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#50 炊き出しにはおにぎりと豚汁を
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「ふぅ、こんな感じですかね」
「いやー、助かったよお兄さん!」
ヤタサの街の防壁近くでは、炊き出しをするためのテントの設営が行われていて、シュージはその手伝いを行なっていた。
この場にいるのはシュージ以外ほとんどが女性で、話を聞くと冒険者や衛兵達の家族や妻、子供の方達だそうだ。
そんな状況なので、力のいるテント設営は難儀していたのだが、シュージが来てからはあっさりとテント設営が終わった。
「では、集まってもらっても良いですか?」
そして、この場はキリカが推薦した事でシュージが取り仕切る手筈になっていて、一先ずシュージはこの場にいる人達を集めた。
「今回、炊き出し所の担当になりました蒼天の風で働くシュージと申します。 これから作るものの説明をしますので、見ていてください」
炊き出し所にいるには違和感のある厳つい風貌をしたシュージだったが、冒険者や衛兵の身内なだけあって、そのような風貌にも慣れているのか、周りの女性陣はむしろ頼りになる男がいてくれて幸運ぐらいに思ってくれていた。
「今回作るのは手早く食べれてお腹に溜まるおにぎりと豚汁という料理になります。 おにぎりの方は皆さんご存知かもしれませんが、豚汁はご存知無いと思うので、これから僕が作りますね」
スタンピードは数日にかけて続く災害ということもあって、戦う者達はローテーションを組んで戦うことになっている。
なので、これからひっきりなしに炊き出し所には人が来ることが予想され、あんまり作るのに手間のかかる料理や、食べにくい料理は好まれないだろう。
という事で、片手で食べれるおにぎりと、汁物だが具材を沢山入れれば満足感のある豚汁を作ることにした。
「まず、この大鍋に油を敷いて、オーク肉、じゃがいも、にんじん、大根、あとこちらのごぼうという食材を炒めていきます」
今回、豚汁を作るという事は事前に伝えており、必要な食材はマルゥとメルゥのケットシー商会を通じて大量に仕入れさせてもらった。
その中には、ズズムとハナエのような知り合いの農家が育てた野菜などもあり、この街の色んな人が今回のスタンピードの収束に向けて協力しているのだと思うと、何だか誇らしい気分になるシュージだった。
「粗方この野菜と肉に火が通ったら、水とこちらの粉をこれぐらい入れてください」
「その粉はなんですか?」
「これは僕が作った、色んな食材の旨味を抽出した出汁というものを粉状にしたものです。 今度、商会で売り出すそうなので、今回食べてみて気に入ったらぜひ使ってみてください」
図らずとも宣伝のようになったが、以前からシュージが使っていた顆粒出汁の生産体制がようやく整ったようで、近いうちに売り出すとマルゥとメルゥに聞いていた。
シュージもこれまでは時間をかけて手作りしていたが、試作品を確かめてみたところ、シュージが作ったものと大差なかったので、これからはそちらを買うつもりだ。
「水が煮立ってきたら少しアクが出ますから、それを取って、蓋をして10分ほど煮ていきます」
あまり料理に自信のない人もいたようだが、豚汁の簡単な料理手順を聞いて、これなら大丈夫そうだと、皆んな胸を撫で下ろしていた。
「そして、煮終わったら最後にこちらの味噌を溶き入れて完成です。 皆さん朝ごはんまだですよね? 良ければ食べてみてください」
早朝の呼び出しということもあり、皆んな朝ごはんはまだのようだったので、シュージは一人一人に豚汁をよそって提供していった。
「おお、美味しいね!」
「優しい味わいです!」
「具材も沢山ありますから、これだけでも十分なくらいです」
豚汁を初めて食べる女性陣にもお墨付きをもらえ、その後はおにぎりについても説明していく。
今回はおかかと昆布を混ぜ込んだおにぎりと、シンプルな塩おにぎりの3種類を用意し、ライスはそれはもう大量に用意したので、おかわり自由にする事にしている。
これで各自、自分の食べる量は調節してもらえるだろう。
「きゃああっ!? な、なんでここにっ……!」
と、これからいざ炊き出しをしようかというタイミングで、すぐそこから悲鳴が上がった。
慌ててそちらに目を向けると、かなり大きいホブゴブリンが1人の女性ににじり寄っていた。
その100メートルほど後ろからは血相を変えた衛兵の者が走ってきていて、恐らく討ち漏らしが侵入してきてしまったのだろう。
「ギヒ……」
「や、やだっ、来ないでっ……」
「待てぇっ!」
「ギャ!?」
恐怖からか足をもつらせて転んでしまった女性に対し、ホブゴブリンが下卑た目を向けて手を伸ばした所に、腰に提げていたガントレットを装備したシュージが割り込んでいった。
「ゲギャ!」
そんなシュージに対し、ホブゴブリンは持っていた棍棒を躊躇なく振り下ろしてきた。
「ふんっ!」
「ギャッ!?」
だが、それをシュージは着けていた左のガントレットでガンッと弾くと、体勢を崩したホブゴブリンに向かって大きく一歩踏み込んだ。
「おおおっ!!」
ドゴォォッ!!
「グギャァァァァ!?」
そんな踏み込みから放たれたのは、シュージの必殺技である右ストレート。
それがホブゴブリンに命中すると、拳がぶつかったとは思えないくらいの凄まじい激突音が鳴り響き、ホブゴブリンの骨や肉を粉砕して、数十メートル程吹き飛ばしていった。
「おお……」
その威力に他でもないシュージも驚いていて、ジンバやミノリが言っていた、装備に組み込まれた魔法により、パンチの威力が凄まじいものになっていた。
恐らくは身体強化系の魔法だと思うが、こんなにも変わるものかと改めて魔法の凄さを実感するシュージだった。
「あっ、大丈夫でしたか?」
「は、はいっ! 助けてくださり、ありがとございました」
「いえいえ」
「お兄さん、強いねぇ!」
「かっこよかったよ!」
「はは、ありがとうございます」
突然の魔物の襲撃にパニックになりかけた女性陣だったが、シュージの活躍によって安心してくれたようだった。
その後、慌てて来ていた衛兵達にもとても感謝され、2度は無いようにすると宣言されたので、恐らくもう大丈夫だろう。
「よし、気を取り直して炊き出しの準備をしていきましょう」
それからシュージ達は、大量の炊き出しを用意していき、戦いを終えた者達に振る舞っていった。
尚、おにぎりも豚汁も食べやすくてとても美味しい事もあって、冒険者も衛兵達にもしっかりと英気を養ってもらえたのであった。
「いやー、助かったよお兄さん!」
ヤタサの街の防壁近くでは、炊き出しをするためのテントの設営が行われていて、シュージはその手伝いを行なっていた。
この場にいるのはシュージ以外ほとんどが女性で、話を聞くと冒険者や衛兵達の家族や妻、子供の方達だそうだ。
そんな状況なので、力のいるテント設営は難儀していたのだが、シュージが来てからはあっさりとテント設営が終わった。
「では、集まってもらっても良いですか?」
そして、この場はキリカが推薦した事でシュージが取り仕切る手筈になっていて、一先ずシュージはこの場にいる人達を集めた。
「今回、炊き出し所の担当になりました蒼天の風で働くシュージと申します。 これから作るものの説明をしますので、見ていてください」
炊き出し所にいるには違和感のある厳つい風貌をしたシュージだったが、冒険者や衛兵の身内なだけあって、そのような風貌にも慣れているのか、周りの女性陣はむしろ頼りになる男がいてくれて幸運ぐらいに思ってくれていた。
「今回作るのは手早く食べれてお腹に溜まるおにぎりと豚汁という料理になります。 おにぎりの方は皆さんご存知かもしれませんが、豚汁はご存知無いと思うので、これから僕が作りますね」
スタンピードは数日にかけて続く災害ということもあって、戦う者達はローテーションを組んで戦うことになっている。
なので、これからひっきりなしに炊き出し所には人が来ることが予想され、あんまり作るのに手間のかかる料理や、食べにくい料理は好まれないだろう。
という事で、片手で食べれるおにぎりと、汁物だが具材を沢山入れれば満足感のある豚汁を作ることにした。
「まず、この大鍋に油を敷いて、オーク肉、じゃがいも、にんじん、大根、あとこちらのごぼうという食材を炒めていきます」
今回、豚汁を作るという事は事前に伝えており、必要な食材はマルゥとメルゥのケットシー商会を通じて大量に仕入れさせてもらった。
その中には、ズズムとハナエのような知り合いの農家が育てた野菜などもあり、この街の色んな人が今回のスタンピードの収束に向けて協力しているのだと思うと、何だか誇らしい気分になるシュージだった。
「粗方この野菜と肉に火が通ったら、水とこちらの粉をこれぐらい入れてください」
「その粉はなんですか?」
「これは僕が作った、色んな食材の旨味を抽出した出汁というものを粉状にしたものです。 今度、商会で売り出すそうなので、今回食べてみて気に入ったらぜひ使ってみてください」
図らずとも宣伝のようになったが、以前からシュージが使っていた顆粒出汁の生産体制がようやく整ったようで、近いうちに売り出すとマルゥとメルゥに聞いていた。
シュージもこれまでは時間をかけて手作りしていたが、試作品を確かめてみたところ、シュージが作ったものと大差なかったので、これからはそちらを買うつもりだ。
「水が煮立ってきたら少しアクが出ますから、それを取って、蓋をして10分ほど煮ていきます」
あまり料理に自信のない人もいたようだが、豚汁の簡単な料理手順を聞いて、これなら大丈夫そうだと、皆んな胸を撫で下ろしていた。
「そして、煮終わったら最後にこちらの味噌を溶き入れて完成です。 皆さん朝ごはんまだですよね? 良ければ食べてみてください」
早朝の呼び出しということもあり、皆んな朝ごはんはまだのようだったので、シュージは一人一人に豚汁をよそって提供していった。
「おお、美味しいね!」
「優しい味わいです!」
「具材も沢山ありますから、これだけでも十分なくらいです」
豚汁を初めて食べる女性陣にもお墨付きをもらえ、その後はおにぎりについても説明していく。
今回はおかかと昆布を混ぜ込んだおにぎりと、シンプルな塩おにぎりの3種類を用意し、ライスはそれはもう大量に用意したので、おかわり自由にする事にしている。
これで各自、自分の食べる量は調節してもらえるだろう。
「きゃああっ!? な、なんでここにっ……!」
と、これからいざ炊き出しをしようかというタイミングで、すぐそこから悲鳴が上がった。
慌ててそちらに目を向けると、かなり大きいホブゴブリンが1人の女性ににじり寄っていた。
その100メートルほど後ろからは血相を変えた衛兵の者が走ってきていて、恐らく討ち漏らしが侵入してきてしまったのだろう。
「ギヒ……」
「や、やだっ、来ないでっ……」
「待てぇっ!」
「ギャ!?」
恐怖からか足をもつらせて転んでしまった女性に対し、ホブゴブリンが下卑た目を向けて手を伸ばした所に、腰に提げていたガントレットを装備したシュージが割り込んでいった。
「ゲギャ!」
そんなシュージに対し、ホブゴブリンは持っていた棍棒を躊躇なく振り下ろしてきた。
「ふんっ!」
「ギャッ!?」
だが、それをシュージは着けていた左のガントレットでガンッと弾くと、体勢を崩したホブゴブリンに向かって大きく一歩踏み込んだ。
「おおおっ!!」
ドゴォォッ!!
「グギャァァァァ!?」
そんな踏み込みから放たれたのは、シュージの必殺技である右ストレート。
それがホブゴブリンに命中すると、拳がぶつかったとは思えないくらいの凄まじい激突音が鳴り響き、ホブゴブリンの骨や肉を粉砕して、数十メートル程吹き飛ばしていった。
「おお……」
その威力に他でもないシュージも驚いていて、ジンバやミノリが言っていた、装備に組み込まれた魔法により、パンチの威力が凄まじいものになっていた。
恐らくは身体強化系の魔法だと思うが、こんなにも変わるものかと改めて魔法の凄さを実感するシュージだった。
「あっ、大丈夫でしたか?」
「は、はいっ! 助けてくださり、ありがとございました」
「いえいえ」
「お兄さん、強いねぇ!」
「かっこよかったよ!」
「はは、ありがとうございます」
突然の魔物の襲撃にパニックになりかけた女性陣だったが、シュージの活躍によって安心してくれたようだった。
その後、慌てて来ていた衛兵達にもとても感謝され、2度は無いようにすると宣言されたので、恐らくもう大丈夫だろう。
「よし、気を取り直して炊き出しの準備をしていきましょう」
それからシュージ達は、大量の炊き出しを用意していき、戦いを終えた者達に振る舞っていった。
尚、おにぎりも豚汁も食べやすくてとても美味しい事もあって、冒険者も衛兵達にもしっかりと英気を養ってもらえたのであった。
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