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#106 2度目のお茶会

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 帝都の商業ギルド長であるムッタと話をしてから1週間程経った頃。

 シュージはシルムーン城を訪れていた。

 そこでは以前のように、王族やそれに近しい存在の女性陣を集めてお茶会が開かれており、新作のスイーツも沢山お披露目されて女性陣は全員目を輝かせていた。

 ただ、前回と違うのは、そこに何人かの男性の姿も見えている事だろう。


「アマルス様、こちらはそこまで甘くないみたいですよ」

「うん、本当だね。 これはとても美味しいよ。 ラピスはどれが好みだい?」

「私はこちらのジャムケーキが1番好みです。 私の領地で採れるベリーが使われているそうで、とっても馴染み深さもあって」

「なら僕も一口貰おうかな」


 会場の一角では、第一王子のアマルスが婚約者のラピスと仲睦まじくスイーツを食べていた。

 事前に何名か男性陣も参加すると聞いていたので、甘いものがそこまで好みというわけではない人にも好まれるようなスイーツを今回はいくつか用意している。

 そのおかげでアマルスも婚約者のラピスと一緒にこの会を楽しめているようだった。


「あっ、ジュスメル様、これ可愛いですよ」

「そ、そ、そうだなっ!」

「ジュスメル様は甘いものを結構食べられますよね」

「ま、まぁ、鍛錬で疲れた時に糖分が欲しくなることが多いからな」


 そして、その近くには第二王子のジュスメルもいて、こちらも婚約者のアンジェラと一緒にいた。

 女性が少し苦手なジュスメルがここに来るのは意外だなとシュージは思っていたのだが、先程チラッとアンジェラに聞いたところ、いつまでも苦手だからと言って避ける訳にもいかないから、苦手克服の意味も込めて来たらしい。

 ちなみにその話の中で「私といれば安心できるって言ってくれたんですよ♡」とお熱い惚気も頂戴した。


「前回無かったものが沢山……!」

「あっ、サフィナお姉様、この前シュージ様が言ってた綺麗なゼリーもありますよ」

「本当だっ」

「またこうして2回目があって嬉しいですね」

「そうね。 陛下も来れれば良かったのだけれど」

「丁度政務と重なってしまいましたからね。 ただ、シュージ様から陛下の好きなワインに合うお酒の供を頂きましたから、きっと喜んでくれますよ」

「それもそうね」


 もちろんこの場には、他の王族達もいて、全種類どうにかして食べようと画策する面々とチラホラいた。

 そして、そもそもこのお茶会を生み出した張本人と言っていい、第一王女のエヴェリーナも当然この場にはいるのだが、その横にはエヴェリーナと同じくらいの年齢の男性がいた。


「どうですか、オリオン様」

「ああ、思っていたより遥かに美味なものばかりだね。 エヴァがあれだけ薦めるのも頷けるよ」


 そこにいたのは、エヴェリーナの婚約者であり、帝国の第一皇子であるオリオンだった。

 先日、ムッタがオリオンにシュージとコンタクトが取れた事を伝えたら、ぜひ一度会いたいという話になった。

 それで、丁度今回のお茶会の日程にオリオンの都合が合ったのでこうして参加しているという次第だ。

 とりあえず先程シュージとも軽い挨拶は交わし、後程また帝国について詳しく話すつもりである。


「オリオンお義兄様! これも美味しいですよ!」

「おっ、ありがとうルビィ。 ……本当だ、とっても美味しいね」

「帝国育ちの貴方からしても、やっぱりシュージさんのスイーツは美味しいのかしら?」

「そうですね。 とても上品な甘さで、こんなものがあったのかと驚いています」


 他の王族達ともオリオンはかなり仲睦まじげに話していて、家族間の仲は相当いいらしい。


「…………」

「オリオン様……? 急に黙ってしまってどうしましたか?」

「ああ、済まない。 他国でこういう素晴らしい料理に出会う度に、我が国でもこういうものが食べれたらとつい思ってしまうんだ。 今回は私にも馴染み深い甘味系統の料理だったからより、ね」

「オリオン様…… そう1人でお抱えにならず、私にいつでも相談してください」

「エヴァ…… ありがとう」

「コホン…… 仲睦まじいのはとても喜ばしいですが、今は周りの目がありますから、自重しなさいな」

「「あっ…… ご、ごめんなさい……」」


 どうやらエヴェリーナとオリオンの仲が非常に良いというのは本当のようで、危うく2人の世界に入りかけたが、フローリアが咳払いをしてそれを嗜めていた。

 そんなやり取りも日常茶飯事なのか、周りも「またやってる……」みたいな表情を浮かべている。


「そ、それにしても、本当にここまで素晴らしい料理を作れるとは、良い意味で予想を裏切られたよ。 これがあれば父上達も納得させられるかもしれない」

「もしその時になったら私も立ち会いますわ」

「いや、エヴァに迷惑はかけれないよ」

「迷惑なんて微塵も思いませんわ。 いずれ私が嫁ぐ国の話なんですから、私が指を咥えて待ってる訳にはいきません」

「ああ、君は本当に強いね。 僕も見習わなければ」

「オリオン様こそ、自国の未来を案じて奮闘するお強い方ですわ」

「エヴァ……」

「オリオン様……」

「……お2人とも?」

「「あっ、ごめんなさい……」」


 再び甘い空気になりかけたが、先程より更にワントーン低いフローリアの声が響き渡り、エヴェリーナとオリオンはパッと体を離した。


「お楽しみ頂けてますか?」

「ああ、シュージ殿。 もちろん、とても楽しませてもらってるよ」

「それは良かったです」

「後でまた色々と話を聞かせて欲しい。 貴殿なら我が国の救世主となってくれるかもしれない」

「僕にできる事なら喜んで協力させてもらいますよ」


 それから第二回のお茶会は最後まで盛り上がりを見せ、終わる頃には早くも次はいつにしようという話が持ち上がるくらい大盛況で幕を閉じるのであった。
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