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#84 教会についての話

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「ふぅ」


 ソフィアとの時間も終わりも告げ、シュージはお祈りの姿勢を解いた。

 かれこれ1時間くらいはソフィアと話していたが、こちらの世界ではまだ5分も経っていないことになっていた。


「シュージ、凄い」

「おっと」


 すると、シュージのお祈りを近くで見ていたネルが改めて詰め寄ってきた。


「シュージがお祈りしている間、凄い大きな神気が感じられた」

「そんなにですか?」

「うん。 おじいちゃんは感じた?」

「ええ、私も微かにですが神の気配を感じました。 私で感じ取れたということは、ネルはそれはもう素晴らしい物を感じたんだと思います」

「シュージ、何者なの? どこかで僧侶とかやってた?」

「いえいえ、僕は料理が好きなただの用務員ですよ」

「シュージ殿、良ければ少しお話をしたいのですが、時間はありますかな?」

「はい、大丈夫ですよ」


 それから三人は場所を移し、教会の中にある会議室のような場所にやって来た。


「人払いは済ませましたから、今からする話は我々しか聞いていません」

「シュージ、神様とどういう関わりがあるの?」

「そうですね…… まず初めに、僕の事を詳しく話すのはまた後日でも良いですか?」

「構いませんが、どうしてでしょう?」

「大まかに言うと、僕は神様に関わりを確かに持っています。 ただ、この事に関しては、お二人より先に伝えたい人達がいるんです」


 そう、シュージは前々から、自らの秘密を告げるとしたら蒼天の風のメンバーに最初に伝えようと決めていたのだ。

 それはこの全く知らない世界に来て、快くシュージの事を受け入れてくれ、詳しく事情も聞かずにシュージという一個人に対して仲間と呼んでくれる彼らに対して、通さなければいけない義理だと思っている。

 きっとギルドのメンバーはそんな義理深く無くて良いと言いそうだが、紛れもないシュージがそうしたいのだ。


「なるほど。 確かに、気がはやりすぎましたな。 シュージ殿がそうしたいのならぜひそうしてくだされ」

「ありがとうございます」

「すごい気になる」

「すみません、ネルさん。 ですが、お二人にも必ず話します」

「ん、分かった。 ねぇ、おじいちゃん」

「なんだい?」

「私、シュージに付いていきたい」

「えっ?」

「ほう? どういう思惑があってそうしたいんだい?」

「こんなに神気を持ってる人、教会にもいないから、仲間ができたみたいで嬉しい。 それに、シュージの近くにいれば良い事がある気がする」

「ふむ…… 話は分かった。 だが、許可するにしても直ぐにとはいかないかもしれんな。 ネルには立場もあるし、シュージ殿の都合もある」

「むぅ」

「あの、ネルさんはかなり立場が良い方なのでしょうか?」

「そうですね。 シュージ殿は聖女について知ってますかな?」

「いえ、存じ上げないです」

「我々が属している教国には、光属性を扱える子供達の学びの場があるのです。 そこで一人前になった者は、冒険者を目指したり、貴族のお抱えになったり、治療院に属したりします」

「なるほど」

「光属性を持っている者はかなり希少で、その才が世の中の、そして何より自分のためになるように才を伸ばす場を設けている訳です。 それで、ネルはその中でも抜けて優秀な筆頭聖女と呼ばれる存在でもあります」

「それはかなり凄そうですね」

「彼女はもう特に修行をするまでもなく、現存している全ての光属性を扱えるものの中でも1番の使い手と言えるでしょう。 ですから、ぜひお抱えになってくれと色んな国や大商人などから勧誘が止まないのです」

「勧誘に応える気は無い。 私の道は私が決める」

「教国としては次期教皇にという声も上がってるのですが……」

「それは無い。 教皇様もまだまだ若いし、よく本人に面倒事の愚痴聞かされるから、絶対嫌」

「とまぁ、こんな感じなので、進路を決めかねていたんです」

「なるほど。 僕としてはネルさんが僕の所属しているギルドに来たいと思ってくれる事はとても嬉しいです。 なので、メンバーやギルドマスターにも僕からネルさんが入りたいと言っていたと伝えておきますね」

「ん、ありがとシュージ」

「ただ、一回入る前にお試し期間みたいなのがあっても良いかもしれませんね。 国も違えば一般的には粗野と言われる冒険者になる訳ですし」

「確かに。 でも、ネルは元々孤児のスラム上がりだから気にしないと思う」

「おや、そうなのですね」

「ネルには彼女がまだ幼い頃、私が各国の巡礼中に偶然出会ったのです。 ボロ布を纏いながら教会で一生懸命祈っている尊い姿は、今でも鮮明に覚えています」

「苦労したんですね。 あ、そういえば、ツィーロ様が属している教国にも孤児の問題って結構ありますか?」

「そうですな。 教国は他国に比べると教会が多く、孤児院を兼ねた場所もあるので、他国に比べるとマシですが、やはり冒険者を親に持つ子供が、冒険先で親が亡くなってしまった事で取り残されてしまうなんてことは少なくありません」

「なるほど……」

「思うところがあるの?」

「そうですね。 僕も元々親が小さい頃に亡くなってまして。 僕の場合はとても良い親代わりの人がいましたが、そうでない人たちもいるだろうなとは思ってます」

「どうしても手の届かない者は存在してしまいますからな。 口惜しいですが……」

「では、その手を大きくする手助けを僕もこれからしようと思います」

「どういう事?」

「僕が作る料理はこの辺りでは珍しくて、ありがたいことにレシピ登録したものは全てとても売れているんです。 なので、僕の口座にも売り上げが振り込まれてるんですけど、それはもう個人で持つのが烏滸がましいレベルなんですよ。 だから、孤児対策のための寄付をしようかと。 使い道にも困ってましたから」

「それは…… なんとも高尚なお考えですな」

「シュージは凄い。 そんなこと出来る人は中々いない」

「全てを救えないのは悔しくもありますが、1人でも多くの孤児が前を向けるようになると僕としても嬉しいですから」

「ますますシュージに興味が湧いた。 おじいちゃん、早く帰って色々と済ませよ」

「はは、分かった。 では、シュージ殿、今日はこの辺で。 また何か決まったら連絡をしたいのですが、どちらにすればいいですかな?」

「僕は蒼天の風というギルドに所属していますから、そちら宛に手紙を送ってくれれば」

「ほう! あの高名な蒼天の風に属しているのですね。 それなら、ゴネるであろう教国の上層部も黙らせれるかもしれません」

「シュージも良かったら教国に遊びに来て。 色々案内してあげる」

「はは、ありがとうございます」


 こうしてまたひょんなことから人脈を広げたシュージは、この先起こる事に対して思いを馳せるのであった。
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