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#94 教国へ赴く
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「シュージさーん、お手紙ですよー」
「ありがとうございます、キリカさん」
朝方、蒼天の風に届いていた手紙の中に、シュージ宛ての手紙が入っており、それをキリカが届けに来てくれた。
それを受け取ったシュージは、エントランスの椅子に腰掛け、早速中身をチェックしていく。
「ふむ……」
「どなたからのお手紙ですか?」
「以前知り合った教国の方ですね」
その手紙の差出人は、以前この国の王都で出会ったネルだった。
手紙には、『そちらに赴く準備が整った。 けど、ちょっとシュージに会って欲しい人がいるから、来て欲しい』と、彼女らしい簡潔な文章でまとめられていた。
その手紙には何やら許可証のようなものも同封されていて、来て欲しい場所が記された地図も入っていた。
「シュージさんって、いつの間にか凄い人達と交流築いてますよね」
「僕も不思議なんですよねぇ」
「お一人で行くんですか?」
「そうですね。 多分そこまで今回は長居もしなさそうですし」
「唯一教国を案内できるグレースさんも、遠出の依頼で出払っちゃってますしね」
「ですね。 まぁ、今回は軽く行って帰ってこようと思います。 ちゃんとした観光とかはまた落ち着いたら皆さんと行きましょう」
「お土産期待してますね!」
「はは、任せてください」
という事で、教国に向かう旨をジルバートや他のメンバーにも伝え、軽く荷物の準備とシュージがいない間のご飯についてハンスに軽く話しておいた。
以前はシュージが留守な時はメンバーがそれぞれ当番制でご飯を作っていたが、ハンスが来てくれた事で料理を担当できる人が増えたのはこういう時にも非常に助かっている。
「シュージ、一応気をつけろよ。 お前の境遇につけ込んで取り入ろうとする輩がいないとも限らんからな」
「分かりました。 十分用心して行ってきます」
*
そして、手紙が届いてから2日後。
シュージは教国に転移門を使って移動し、指定された場所までやって来た。
「おぉ……」
そこはこの国の城にあたる建物で、見た目は教会なのだが、全てのサイズがとても大きくて、思わず声が漏れてしまうくらい立派な建造物だった。
高さはシュージが以前訪れたシルムーン城よりは低いものの、とても高い壁が本殿から先にもずーっと続いており、その敷地面積はシルムーン城の倍近くはありそうだった。
「あのー、すみません」
「む? 何者だ。 一般人の礼拝はここではないぞ」
「こちらの手紙を貰って来た者なのですが」
そんな大きな教会の門番がいる場所にやって来たシュージは、門番の人にネルから送られてきた手紙を渡した。
「拝見する。 ……こ、これはっ。 少々お待ちください。 確認して参ります」
すると、手紙を見た門番は急いで建物の中へと入っていき、5分くらいで戻ってきた。
「ご無礼をお詫びします、お客人。 どうぞこちらへ」
「はい、ありがとうございます」
門番らしい毅然とした態度から一転、とても恭しい態度になった門番の後ろにシュージはついて、大教会の中を進んでいく。
それから案内されたのは、大きな扉の前だった。
「どうぞ中に」
どうやら案内してくれた門番の人はここまでのようで、シュージは扉を開けて中に入った。
そこは小さめの教会のようなスペースになっていて、女神像の前には3人の聖職者の格好をした人物が立っていた。
「シュージ、久々」
「ご無沙汰しております」
まず挨拶してくれたのは、以前知り合ったネルとツィーロだった。
「初めまして、シュージ様。 お話は聞いています。 私はこの国の教皇を務めます、ティナ・セントリーヌと申します」
そして、その2人の間に立っていた、小柄で見た目は20代前半くらいの女性、ティナも挨拶をしてくれた。
どうやら彼女がこの国のトップであるらしい。
「初めまして、シュージと申します」
「なるほど…… ネルから話は聞いていましたが、確かに神気を感じ取れます」
そう言ってくれたティナであるが、彼女は会ってから一度もその目を開けていなかった。
「ああ、私は盲目なんです。 けど、『心眼』というスキルを持っていて、周りの地形の把握などはできますのでご心配なさらず」
シュージの内心に勘づいたのか、ティナ本人がそう説明してくれた。
「そうなんですね」
「そのスキルのおかげで、普通の人には見えないようなものまで見えるんです。 今もシュージ様の体に仄かな神気が纏っているのが見えてますよ」
「シュージがお祈りするともっとすごい」
「それはぜひ一度見てみたいですね。 ネルも同じ気持ちだと思いますが、シュージ様の近くにいると神様の気配が近くに感じ取れてなんだか幸せな気持ちになってきますから」
「ここは普段、誰かが祈る場所なんですか?」
「ここは私達、高位の神官や聖女が祈る場所なんです。 だから、良ければシュージさんもお祈りをしていきませんか」
「そういう事なら」
どうやら以前のネル同様、ティナもシュージもお祈りが見たいそうなので、素直にシュージもお祈りすることにした。
膝をついて両手を胸の前で組み合わせ、いつものようにソフィアのことを思い浮かべていく。
「呼びましたか、シュージさん?」
そうすると、いつものようにソフィアの声がして目を開けた。
だが、目に飛び込んできた景色はいつものような真っ白い綺麗な空間ではなく、先程までいた教会のままだった。
「あれ? ソフィアさん?」
「えへへ、来ちゃいました!」
そこには教会に置かれている女神像よりもはるかに美しいソフィアが、悪戯が成功した子供のような表情で立っていたのであった。
「ありがとうございます、キリカさん」
朝方、蒼天の風に届いていた手紙の中に、シュージ宛ての手紙が入っており、それをキリカが届けに来てくれた。
それを受け取ったシュージは、エントランスの椅子に腰掛け、早速中身をチェックしていく。
「ふむ……」
「どなたからのお手紙ですか?」
「以前知り合った教国の方ですね」
その手紙の差出人は、以前この国の王都で出会ったネルだった。
手紙には、『そちらに赴く準備が整った。 けど、ちょっとシュージに会って欲しい人がいるから、来て欲しい』と、彼女らしい簡潔な文章でまとめられていた。
その手紙には何やら許可証のようなものも同封されていて、来て欲しい場所が記された地図も入っていた。
「シュージさんって、いつの間にか凄い人達と交流築いてますよね」
「僕も不思議なんですよねぇ」
「お一人で行くんですか?」
「そうですね。 多分そこまで今回は長居もしなさそうですし」
「唯一教国を案内できるグレースさんも、遠出の依頼で出払っちゃってますしね」
「ですね。 まぁ、今回は軽く行って帰ってこようと思います。 ちゃんとした観光とかはまた落ち着いたら皆さんと行きましょう」
「お土産期待してますね!」
「はは、任せてください」
という事で、教国に向かう旨をジルバートや他のメンバーにも伝え、軽く荷物の準備とシュージがいない間のご飯についてハンスに軽く話しておいた。
以前はシュージが留守な時はメンバーがそれぞれ当番制でご飯を作っていたが、ハンスが来てくれた事で料理を担当できる人が増えたのはこういう時にも非常に助かっている。
「シュージ、一応気をつけろよ。 お前の境遇につけ込んで取り入ろうとする輩がいないとも限らんからな」
「分かりました。 十分用心して行ってきます」
*
そして、手紙が届いてから2日後。
シュージは教国に転移門を使って移動し、指定された場所までやって来た。
「おぉ……」
そこはこの国の城にあたる建物で、見た目は教会なのだが、全てのサイズがとても大きくて、思わず声が漏れてしまうくらい立派な建造物だった。
高さはシュージが以前訪れたシルムーン城よりは低いものの、とても高い壁が本殿から先にもずーっと続いており、その敷地面積はシルムーン城の倍近くはありそうだった。
「あのー、すみません」
「む? 何者だ。 一般人の礼拝はここではないぞ」
「こちらの手紙を貰って来た者なのですが」
そんな大きな教会の門番がいる場所にやって来たシュージは、門番の人にネルから送られてきた手紙を渡した。
「拝見する。 ……こ、これはっ。 少々お待ちください。 確認して参ります」
すると、手紙を見た門番は急いで建物の中へと入っていき、5分くらいで戻ってきた。
「ご無礼をお詫びします、お客人。 どうぞこちらへ」
「はい、ありがとうございます」
門番らしい毅然とした態度から一転、とても恭しい態度になった門番の後ろにシュージはついて、大教会の中を進んでいく。
それから案内されたのは、大きな扉の前だった。
「どうぞ中に」
どうやら案内してくれた門番の人はここまでのようで、シュージは扉を開けて中に入った。
そこは小さめの教会のようなスペースになっていて、女神像の前には3人の聖職者の格好をした人物が立っていた。
「シュージ、久々」
「ご無沙汰しております」
まず挨拶してくれたのは、以前知り合ったネルとツィーロだった。
「初めまして、シュージ様。 お話は聞いています。 私はこの国の教皇を務めます、ティナ・セントリーヌと申します」
そして、その2人の間に立っていた、小柄で見た目は20代前半くらいの女性、ティナも挨拶をしてくれた。
どうやら彼女がこの国のトップであるらしい。
「初めまして、シュージと申します」
「なるほど…… ネルから話は聞いていましたが、確かに神気を感じ取れます」
そう言ってくれたティナであるが、彼女は会ってから一度もその目を開けていなかった。
「ああ、私は盲目なんです。 けど、『心眼』というスキルを持っていて、周りの地形の把握などはできますのでご心配なさらず」
シュージの内心に勘づいたのか、ティナ本人がそう説明してくれた。
「そうなんですね」
「そのスキルのおかげで、普通の人には見えないようなものまで見えるんです。 今もシュージ様の体に仄かな神気が纏っているのが見えてますよ」
「シュージがお祈りするともっとすごい」
「それはぜひ一度見てみたいですね。 ネルも同じ気持ちだと思いますが、シュージ様の近くにいると神様の気配が近くに感じ取れてなんだか幸せな気持ちになってきますから」
「ここは普段、誰かが祈る場所なんですか?」
「ここは私達、高位の神官や聖女が祈る場所なんです。 だから、良ければシュージさんもお祈りをしていきませんか」
「そういう事なら」
どうやら以前のネル同様、ティナもシュージもお祈りが見たいそうなので、素直にシュージもお祈りすることにした。
膝をついて両手を胸の前で組み合わせ、いつものようにソフィアのことを思い浮かべていく。
「呼びましたか、シュージさん?」
そうすると、いつものようにソフィアの声がして目を開けた。
だが、目に飛び込んできた景色はいつものような真っ白い綺麗な空間ではなく、先程までいた教会のままだった。
「あれ? ソフィアさん?」
「えへへ、来ちゃいました!」
そこには教会に置かれている女神像よりもはるかに美しいソフィアが、悪戯が成功した子供のような表情で立っていたのであった。
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