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#63 念願の生魚料理

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 潮騒の花の料理番であるセリアとミドリと知り合い、その話の流れでシュージは厨房まで案内された。

 ちなみに一緒にいたキリカは旅で少し疲れているからと言って、部屋に戻っていった。


「それで、今日は何を作るんですか?」

「今日は歓迎も兼ねてるっすから、いつもより少し豪華目っす! ホッケとか鯛の塩焼き、レッドシャークは網焼きにして、ドリルスクイードも使おうかな?」


 どうやらこの世界にもシュージの世界にいた魚はいるようだが、肉類と同じで魚の魔物も普通に食べられているようだ。

 あと、普通に新鮮な魚を生で食べる文化もあるそうで、蒼天の風のメンバーもそういった魚料理に忌避感は無いと旅の途中で聴いていた。


「主食は何を使いますか?」

「うーん、パスタにするっすかね?」

「ライスは食べないんですか?」

「ライスっすか? ウチでは使った事ないっすね。 なんだか最近、ライスの美味しい料理が開発されたみたいな噂は聞いたっすけど」


 どうやら、沿海州にはまだライスを食べる文化が無いらしい。

 一応、おにぎりのレシピなどは広まっているようだが。


「あ、良かったらシュージさんも好きな料理作っていいっすよ?」

「いいんですか?」

「はいっす! シュージさんがこっちの食材でどんな料理作るのか気になりますし!」

「僕も見てみたいです」

「分かりました。 冷蔵庫の食材は使ってもいいですか?」

「どうぞどうぞ! お好きに使っていいっすよ!」


 なんとも太っ腹な提案をしてもらえたので、シュージはとりあえず、腰に提げている収納袋から大きな炊飯器を二つ取り出した。


「わっ、それなんですか?」

「これはライスを柔らかくする道具ですよ。 一応持ってきておいて良かったですね」


 シュージの収納袋には、炊飯器を始め色々と料理に役立つ道具や食器、何なら食材や調味料まで沢山入っていて、旅先でも十分な料理が可能になっているのだ。

 貴重な収納袋をそんな使い方するのはこの世界でシュージくらいかもしれないが。

 とりあえずシュージは出した炊飯器に同じように持ってきておいたライスを取り出して炊き始め、冷蔵庫の中からいくつか食材を拝借していく。

 その内容は、一旦魔物食材は避け、前世で扱っていたもの中心にする。

 魔物食材は今日も含めてこちらで色々と食べてみて、扱い方を学んでから使おうと思う。


「いやー、どれも新鮮で良いですね」

「何だかシュージさん、嬉しそうっすね?」

「それはもう! 僕の故郷では生魚が結構身近で、僕も好きでしたから,作るのも食べるのも楽しみなんです」


 その言葉通り、シュージは今回、私欲込みで生魚料理を作る事にした。

 ただ、あくまでもメインはセリアとミドリが作る料理なので、シュージが作るのは一品料理だ。

 ライスも人数的に各自、茶碗一杯分くらいが行き渡るくらいしか無いし。

 そんな中でシュージが選んだのは、まず定番のマグロ、サーモン、そしてイカの3種。

 どれも手頃なサイズ感で柵状になっていたので、それらをお刺身サイズに切り分けていく。

 続けて、立派な鯛もあったので手早くおろし、身の部分に軽く塩を振って少し置いておく。


「わっ、シュージさん、魚おろすの上手いですね」

「故郷の食堂で働いていた時に、よく扱っていましたからね」

「僕も最近ようやくまともになって来ましたけど、シュージさんの手際には全然及びません。 時間がある時にでも教えてもらえませんか?」

「もちろんですよ。 逆に僕は魔物食材にあまり詳しくないので、そちらについて教えてくれると嬉しいです」

「分かりました」


 ミドリは真面目な少年のようで、素直にシュージに教えを乞うてきた。

 ただ、料理番として認めてもらっている事もあって、その包丁さばきなどは十分に立派で、ミリアに関してはシュージと同じくらい魚を扱うスピードは早かった。

 逆にミリアとミドリからしたら、話に聞いていた通り、シュージがかなり腕の立つ料理人であることが分かって、そんなシュージがどんな料理を作るのか、とても楽しみにしていた。

 そんなシュージは、塩を振って置いておいた鯛の水気を拭き取り、削ぎ切りにして人数分の小皿に3切れずつ並べていき、ミョウガ、小ネギ、青じそを刻んで上に散りばめていく。

 そして、醤油、酢、オリーブオイル、塩胡椒を合わせてタレを作り、鯛の上に少量振りかけたら、和風カルパッチョの完成だ。

 そうこうしている内にライスも炊けたので、ライスを人数分の茶碗によそい、その上にマグロ、サーモン、イカを交互に2切れずつ並べる。

 これでも十分美味しそうだが、ちょっと物足りなさを感じたので、アジを何匹か拝借して手早くおろし、骨を抜いたら、先程使って少し余ったミョウガと青じそ、小ネギと味噌と一緒に細かくたたいていく。

 そうして出来上がったアジのなめろうを、マグロなどの刺身の中央に小山のようにして持ったら、ミニ海鮮丼の出来上がりだ。


「おぉー、美味しそうっすね!」

「並べ方も綺麗で凄いです」

「はは、ありがとうございます。 セリアさんとミドリさんの作った料理も美味しそうですね」


 シュージが色々と作っている間に、セリア達の方も海鮮パスタや大きな魚の魔物の塩焼き、サラダなどもしっかり作り終えていた。

 その出来はどれも素晴らしいもので、シュージからしても食べるのが楽しみだった。

 と、丁度ご飯ができたタイミングで、潮騒の花、蒼天の風のメンバーが少しずつ食堂に集まってきた。

 どうやら、今日はこの時間くらいに夕飯だと伝えられていたようだ。

 そんな集まってきたメンバー達に、お盆に乗せた一人前の夕飯を渡していく。

 それが全員に行き届いたら、ジルバートとパナセアがエールの入ったグラスを持って前に出てきた。

 その2人にシュージはちょいちょいと手招きされたので、シュージも前に出た。

 曰く、見慣れない料理があるから説明してほしいそうだ。


「えー、初めまして皆さん。 僕は蒼天の風に最近入った用務員のシュージと申します。 そちらの白身は鯛のお刺身をさっぱりとしたタレと薬味で食べるカルパッチョという料理で、もう一つのお椀に入ったものは、ライスの上に各種お刺身とアジと薬味と味噌を混ぜてたたいたなめろうという料理が乗った海鮮丼です。 海鮮丼には各自でお醤油などをかけてどうぞ」

「シュージ、ありがとう。 では、改めてこれから1週間ほど世話になる。 よろしく頼むよ」

「こちらこそ、良い時間になる事を願っております」

「「乾杯」」

「「「「かんぱーい!!!」」」」


 両ギルドマスターの音頭により、あちこちでグラスを合わせる音が鳴り響き、夕飯がスタートした。

 まずは皆んな、物珍しさからかシュージの作った料理を口に入れていく。


「おおっ!? このカルパッチョ、あっさりしてて食べやすいな!」

「海鮮丼もすげーぞ!刺身とライスってこんなに合うんだな!」

「地味にこのちょっと乗ってるなめろうが美味い! 酒が進む!」


 結果、潮騒の花のメンバーは一瞬でシュージの作る料理の虜になった。


「わぁ、本当に美味しいっす! なんでもっと前からライス使ってこなかったんすかねー?」

「カルパッチョも、すごく沢山薬味が使われてて、タレも色んな調味料が調和してる…… すごいですね、シュージさん」


 それはセリアとミドリも例外ではなく、同じ料理人としてシュージの事を改めて尊敬の眼差しで見るようになっていた。
 

「シュージさん、ライスを使った海産物の料理は他にもあるんですか?」

「沢山ありますよ。 今回の海鮮丼も、他にも色んな海鮮を乗せて作れますし」

「これだけでも沿海州に新たな名物ができそうですね。 そうしましたら、もしシュージさんのタイミングが合えばでいいので、この街の漁や海産物を取り扱う店や食事処の管理をしている組合がありますから、そこで色んな料理を教えてくださいませんか?」

「もちろん構いませんよ。 かなりの量の海産物を買い込もうと思ってますし」

「ふふ、分かりました。 明日にでも伝えておきますね」


 パナセアともそんな約束をし、沿海州での1日目はとても賑やかに過ぎていくのであった。
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