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#15 魔法はすごい

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「あら、いい匂いがするわね」

「おや、アンネリーゼさん」


 コンソメを作り終えたタイミングで、アンネリーゼが食堂にやってきた。
 

「水を取りにきたのだけれど、シュージは何を作っていましたの?」

「コンソメというスープを作っていました。 これ単体でもスープとして使えますが、料理にも使えるんですよ」

「へぇ、綺麗なスープね」

「良ければ味見しますか? こちらの方の口に合うかも知りたいので」

「そういう事なら頂戴するわ」


 アンネリーゼに小皿によそったコンソメスープを渡した。


「いい匂い…… んっ! とっても美味しいわ! 今まで食べてきたどのスープより美味しい……」

「はは、良かったです。 時間をかけた甲斐がありました」

「作るのにどれくらいかかりますの?」

「うーん、今回のは大体6時間くらいでしたかね?」

「ろくっ……!? スープ一つ作るのに6時間もかけましたの……? そんなの、大貴族や王族が嗜むようなものじゃ……」

「そんな大袈裟なものではないですよ。 のんびりと鍋を眺めながら時間を過ごすのも楽しいですし」

「シュージは本当に料理が好きなのね……」

「そしたら、沢山作ったので、凍らせておきましょうか。 本当は粉末に出来たりしたら保存も効いて便利ですけど……」

「粉末に?」

「僕の故郷では、こういうコンソメとか鶏ガラのスープを、凍らせたり乾燥させたりして粉末状にしてたんですよ」

「ふーん。 シュージにはできないのかしら?」

「凍らせるのはまだしも、乾燥させるのは難しいですかねぇ。 自然乾燥ではなく、一気に水分を抜く感じじゃなければいけませんし」

「それなら、私がやって差し上げましょうか?」

「えっ、どうやってです?」

「まぁ、上手くできるか分かりませんから、期待はしないでくださいませ。 まず、『フリーズ』」


 そう言いながらアンネリーゼは、小皿に少し入ったコンソメを、魔法を使って一瞬で凍らせた。
 

「これを、『ドライ』」


 お次にドライという魔法をかけると、小皿に入ったコンソメは、一瞬でカラッカラの小さい板チョコみたいな形になった。


「おお、これは……!」

「どうかしら? 凍らせる魔法と乾かす魔法を使ってみたのだけれど」

「ちょっと待っててくださいね」


 シュージはカラカラになったコンソメをパキッと割り、ごく少量を口に放り込んだ。

 すると、凍らせて乾燥した事で凝縮されたコンソメの旨みが口の中にブワッと広がっていく。


「うん、これはすごいです! これを細かく砕けば、僕の故郷にあったものとほぼ同じものになりそうです!」

「お役に立てたかしら?」

「それはもう! これができるなら、次回はもっと沢山作ってもスペースを取りませんし、手間も省けます!」

「喜んでもらえて良かったわ。 そ、それでその……」

「あれ、どうしました?」

「結構こういう事をするのって、魔力操作とかを頑張らなきゃいけなくて……」


 アンネリーゼはそう言いながら、シュージに何かを期待するような目を向けてきた。
 

(アンちゃんの事は存分に甘やかして上げてください)


 そんなアンネリーゼを見て、以前キリカが言っていた事を思い出した。

 なので、シュージはちょっといいのかな? と思いつつ、アンネリーゼの頭にポンと手を置き、優しく頭を撫でた。


「ふわ……♡」

「アンネリーゼさん、とっても助かりました。 あんな魔法を使えてすごいですね」

「ふ、ふふんっ! 私にかかればこの程度、造作もありませんわっ! (し、シュージの手大っきくて、優しく撫でてくれて嬉しい……♡)」


 そう胸を張ってドヤ顔を浮かべるアンネリーゼは可愛らしく、シュージからしても年の離れた妹を可愛がってるような感覚だった。

 それから数分程、シュージはアンネリーゼの事を撫で続けた。

 アンネリーゼも満更でもないようで、それを素直に受け入れていた。
 

「頼もしいですね。 もし負担じゃなければ、また今度他のスープとかでも頼みたいんですが、いいですか?」

「ぜ、全然良いですわよっ。 これくらいなら魔力は大して使いませんし。 (また褒めて撫でてもらいたいし……!)」


 それからアンネリーゼに何回かに分けながらコンソメを固形にしてもらい、粉状にする作業も、アンネリーゼが風の魔法で空中に風のミキサーのようなものを作り出して、見事な粉末にしてくれた。

 そのことでもシュージはアンネリーゼを褒め称え、ちょっと恥ずかしがりつつも喜んでくれるアンネリーゼだった。
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