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#61 野営のお供に温かいスープを
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沿海州へ出発してからかなりの時間が経過し、そろそろ日が落ちようかというタイミング。
ゆっくりと進んでいた馬車は現在更にゆっくりと進んでいて、野営できそうな場所を探していた。
「うーん、この辺とかでいいんじゃないか?」
「そうだね。 開けてるし」
「先程向こうに川もありましたから」
「ここでいいのか?」
「「「はい!」」」
そして、野営の場所は勉強として、見習い組が決める事になっていた。
冒険者をしていると、野営する事も少なく無いので、野営に適した場所を見つけるというのも、冒険者の必須スキルなのだ。
選ぶ場所の基本は、開けていて魔物などの奇襲を受けなさそうな事が第一で、使えそうな水場などもあるとベストとされている。
「ふむ、悪くないな。 よし、今日はここを野営地点にするぞ。 各自、テントやテーブルなどの用意を」
ジルの号令で馬車が止まり、皆んなが野営の準備を始めた。
それぞれテントを立てたり、折りたたみ式のテーブルを組み立てたり、篝火を焚いたり、馬を繋ぎ止めたりしていく。
それらの道具はギルドが所有している収納袋に全て入っており、人数もあってか割とすぐに立派な野営拠点が出来上がった。
「では、食事の用意をシュージは頼む。 見習い組はその手伝い。 他は辺りの見回りだ」
「分かりました」
一応、この辺りは道も整備されていて、魔物も定期的に間引かれているのでそこまで危険は無いが、一応辺りの警戒は欠かさずに行う。
まぁ、その辺の魔物が来たところで世界トップレベルの冒険者ギルドのメンバー達なので、何の問題も無いのだが。
「シュージ、何作るんだ?」
「では、こういった野営で作りやすいようなものを教えますね」
今回は収納袋があるのでやろうと思えばいつものような手の込んだ料理も作れなくは無いが、それだと勉強にならないので、こういった野営でも用意できるような食事を作っていく。
「まずはお湯を大鍋に沸かして、じゃがいも、にんじんの皮剥きをしましょう」
「じゃあ、それはオイラがやるよ」
「私も」
「で、こちらの干し肉を食べやすいサイズに切りましょう」
「分かった!」
最近はもう、見習い組もだいぶ料理に慣れてきて、シュージが細かく指示しなくとも自分達で役割分担をして料理に取り組むようになっていた。
そんな見習い組の成長した姿にほっこりしつつ、皮剥きを終えたジャガイモとにんじん、あと玉ねぎを食べやすいサイズに切り分け、鍋の方にコンソメ顆粒を入れておく。
そして、干し肉を先に鍋に入れ、ある程度柔らかくなってきたら野菜も入れ、しばらく煮込んでいく。
「本当に簡単ですね?」
「これはポトフと言って、割とどんな野菜や肉類でも入れられますから、旅先ではとても役に立つ料理ですね」
そう、今回作っていたのはポトフで、シュージの言った通りポトフは手順はとても簡単だが野菜も肉もしっかりと取れる料理として、古くから重宝されていた料理だった。
起源は確かフランスで、ポトが鍋、フが火という意味になっており、合わせて火にかけた鍋料理という意味だったような。
「野営の食事は基本、スープ中心になると聞いてましたしね」
「派手に肉焼いたりすると、煙とか肉の匂いで魔物が寄ってきちゃうからね」
「魔物は肉食だからなー」
そんな会話をしているうちにも、じっくりコトコトとポトフが煮込まれていき、見回りを終えたメンバーが帰ってくる頃にはしっかりと出来上がっていた。
「今日はポトフという煮込み料理を作りました。 たくさん作りましたから、パンと一緒にどうぞ」
主食としては持ち運びが楽なパンが今回たくさん用意されており、それもあってポトフにしたのもある。
どちらかと言えばポトフには米よりパンの方が合うと思うので。
「美味しいですね、このスープ」
「グレースさんにも気に入ってもらえて良かったです」
「ふふ、旅先の野営でこんなに美味しいものが食べられると、やる気が出ますね」
「手順自体は物凄く簡単なんですよ、これ」
「それなら、今度遠出する時には試してみたいですね」
「ぜひぜひ。 ……あ、そうだ」
しっかりとポトフを皆んなで食べている中、シュージは自分の収納袋からある物を取り出した。
「すみません、お腹に余裕ある方にちょっと協力してもらいたいのですが……」
シュージがそう言うと、大半が手を挙げた。
「では、こちらを」
「シュージさん、これは? 食べ物ですかね?」
「これは今、マルゥさんとメルゥさんと試作している、お湯を注ぐだけで作れるスープです。 今回は出発前にアンネリーゼさんにも協力してもらいました」
そう、今回シュージが用意したのは、日本ではお馴染みのフリーズドライで作られたスープの素だ。
以前、マルゥとメルゥが遊びに来た時に、こんなものもあるんですよ~と何気なく話したところ、「それは絶対に売れますー!」と凄まじい勢いで食いつかれ、あれよあれよと言う間に試作する事になったのだ。
その時に作ったのは、ナスが入った味噌汁と、ほうれん草が入った味噌汁、あと卵スープの3種類で、それを皆んなに配って作ってもらった。
「すげー! お湯注いだだけでスープできた!」
「これは…… うん、味もいつも飲んでるシュージさんのスープと変わりませんね。 美味しいです」
結果、そのスープは大好評で、冒険者視点で言うとやはり、お湯を用意するだけでこんなに美味しいスープが飲めるというのは、かなりの衝撃であり嬉しいことのようだ。
「シュージのアイデアには驚かされるな」
「はは、こんなに喜んでもらえるとは思いませんでした」
「これもそのうち売り出すのか?」
「そうですね。 マルゥさんとメルゥさんがかなり乗り気なので、割とすぐにでも」
「これは売れるだろうな。 冒険者だけじゃなく、一般家庭にも受け入れられるだろう」
その後、温かいスープでしっかりと体を温めた一行は、夜の番などもしっかり順番でこなしつつ、野営の時間を過ごしていくのであった。
ゆっくりと進んでいた馬車は現在更にゆっくりと進んでいて、野営できそうな場所を探していた。
「うーん、この辺とかでいいんじゃないか?」
「そうだね。 開けてるし」
「先程向こうに川もありましたから」
「ここでいいのか?」
「「「はい!」」」
そして、野営の場所は勉強として、見習い組が決める事になっていた。
冒険者をしていると、野営する事も少なく無いので、野営に適した場所を見つけるというのも、冒険者の必須スキルなのだ。
選ぶ場所の基本は、開けていて魔物などの奇襲を受けなさそうな事が第一で、使えそうな水場などもあるとベストとされている。
「ふむ、悪くないな。 よし、今日はここを野営地点にするぞ。 各自、テントやテーブルなどの用意を」
ジルの号令で馬車が止まり、皆んなが野営の準備を始めた。
それぞれテントを立てたり、折りたたみ式のテーブルを組み立てたり、篝火を焚いたり、馬を繋ぎ止めたりしていく。
それらの道具はギルドが所有している収納袋に全て入っており、人数もあってか割とすぐに立派な野営拠点が出来上がった。
「では、食事の用意をシュージは頼む。 見習い組はその手伝い。 他は辺りの見回りだ」
「分かりました」
一応、この辺りは道も整備されていて、魔物も定期的に間引かれているのでそこまで危険は無いが、一応辺りの警戒は欠かさずに行う。
まぁ、その辺の魔物が来たところで世界トップレベルの冒険者ギルドのメンバー達なので、何の問題も無いのだが。
「シュージ、何作るんだ?」
「では、こういった野営で作りやすいようなものを教えますね」
今回は収納袋があるのでやろうと思えばいつものような手の込んだ料理も作れなくは無いが、それだと勉強にならないので、こういった野営でも用意できるような食事を作っていく。
「まずはお湯を大鍋に沸かして、じゃがいも、にんじんの皮剥きをしましょう」
「じゃあ、それはオイラがやるよ」
「私も」
「で、こちらの干し肉を食べやすいサイズに切りましょう」
「分かった!」
最近はもう、見習い組もだいぶ料理に慣れてきて、シュージが細かく指示しなくとも自分達で役割分担をして料理に取り組むようになっていた。
そんな見習い組の成長した姿にほっこりしつつ、皮剥きを終えたジャガイモとにんじん、あと玉ねぎを食べやすいサイズに切り分け、鍋の方にコンソメ顆粒を入れておく。
そして、干し肉を先に鍋に入れ、ある程度柔らかくなってきたら野菜も入れ、しばらく煮込んでいく。
「本当に簡単ですね?」
「これはポトフと言って、割とどんな野菜や肉類でも入れられますから、旅先ではとても役に立つ料理ですね」
そう、今回作っていたのはポトフで、シュージの言った通りポトフは手順はとても簡単だが野菜も肉もしっかりと取れる料理として、古くから重宝されていた料理だった。
起源は確かフランスで、ポトが鍋、フが火という意味になっており、合わせて火にかけた鍋料理という意味だったような。
「野営の食事は基本、スープ中心になると聞いてましたしね」
「派手に肉焼いたりすると、煙とか肉の匂いで魔物が寄ってきちゃうからね」
「魔物は肉食だからなー」
そんな会話をしているうちにも、じっくりコトコトとポトフが煮込まれていき、見回りを終えたメンバーが帰ってくる頃にはしっかりと出来上がっていた。
「今日はポトフという煮込み料理を作りました。 たくさん作りましたから、パンと一緒にどうぞ」
主食としては持ち運びが楽なパンが今回たくさん用意されており、それもあってポトフにしたのもある。
どちらかと言えばポトフには米よりパンの方が合うと思うので。
「美味しいですね、このスープ」
「グレースさんにも気に入ってもらえて良かったです」
「ふふ、旅先の野営でこんなに美味しいものが食べられると、やる気が出ますね」
「手順自体は物凄く簡単なんですよ、これ」
「それなら、今度遠出する時には試してみたいですね」
「ぜひぜひ。 ……あ、そうだ」
しっかりとポトフを皆んなで食べている中、シュージは自分の収納袋からある物を取り出した。
「すみません、お腹に余裕ある方にちょっと協力してもらいたいのですが……」
シュージがそう言うと、大半が手を挙げた。
「では、こちらを」
「シュージさん、これは? 食べ物ですかね?」
「これは今、マルゥさんとメルゥさんと試作している、お湯を注ぐだけで作れるスープです。 今回は出発前にアンネリーゼさんにも協力してもらいました」
そう、今回シュージが用意したのは、日本ではお馴染みのフリーズドライで作られたスープの素だ。
以前、マルゥとメルゥが遊びに来た時に、こんなものもあるんですよ~と何気なく話したところ、「それは絶対に売れますー!」と凄まじい勢いで食いつかれ、あれよあれよと言う間に試作する事になったのだ。
その時に作ったのは、ナスが入った味噌汁と、ほうれん草が入った味噌汁、あと卵スープの3種類で、それを皆んなに配って作ってもらった。
「すげー! お湯注いだだけでスープできた!」
「これは…… うん、味もいつも飲んでるシュージさんのスープと変わりませんね。 美味しいです」
結果、そのスープは大好評で、冒険者視点で言うとやはり、お湯を用意するだけでこんなに美味しいスープが飲めるというのは、かなりの衝撃であり嬉しいことのようだ。
「シュージのアイデアには驚かされるな」
「はは、こんなに喜んでもらえるとは思いませんでした」
「これもそのうち売り出すのか?」
「そうですね。 マルゥさんとメルゥさんがかなり乗り気なので、割とすぐにでも」
「これは売れるだろうな。 冒険者だけじゃなく、一般家庭にも受け入れられるだろう」
その後、温かいスープでしっかりと体を温めた一行は、夜の番などもしっかり順番でこなしつつ、野営の時間を過ごしていくのであった。
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