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#44 貴族との邂逅

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「シュージ、ちょっといいか?」

「はい、何でしょうか?」


 ある日、ジルバートがシュージに声をかけてきて、そのまま2人でギルドマスターの執務室に向かった。


「お前宛てに手紙だ」

「手紙ですか?」

「ああ。 差出人はセネルブルグ辺境伯と、そのご令嬢の連名になっている。 中身は見ていないが、一体いつの間に知り合ったんだ?」

「セネルブルグ…… ああ、シュミット様ですね。 この前のお祭りで知り合ったんですよ」

「祭りで? そうか、奇妙な縁もあったものだな」

「中を見ても?」

「ああ、もちろん」


 恐らくはセネルブルグ家の家紋であろう紋章が刻まれた封蝋を外し、中の手紙を手に取った。

 そこにはシュミットの親である辺境伯本人が書いたと思われる文字が綴られていて、簡単に内容を言うと、シュミットが世話になったからお礼がしたく、ぜひ我が家に来てくれないかという手紙だった。


「どうやらお呼ばれしていただいてるようですね」

「行くのか?」

「そうですね。 断る理由も無いですし、折角なら」

「そうか。 では、マルゥとメルゥと共に行くといい。 あいつらは貿易を生業にしている辺境伯とも付き合いがあるからな」

「確かに、1人だと少し不安ですし、ありがたいですね」

「俺も何度か依頼関係で会った事はあるが、貴族にしてはとても大らかで懐の深いお方だから、心配しなくて大丈夫だ」

「分かりました」



 *


 ジルバートとのそんなやり取りから2週間程経ち、シュージはヤタサの街から馬車で6時間程かかる辺境伯が治める街へとやってきた。

 厳密に言えばヤタサの街もセネルブルグ領ではあるが、実際に辺境伯が暮らしている事もあってか、人の数も賑わいもかなりのものだぅた。


「シュージ君、あそこに見えるのが辺境伯のお城ですよー!」

「もう少しで着きますからねー!」

「あれが…… とても立派な建物ですね」


 今回の馬車はマルゥとメルゥの商会の馬車を出してもらったので、非常に快適だった。

 初の馬車という事もあって、どんなものかと少し身構えていたのだが、馬車が優秀だったのか特に揺れなんかも無かった。


「ではでは、このまま辺境伯のお城に行きましょうかー!」

「分かりました」


 馬車は街に入ってからもゆっくりと進んでいき、大通りを抜けると、辺境伯の城が先ほどよりもはっきりと見えてきた。

 城とはいっても、地球にあった某有名テーマパークにあるような華美な城ではなく、辺境の守りも兼ねた城塞のような造りになっている建物だ。

 ただ、だからと言って無骨過ぎるわけでも無く、建物を見るだけでもそこで暮らす者の威厳が伝わってくるような気がした。

 そこを目指して馬車に揺られること15分ほど。

 馬車は辺境伯の城の前まで辿り着き、話が通っていたのか、そのまま門を潜って中庭のような場所まで通された。

 そこで馬車から降りると、出迎えがやってきた。


「シュージよ、良く来てくれたな」

「シュミット様、ご無沙汰してます」


 出迎えてくれたのは以前知り合ったシュミットで、今日は以前の町娘風の服装では無く、綺麗なドレスを身に付けていた。

 その隣にはシルビアもおり、ぺこりとシュージに向かって頭を下げてくれていた。


「マルゥにメルゥも息災じゃったか?」

「はいー! シュミット様もお変わりないようでー!」

「ちょっと背伸びましたー?」


 どうやらマルゥとメルゥとも顔馴染みなようで、仲睦まじげに言葉を交わしていた。


「では、ついて来てくれ。 父上の下へ案内しよう」


 そう言うシュミットにシュージ達は素直に付いていき、来賓用の部屋まで案内された。


「父上、到着したぞ」

「ああ、入りなさい」


 シュミットが扉をノックし声をかけると、中から男性の声が返ってきた。

 その後すぐに、傍付きのシルビアによって扉が開かれ、中に入ると貴族らしい服装に身を包んだ、見た目は30代前半くらいの男性と、同じくらいの歳のドレスを着た女性が立っていた。


「初めまして、シュージ君。 私はこのセネルブルグ領を治めるゼレスト・セネルブルグだ。 こちらは妻のミリアだよ」

「ミリア・セネルブルグでございます。 会えて嬉しいわ、シュージさん」

「ご丁寧にありがとうございます。 僕は蒼天の風で用務員を務めるシュージと申します」

「マルゥ君にメルゥ君もよく来たね」

「「ご無沙汰ですー!」」

「それじゃあ、立ち話も何だから座ろうか」


 簡単な挨拶を済ませたところで、一同はそれぞれソファに腰掛けた。

 それと同時に、城勤めのメイドさん達がテキパキと紅茶をそれぞれの前に用意してくれた。

 ちゃんとしたメイドさんを見るのは初めてだったもので、内心ちょっと感動するシュージだった。


「さて、話はシュミットから聞いているよ。 先日の祭りではシュミットが世話になったようだね」

「いえいえそんな。 偶然でしたし、大したことはしていませんよ」

「シュージ、あの時妾は内心結構不安だったんじゃ。 恥ずかしながらあまり1人でどこかに出かけるなんて事も無いからの。 だが、お主が気さくに声をかけてくれ、話し相手になってくれた事で落ち着けた。 だから、感謝しておるぞ」

「そうでしたか。 それならよかったです」

「今日呼んだのはその礼をしたくてね。 それに、君はとても優れた料理人だと聞いているから、単純に話もしてみたかったんだ」

「光栄です」

「まず、礼についてだが、君がどういうものを望む人か分からなくてね。 何か欲しい物とかはあるかい? 金品でも、珍しい魔道具とかでも何でもいいよ」

「そうですね…… 金品などは正直持て余してしまいそうなので、一つ要望をさせてもらってもいいですか?」

「もちろんだよ」

「ここにいるマルゥさん、メルゥさんとも以前に話していたことなのですが、もし良かったらセネルブルグ辺境伯家に僕の後ろ盾になっていただけないかと」

「ほう? それはどういうことだい?」

「僕からも説明しますよー! ずばり、シュージ君が作る商品やレシピなどはとても画期的で美味しくて魅力的なので、今後どこかの貴族やお国がシュージ君に干渉してくるかもしれませんー!」

「現状、僕達ケットシー商会と商業ギルドの一部の人間しかシュージ君の事は知りませんが、いずれ存在が明るみになってしまうかも知れませんー!」

「僕としてはあまり目立ち過ぎたくなくて、今の一用務員としての暮らしが気に入ってますから、今後他の貴族などの過度な干渉が起こらないように、サポートをしていただきたいなと思ってるんです」

「ふむ、なるほど。 マルゥ君とメルゥ君がそこまで太鼓判を押すなら相当なのだろうね」

「ただ、言葉だけじゃ決めかねるかと思いまして、ちょっとした差し入れというかお土産を用意してきました」


 シュージはそう言うと、マルゥとメルゥに借りた、時の流れがとても緩やかになる収納袋からある物を取り出すのであった。
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