第一人者と言ってもいいぐらい優秀で、他国にも名が轟いているのだ。


「さて、それでは最終確認の打ち合わせ…… の、つもりだったんだが、ちょっと問題が発生してね……」

「おや、そうなんですか?」

「ああ…… まずは座ってくれ」


 話し方的に、今回のイベントが頓挫したりしたみたいな悪い問題では無さそうだが、何か面倒事が起こったらしい。


「まず、何が起こったかなんだが、今回の食事会の招待状を国内の有力貴族達に送ったところ、その中の保守派の勢力が、何かと理由をつけて自分達の料理もその食事会に出させろと言ってきたんだ」

「それはどういった理由から何でしょう?」

「はっきり言うと、他国の料理を広めるという目的の今回の食事会を妨害するためだろう。 私が主催の会の開催を止めろとまでは言えないから、せめてもの抵抗と言ったところか」

「なるほど……」

「新しい文化を入れる事で国が悪くなると思っての行動ならまだ考える余地もあるが、どうも彼等はそうでもなさそうだしな」

「貴族のしがらみというのは難しいものですねぇ…… それで、どうするんですか?」

「確かに面倒ではあるが、これはチャンスだとも思っている。 彼等の方から比較対象に名乗り出てくれたわけだからな。 悪いが引き立て役になってもらおう」

「強かですね、オリオン様は」

「褒め言葉と受け取っておこう。 それに、作るもののリストを見て、一部を食べさせてもらった身からすると、今回の食事会は必ず上手くいくと思っている」

「そう言ってもらえると自信になりますよ」

「本当に貴殿は素晴らしい料理人だよ。 では、色々変更したところもあるから、それの説明と会場の下見をしていこう」

「よろしくお願いします」


 それからシュージ達は、明日の食事会に向けて念入りに打ち合わせを行なっていくのであった。
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