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#91 謎の人物の襲来?
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「ちょっといいかな?」
「はい? なんでしょうか?」
シュージとハンスが一緒に買い物に行っていた帰り道、何やら緑色のローブを身に纏い、深いフードで顔を隠した人物に声をかけられた。
声の高さ的に女性っぽいが、全く顔が分からないのでちょっと警戒しながらシュージは返事をした。
「この辺りに蒼天の風というギルドがあると思うのだけれど、場所を知らないかい? 以前も来たことあるのだが、生憎方向音痴でね」
「一応僕たちはそのギルドに所属していますよ」
「それは良き偶然だね。 場所を教えてくれないかい?」
「構いませんが、どういうご用件で?」
「私はジルバートの知り合いなんだ」
「おや、そうなんですね」
思えば、ジルバートの交友関係などは聞いた事がなく、この女性(?)の口振り的に嘘では無さそうなので、シュージはその人を蒼天の風へと案内した。
「ここですよ」
「ああ、そうだった。 この辺りだったね」
(シュージさん、この人、大丈夫なんですかね……?)
(悪い人ではないと思いますよ)
全く風貌が分からないその人物に、ハンスが少し訝しげにしていたが、何となくシュージはその人が悪い人には見えなかった。
それからギルドの扉を開けて中に入ると、エントランスには丁度ジルバートがいた。
「む、帰ったか」
「ただいま戻りました。 あ、ジルさん、お客様ですよ」
「客? 聞いていないが……」
「ああっ、ジルバート♡ 久しぶりじゃないかっ♡」
「げっ、お前は……!」
一緒に来た人物は、ジルバートの姿を見るや否や声を甘いものへと変えると、その被っていたフードを外してジルバートにいきなり抱きつきにいった。
ジルバートはそれに対して見たこともないぐらい嫌な顔を浮かべると、ひょいっとその抱擁を躱した。
「あぁんっ♡ なんで避けるんだい♡?」
「……何しに来た、ディアナ」
ジルバートがそう呼んだディアナという人物は、綺麗な金髪にまるで芸術品かのような美貌を兼ね備えたとても美しい女性で、もちろんその美貌にも目が行くのだが、シュージが気になったのはその細長く尖った耳だった。
「貴女は、エルフさんですか?」
「ふふ、そうだよ。 ここまで案内してくれてありがとね、マッチョなお兄さん」
「えっと、ジルさんの知り合いなんですよね?」
「ああ、そうだよ。 いや、知り合いというか、私の運命の人というか……♡」
「おい、勝手な事を言うな」
まるで少女のように顔を赤らめながらそう言うディアナに、ジルバートはピシャリと冷たく否定の言葉を投げてきた。
「えっと、実際はどういう関係なんでしょう?」
「そいつは俺と同じSランクの冒険者だ。 以前、少し関わりがあったが、それだけだ」
「そんな凄い方なんですね」
「……で、本当に何をしに来たんだお前は」
「そんなの一つに決まってるじゃないか……♡ ジルバート、私とたたか……」
「断る」
「ええっ!? なんでぇっ!?」
お願いを言い切る前にバッサリと断られたディアナは、まさか断られるとは思ってなかったのか、驚きの声を上げた。
「むしろなんで受け入れられると思ってるんだお前は!」
「だ、だって、もう5年は来るなって言われたから、5年待ったら良いのかなって……」
「……そんな事、言ったか?」
「言ってたよ!? 忘れてたの!?」
「あの時は怒りで我を忘れてたから、もう自分が何を言ってたかも覚えていない」
「そ、そんなぁ……」
「怒りの原因はお前だからな?」
「うっ……」
「あのー、何があったんですか?」
「……こいつとは5年くらい前にこのギルドの訓練所で手合わせをしたんだ。 だが、こいつが熱くなって全力を出した結果、このギルドの建物が倒壊した」
「ええ!?」
「で、でも、修繕費とかは全部私が出したし……」
「そんなの当たり前だ」
「あうう……」
シュージ的には目の前の可憐なディアナがそんな所業をするようには見えないのだが、2人の口振り的に本当にあった事らしい。
「こいつは一度熱くなると、戦闘不能にでもしなければ止まらない。 あの時は俺が大怪我をしながら戦い、ようやく止まった」
「あぁっ、あの時のジルバートの剣は本当に凄かったんだよっ♡ まさか、500年は生きてる私に、まだ20そこらの人間が勝てるなんてね……♡」
「そんな事があったんだ、お前とはもう2度と戦わんと決めた」
「そ、そんなぁっ! この5年、君とまた戦うのを生き甲斐にしてたのに……」
「黙れ『狂姫』が。 5年など、お前にとっては瞬きにも満たんだろう。 それに強い敵と戦いたければ、他にもいるだろう」
「だって、他のSランクの子達も断ってくるんだもん……」
「それは俺が気をつけろと伝えたからな」
「ええっ!? ジルバートのせいなの!?」
「元はと言えばお前のせいだろうが」
「うう~……!」
どうやらこのディアナという女性、かなりの厄介者として扱われているようだった。
シュージの前世で言うところの残念美人というところだろうか。
「ジルバート、お願いだよぉ…… ちょっとでいいからぁ……」
「無理だ。 というか、お前も戦闘以外の趣味でも何でも見つけろ。 エルフの国で後進でも育てればいいだろう」
「エルフの国は排他的でつまらないから嫌! 皆んな弱いし! それに、500年も生きてると、大抵のことじゃ楽しめないし驚けないもの……」
「ふむ…… なら、シュージ。 お前の飯をこいつに食わせてやってくれ」
「あ、はい。 全然良いですよ。 ディアナさん、何か食べられないものとかあります?」
「私は別に何でも食べれるよ。 普通のエルフは体が弱くて肉とか食べれないけど」
「お前は何でそんな体が弱いはずのエルフなのに、前衛で戦う戦闘狂なんだ……」
「はは…… では、昼食を作ってきますね」
突然のお客様が増えたが特に問題はないので、シュージはハンスを伴っていつも通り厨房へと向かうのであった。
「はい? なんでしょうか?」
シュージとハンスが一緒に買い物に行っていた帰り道、何やら緑色のローブを身に纏い、深いフードで顔を隠した人物に声をかけられた。
声の高さ的に女性っぽいが、全く顔が分からないのでちょっと警戒しながらシュージは返事をした。
「この辺りに蒼天の風というギルドがあると思うのだけれど、場所を知らないかい? 以前も来たことあるのだが、生憎方向音痴でね」
「一応僕たちはそのギルドに所属していますよ」
「それは良き偶然だね。 場所を教えてくれないかい?」
「構いませんが、どういうご用件で?」
「私はジルバートの知り合いなんだ」
「おや、そうなんですね」
思えば、ジルバートの交友関係などは聞いた事がなく、この女性(?)の口振り的に嘘では無さそうなので、シュージはその人を蒼天の風へと案内した。
「ここですよ」
「ああ、そうだった。 この辺りだったね」
(シュージさん、この人、大丈夫なんですかね……?)
(悪い人ではないと思いますよ)
全く風貌が分からないその人物に、ハンスが少し訝しげにしていたが、何となくシュージはその人が悪い人には見えなかった。
それからギルドの扉を開けて中に入ると、エントランスには丁度ジルバートがいた。
「む、帰ったか」
「ただいま戻りました。 あ、ジルさん、お客様ですよ」
「客? 聞いていないが……」
「ああっ、ジルバート♡ 久しぶりじゃないかっ♡」
「げっ、お前は……!」
一緒に来た人物は、ジルバートの姿を見るや否や声を甘いものへと変えると、その被っていたフードを外してジルバートにいきなり抱きつきにいった。
ジルバートはそれに対して見たこともないぐらい嫌な顔を浮かべると、ひょいっとその抱擁を躱した。
「あぁんっ♡ なんで避けるんだい♡?」
「……何しに来た、ディアナ」
ジルバートがそう呼んだディアナという人物は、綺麗な金髪にまるで芸術品かのような美貌を兼ね備えたとても美しい女性で、もちろんその美貌にも目が行くのだが、シュージが気になったのはその細長く尖った耳だった。
「貴女は、エルフさんですか?」
「ふふ、そうだよ。 ここまで案内してくれてありがとね、マッチョなお兄さん」
「えっと、ジルさんの知り合いなんですよね?」
「ああ、そうだよ。 いや、知り合いというか、私の運命の人というか……♡」
「おい、勝手な事を言うな」
まるで少女のように顔を赤らめながらそう言うディアナに、ジルバートはピシャリと冷たく否定の言葉を投げてきた。
「えっと、実際はどういう関係なんでしょう?」
「そいつは俺と同じSランクの冒険者だ。 以前、少し関わりがあったが、それだけだ」
「そんな凄い方なんですね」
「……で、本当に何をしに来たんだお前は」
「そんなの一つに決まってるじゃないか……♡ ジルバート、私とたたか……」
「断る」
「ええっ!? なんでぇっ!?」
お願いを言い切る前にバッサリと断られたディアナは、まさか断られるとは思ってなかったのか、驚きの声を上げた。
「むしろなんで受け入れられると思ってるんだお前は!」
「だ、だって、もう5年は来るなって言われたから、5年待ったら良いのかなって……」
「……そんな事、言ったか?」
「言ってたよ!? 忘れてたの!?」
「あの時は怒りで我を忘れてたから、もう自分が何を言ってたかも覚えていない」
「そ、そんなぁ……」
「怒りの原因はお前だからな?」
「うっ……」
「あのー、何があったんですか?」
「……こいつとは5年くらい前にこのギルドの訓練所で手合わせをしたんだ。 だが、こいつが熱くなって全力を出した結果、このギルドの建物が倒壊した」
「ええ!?」
「で、でも、修繕費とかは全部私が出したし……」
「そんなの当たり前だ」
「あうう……」
シュージ的には目の前の可憐なディアナがそんな所業をするようには見えないのだが、2人の口振り的に本当にあった事らしい。
「こいつは一度熱くなると、戦闘不能にでもしなければ止まらない。 あの時は俺が大怪我をしながら戦い、ようやく止まった」
「あぁっ、あの時のジルバートの剣は本当に凄かったんだよっ♡ まさか、500年は生きてる私に、まだ20そこらの人間が勝てるなんてね……♡」
「そんな事があったんだ、お前とはもう2度と戦わんと決めた」
「そ、そんなぁっ! この5年、君とまた戦うのを生き甲斐にしてたのに……」
「黙れ『狂姫』が。 5年など、お前にとっては瞬きにも満たんだろう。 それに強い敵と戦いたければ、他にもいるだろう」
「だって、他のSランクの子達も断ってくるんだもん……」
「それは俺が気をつけろと伝えたからな」
「ええっ!? ジルバートのせいなの!?」
「元はと言えばお前のせいだろうが」
「うう~……!」
どうやらこのディアナという女性、かなりの厄介者として扱われているようだった。
シュージの前世で言うところの残念美人というところだろうか。
「ジルバート、お願いだよぉ…… ちょっとでいいからぁ……」
「無理だ。 というか、お前も戦闘以外の趣味でも何でも見つけろ。 エルフの国で後進でも育てればいいだろう」
「エルフの国は排他的でつまらないから嫌! 皆んな弱いし! それに、500年も生きてると、大抵のことじゃ楽しめないし驚けないもの……」
「ふむ…… なら、シュージ。 お前の飯をこいつに食わせてやってくれ」
「あ、はい。 全然良いですよ。 ディアナさん、何か食べられないものとかあります?」
「私は別に何でも食べれるよ。 普通のエルフは体が弱くて肉とか食べれないけど」
「お前は何でそんな体が弱いはずのエルフなのに、前衛で戦う戦闘狂なんだ……」
「はは…… では、昼食を作ってきますね」
突然のお客様が増えたが特に問題はないので、シュージはハンスを伴っていつも通り厨房へと向かうのであった。
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