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#29 断食後には回復食を
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――ボォン……!
「おや?」
シュージが今日もギルドの掃除に勤しんでいると、少し離れたところから、何かが爆発するような音が聞こえてきた。
このギルドは3階建てになっていて、横もかなり広めに作られており、端から端に行くにはそれなりに時間がかかる。
どうやら、今の音は今シュージがいる辺りの反対側から出たようなので、シュージは早足でそちらに向かった。
数分でその現場にたどり着くと、危険な物が結構置いてあるから、許可無しでは入ってはいけないと言われていたため、シュージはまだ入ったことのなかった製作室という場所の扉が空いており、中からはもくもくと煙が出ていた。
「おーい! 大丈夫ですかー!?」
「ケホッ…… だ、大丈夫ですー……」
シュージが声をかけると、中から髪がちょっと焦げたのかチリチリしている、白衣を着た青年が出てきた。
「おや、貴方は……?」
「あ、初めまして、シュージと申します。 最近、このギルドで雇われた用務員です」
「そうなんですね…… えっと、僕はシドと言います…… 先程帰ってきました……」
シドはどこか自信なさげで、猫背な姿勢をしている、ちょっと大丈夫かな? ってぐらい細身の青年だった。
「何をしていたんですか?」
「僕はアイテム士と呼ばれる職業で、ポーションや煙玉のような、冒険者が使うアイテムを作っています……」
「こんな風に爆発したりしてまで作るのは大変そうですね?」
「あ、いや、これは…… その、僕の趣味で新しいアイテム作ろうと試した結果です…… ポーションとか作る時はこんな風に爆発はしません……」
「あ、そうなんですね」
「ギルドの皆さんは慣れたのか、多少の爆発では来ませんし……」
そう言われてみると確かに、爆発音がしてもギルドのメンバーは誰もこちらに来ていなかった。
「ところで、体は大丈夫ですか? 怪我はしてなさそうですけど、隈もすごいし、頬もこけてて、ちょっと心配です」
「あぁー…… さっきこの国の王都の研究所から帰って来たんですけど、研究に没頭しすぎて3日くらいなにも食べてなくて……」
「うーん、それは良くありませんね。 食欲はありますか?」
「元々少食なのでそこまでは……」
「そうしたら、簡単な回復食を作って来ますね。 20分ほどで出来ますけど、持ってきた方が食べやすいですか?」
「あ、いえ…… 時間が分かってるなら、その時になったら食堂に行きます……」
「分かりました」
一旦シドと別れ、シュージは食堂のキッチンに向かった。
そこでまずは、冷凍しておいたご飯を取り出し、レンジは無いので蒸し器で解凍していく。
その間、小鍋に水と出汁、味噌を溶き入れ、具無しの味噌汁も作る。
「あれ、シュージさん、こんな時間に料理ですか?」
そうしていると、食堂の前を偶然通りかかったキリカが、カウンター席までやって来た。
「ああ、キリカさん。 そうですね、料理してます」
「何を作ってるんです?」
「シドさんがここ数日ご飯を食べていないそうなので、お腹に優しい回復食を作ってます」
「あー、またシドさんご飯抜いたんですね…… もうっ、ちゃんと食べなきゃダメと言ってるのに」
「結構あるんですか?」
「そうですね、作業に没頭したりすると、食事を忘れたりすることがあります」
「一食とかならまだしも、日が空いたりするのは良くありませんねぇ」
「まぁでも、シドさんはまだ、シュージさんのご飯食べてませんから! 一度食べたらきっと改善しますよ」
「はは、そうだといいですね」
「ちなみに、回復食ってなんなんですか?」
「回復食は、数日ご飯を食べてない人に向けた食べ物ですね。 いきなり油ものや香辛料がたくさん使われたものを断食後に食べると、胃や腸が驚いて体調を崩してしまいますから、お腹に優しいものを食べた方がいいんです」
「なるほど。 シュージさんは物知りですね」
キリカとそうな風に話していると、ご飯が蒸しあがったので、取り出して、味噌汁の隣で作っておいた、少量の出汁と塩を入れて沸かした水に浸していく。
今回はちょっと水の量を多めにしたお粥で、明日の朝昼は少しずつ水を減らしていき、夜には少し野菜などの固形物も食べていけばいいだろう。
「よし、できましたね」
「あのー……」
「あっ、シドさん。 丁度できましたよ」
「わざわざありがとうございます……」
「もう、シドさん、ご飯はちゃんと食べなきゃダメですよ! ただでさえ細くて体弱いんですから」
「ご、ごめんなさい、キリカさん……」
「ではこちらに。 熱いので息で冷ましながらゆっくりどうぞ」
シドを椅子に座らせ、その前にお粥と具無しの味噌汁を並べてあげた。
「いただきます…… んっ…… 熱い…… けど、優しい味ですね……」
「とりあえず、明日くらいまでは刺激の強いものは食べずに、消化に良いものを食べましょうね」
「分かりました……」
「残念ですねー、シドさん。 シュージさんのご飯はとっても美味しいのに、食べれないなんてー」
「そんなになんですか……?」
「それはもう! あんまり食べないシドさんでも、きっと食事が楽しみになりますよ!」
「そうだといいですね……」
「はは、シドさんに気に入ってもらえるよう頑張りますね」
「ありがとうございます、シュージさん…… この料理もとても美味しいです……」
「それは良かったです」
それから数日、シドには消化に優しい料理が振る舞われ、その後に提供された普通の料理にシドもしっかりと虜になり、以前よりはしっかりと食事を摂るようになったシドであった。
「おや?」
シュージが今日もギルドの掃除に勤しんでいると、少し離れたところから、何かが爆発するような音が聞こえてきた。
このギルドは3階建てになっていて、横もかなり広めに作られており、端から端に行くにはそれなりに時間がかかる。
どうやら、今の音は今シュージがいる辺りの反対側から出たようなので、シュージは早足でそちらに向かった。
数分でその現場にたどり着くと、危険な物が結構置いてあるから、許可無しでは入ってはいけないと言われていたため、シュージはまだ入ったことのなかった製作室という場所の扉が空いており、中からはもくもくと煙が出ていた。
「おーい! 大丈夫ですかー!?」
「ケホッ…… だ、大丈夫ですー……」
シュージが声をかけると、中から髪がちょっと焦げたのかチリチリしている、白衣を着た青年が出てきた。
「おや、貴方は……?」
「あ、初めまして、シュージと申します。 最近、このギルドで雇われた用務員です」
「そうなんですね…… えっと、僕はシドと言います…… 先程帰ってきました……」
シドはどこか自信なさげで、猫背な姿勢をしている、ちょっと大丈夫かな? ってぐらい細身の青年だった。
「何をしていたんですか?」
「僕はアイテム士と呼ばれる職業で、ポーションや煙玉のような、冒険者が使うアイテムを作っています……」
「こんな風に爆発したりしてまで作るのは大変そうですね?」
「あ、いや、これは…… その、僕の趣味で新しいアイテム作ろうと試した結果です…… ポーションとか作る時はこんな風に爆発はしません……」
「あ、そうなんですね」
「ギルドの皆さんは慣れたのか、多少の爆発では来ませんし……」
そう言われてみると確かに、爆発音がしてもギルドのメンバーは誰もこちらに来ていなかった。
「ところで、体は大丈夫ですか? 怪我はしてなさそうですけど、隈もすごいし、頬もこけてて、ちょっと心配です」
「あぁー…… さっきこの国の王都の研究所から帰って来たんですけど、研究に没頭しすぎて3日くらいなにも食べてなくて……」
「うーん、それは良くありませんね。 食欲はありますか?」
「元々少食なのでそこまでは……」
「そうしたら、簡単な回復食を作って来ますね。 20分ほどで出来ますけど、持ってきた方が食べやすいですか?」
「あ、いえ…… 時間が分かってるなら、その時になったら食堂に行きます……」
「分かりました」
一旦シドと別れ、シュージは食堂のキッチンに向かった。
そこでまずは、冷凍しておいたご飯を取り出し、レンジは無いので蒸し器で解凍していく。
その間、小鍋に水と出汁、味噌を溶き入れ、具無しの味噌汁も作る。
「あれ、シュージさん、こんな時間に料理ですか?」
そうしていると、食堂の前を偶然通りかかったキリカが、カウンター席までやって来た。
「ああ、キリカさん。 そうですね、料理してます」
「何を作ってるんです?」
「シドさんがここ数日ご飯を食べていないそうなので、お腹に優しい回復食を作ってます」
「あー、またシドさんご飯抜いたんですね…… もうっ、ちゃんと食べなきゃダメと言ってるのに」
「結構あるんですか?」
「そうですね、作業に没頭したりすると、食事を忘れたりすることがあります」
「一食とかならまだしも、日が空いたりするのは良くありませんねぇ」
「まぁでも、シドさんはまだ、シュージさんのご飯食べてませんから! 一度食べたらきっと改善しますよ」
「はは、そうだといいですね」
「ちなみに、回復食ってなんなんですか?」
「回復食は、数日ご飯を食べてない人に向けた食べ物ですね。 いきなり油ものや香辛料がたくさん使われたものを断食後に食べると、胃や腸が驚いて体調を崩してしまいますから、お腹に優しいものを食べた方がいいんです」
「なるほど。 シュージさんは物知りですね」
キリカとそうな風に話していると、ご飯が蒸しあがったので、取り出して、味噌汁の隣で作っておいた、少量の出汁と塩を入れて沸かした水に浸していく。
今回はちょっと水の量を多めにしたお粥で、明日の朝昼は少しずつ水を減らしていき、夜には少し野菜などの固形物も食べていけばいいだろう。
「よし、できましたね」
「あのー……」
「あっ、シドさん。 丁度できましたよ」
「わざわざありがとうございます……」
「もう、シドさん、ご飯はちゃんと食べなきゃダメですよ! ただでさえ細くて体弱いんですから」
「ご、ごめんなさい、キリカさん……」
「ではこちらに。 熱いので息で冷ましながらゆっくりどうぞ」
シドを椅子に座らせ、その前にお粥と具無しの味噌汁を並べてあげた。
「いただきます…… んっ…… 熱い…… けど、優しい味ですね……」
「とりあえず、明日くらいまでは刺激の強いものは食べずに、消化に良いものを食べましょうね」
「分かりました……」
「残念ですねー、シドさん。 シュージさんのご飯はとっても美味しいのに、食べれないなんてー」
「そんなになんですか……?」
「それはもう! あんまり食べないシドさんでも、きっと食事が楽しみになりますよ!」
「そうだといいですね……」
「はは、シドさんに気に入ってもらえるよう頑張りますね」
「ありがとうございます、シュージさん…… この料理もとても美味しいです……」
「それは良かったです」
それから数日、シドには消化に優しい料理が振る舞われ、その後に提供された普通の料理にシドもしっかりと虜になり、以前よりはしっかりと食事を摂るようになったシドであった。
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